第85話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その10

 郁人と雅人が、母の日のプレゼントにゲームソフト(雅人が欲しい)を買って合流して、駅まで歩く中、あからさまに美月の様子が変なことに気がつく郁人が、美月に話しかけるが、郁人の事を悲しそうな表情で見た後に、なんでもないよと言って、トボトボと一人で歩く美月なのである。


 そんな美月を放っておけない郁人は、大丈夫かと、駆け寄り隣に付き添って、心配するのである。そんな、二人を美悠と雅人は後方から見ているのである。


「…悪いけど、少し速度落として…あんたに話あるのよね」

「……なんだよ? 話って……それより、姉貴の様子、ちょっと変じゃね」

「そのことで…話があるんだよね」


 美悠の発言に、不審がる雅人だが、美悠が歩く速度を緩めると、それに合わせる雅人なのである。前を放心状態で歩く美月と、それを心配そうにしている郁人との距離が離れるのである。


「なんだよ…話って」

「……私ね…お姉ちゃんに言ったよ…お兄ちゃんが好きって」

「……マジかよ…お前な!! いや……わりぃ……そっか…なんか、今日のお前…いつもと違って積極的だったもんな」


 最初は怒る雅人だったが、美悠の真剣な表情を見て、納得する雅人なのである。雅人は、美悠の気持ちを嫌と言うほど理解ができるのである。


「ねぇ……今日の二人見て…あんたどう思った? 正直に言って」

「……正直言って、兄貴の事が、許せなかった…姉貴に対して、いつも通りで……折角付き合いだしたんだし…もっと、こう…あるだろ」


 雅人は、不満を口にするのである。自分が、もし、美月と付き合ったら、絶対に、美月の前で美悠と話したりしないと思う雅人なのである。


「そうなんだ……私は逆かな……だって、普段通りの二人には、絶対に勝てないって思ってたのに……今の二人見てたら……それは、あんたも同じじゃない?」

「それは……」


 気持ちは、痛いほどわかる雅人は、黙ることしか出来ないのである。ただ、ジッと、美悠を見る雅人に、美悠は決意の眼差しを向ける。


「だからさ……雅人…今しかないと思うんだよね…私達の最後のチャンス…別に両想いになれるとは思ってない……絶対に付き合えないって…わかってるんだ…お兄ちゃんが私を選ぶこと何て絶対にないって…わかるよ……でもね、このまま、終わりたくないんだ…だって、どうせ、家族になるんだよ…私達……この想い…きちんと伝えないと…最後まで頑張って、納得して…きちんと終わらせよう」

「……美悠…お前……そーだよな…俺達の気持ち…きちんと伝えねーとな……これが最後だ……今度こそ、きちんと向き合わねーとな」


 美悠の真剣な想いを受けて、雅人も決断するのである。二人の初恋はまだ終わりじゃないのである。きちんと、最後まで頑張って、納得して、振られようと決意した二人の、報われない恋物語が始まるのである。






 体調の悪そうな美月の肩に手を伸ばして抱き寄せる郁人に、美月は、悲しそうな表情で郁人を見るのである。


「本当に大丈夫か?」

「うん……大丈夫だよ…一人で歩けるから…ごめんね」


 美月は、そう言って、郁人から離れるのである。そんな美月を心の底から心配する郁人なのである。


(…郁人が心配してくれてるのに…う、嬉しいって思っちゃダメだよ…美悠が郁人の事好きなのに……なのに…私は…)


 鈍い自分を責める美月は、今までの事を振り返ると、心がズキリと痛むのである。自分は妹になんて酷いことをしてきたのかと、私は、美悠の事を、知らないうちに傷つけて、泣かせてきたのだと、自覚した美月なのである。


 電車に乗って、駅について、帰るまで、四人は無言なのである。郁人は、ずっと美月の事を心配して、無言でずっと、隣に居るのである。そして、美月は、美悠に悪いと思いながらも、郁人が自分を気遣ってくれることに喜びを感じて、さらに罪悪感に苛まれるのである。


 美悠も雅人も、足取りが重いのである。特に雅人はずっと、美月の事を見ていて、ついに決断したのであった。そして、その雅人の決断と行動が、美月に更に追い打ちをかけることになるのである。


「姉貴…悪いけどさ…話があるんだよ…少しいいか?」


 家につくと、雅人は美月にそう言うのである。


「えっと……あれかな…やっぱり、何か相談があるのかな?」


 美月は無理やり笑顔を作って、雅人にそう言うと、雅人は頷くのである。


「美月…無理はするなよ……雅人も、美月に相談って今しないとダメなのか?」

「わりぃ…兄貴…今じゃないとダメなんだよ…姉貴…いいか?」

「いいよ……えっと、何かな?」

「……わりぃけど、兄貴達は先に帰っててくれないか?」


 雅人にそう言われ、郁人は美月が心配だが、美月と雅人を信じて、家に帰るのである。美悠も心の中で、雅人を応援して、家に帰るのであった。


「……姉貴…美悠に聞いた…あいつ、姉貴に言ったんだって…兄貴の事が好きってよ」


 雅人は、二人が家に入ったことを確認して、そう美月に話を切り出すのである。そんな雅人の発言に、目を見開いて驚きの表情を浮かべる美月なのである。


「……雅人君は…知ってたんだね…美悠が、郁人の事…その…好きだって」

「ああ…ていうか…言われなくてもわかるって…あいつ、わかりやすいぜ…兄貴くらい鈍感だと気付かねぇのかも知れねーけどさ」


 そうはっきり言われて、やはり、心臓に痛みが走る美月は、胸を押さえて、顔を伏せるのである。


「なぁ…姉貴…姉貴は俺の事…どう思ってる?」

「……雅人君の事? えっと…可愛い弟だと思ってるよ」


 美月は、優しい笑みを浮かべて、そう雅人に言うと、雅人は、歯を食いしばり、拳を握り締めて悔しさで震えるのである。


「そーだよな…わかってるぜ…わかってんだよ……そんなこと…なぁ…姉貴…わりぃけど、俺は…姉貴の事…ただの姉とは思ったことは一度もないんだ」


 そう雅人に言われて、驚く美月は、悲しそうな表情を浮かべて、顔を伏せるのである。


「そ…そっか…ご、ごめんね…そうだったんだね」


 落ち込む美月を、真剣な眼差しで見つめる雅人なのである、彼は、震えるのである。勇気を奮い立たせる雅人なのである。


「姉貴…俺は、姉貴の事…一人の女性として、ずっと好きだった…もちろん、何度も諦めようとしたけどさ……わりぃ…我慢できないんだ……兄貴に渡したくない……姉貴」

「ま、雅人君……あ、あの…それって…本当なの?」


 美月は、カタカタと震えて、怯えるのである。上手く息ができない美月は、胸を押さえるのである。


「ああ…本気だ…姉貴…俺は、姉貴の事が好きだ」


 そう真直ぐ、雅人に告白された美月は、数歩後ずさりして、何かを言おうとしたけど、何も思い浮かばないで、頭がクラクラして、真剣な雅人から、美月は、逃げ出すのである。


「…ご、ごめんね……ごめんね、雅人君」


そう言って、自分の家に駆けこんで、玄関の扉を閉めて、崩れ落ちる美月は、色々な感情があふれ出して涙を流すのである。


「……お姉ちゃん…ちゃんと、私達と向き合ってよね」


 そんな姉の美月を、階段の上から、ジッと見つめる美悠は、そうぼそりと独り言をつぶやくのであった。


 残された雅人は、夕焼け空を見上げて、本当にこれでよかったのかと、自問自答するが、心は少しすっきりした雅人なのであった。

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