第84話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その9

 やはり、午前中ではプレゼントを決められなかったので、時間も丁度いい感じにお昼になったため、ファミレスに入り、四人テーブルに座る。やはり、席順は、郁人と美月、雅人と美悠という組み合わせなのである。


 もちろん、美悠は郁人の隣を狙ってはいたのだが、姉の美月が素早く奥の席に座ったため、郁人は自然に美月の隣に座るのであった。


 美月の素早い行動の理由は、単純に郁人の隣に座りたいけど、郁人が座った後に、隣に座るのは恥ずかしいからである。なので、作戦通り、郁人が自然に自分の隣に座ってくれたことが嬉しい美月は、心の中でガッツポーズをするのである。


「はい、お姉ちゃんメニューね…ほら、あんたもさっさと選びなさいよね」


 美悠は率先して、二つあるメニュー表を手に取ると、一つを美月に渡して、もう一つを雅人に渡すのである。


「は? なんで、お前が俺にメニューを渡すんだよ?」


 いつもなら、美悠と雅人はメニューの取り合いになるのに、今回は素直に譲る美悠に、不信感を抱く雅人なのである。


「いいから、早く決めなさいよね」


 そんな、雅人を急かして、美悠は対面に座る郁人と美月を眺めるのである。


「じゃあ、選ぶか…どうした? 美月?」


 メニュー表を渡された美月は、郁人がメニューを見ようと近づいてきたため、メニュー表で顔を隠して、おろおろしだすのである。


「あ…う…そ、その…えっと…」

「ほら、美月…一緒にメニュー見ないのか?」

「そ、そ、そうだね」


 美月は、メニュー表をテーブルに置くと、やはり、耳まで真っ赤な美月の顔に、心配になる郁人なのである。


「美月…本当に大丈夫か? 熱でもあるんじゃないのか?」

「だ、だ、大丈夫だから…は、早く決めようよ」


 そう言って、郁人の方にメニュー表を渡して、遠くからメニューを眺める美月に、メニュー表を近づけて、自分も寄る郁人なのである。


「いいいいい、郁人、ち、近くない?」

「これぐらいじゃないと、メニュー見えないだろ?」


 顔を真っ赤にしながら、縮こまる美月は、郁人の顔をボーっと眺めるのである。


「美月? 何にする?」

「え!? あ…そっか、な、何にしようかな」


 もはや、美月はメニューどころの話ではないのである。郁人と触れ合う距離にドキドキが止まらず、郁人の顔を何度も見てしまう美月なのである。


 そんな、姉の美月の行動をジッと観察する美悠は、微笑みを浮かべるのである。


「お姉ちゃん…どうかしたの? 今日のお姉ちゃん、なんか変だよね?」

「い、いつもと変わらないよ! 何言ってるの美悠!」


 美悠の発言にあからさまに動揺する美月に、雅人も確かに様子がおかしいなと思うのである。


「美月…体調が悪いなら、早めに帰るか?」

「ほ、本当に大丈夫だから!」

「そうだね…お姉ちゃんは、お兄ちゃんに照れてるんだよね」


 にやりとそう言う美悠に、目を見開いて驚く美月は、チラリと郁人を見て、顔を背けてしまうのである。


「ち、違うから! 変なこと言わないでよ! 美悠!!」

「はいはい、私が悪かったから、早く注文しちゃおう!!」


 本気で怒る美月に、はいはいと謝るポーズを取る美悠は、早くメニュー決めてと急かすのである。


 そして、なんとか、注文を終えて、照れながらも、なんとか無事に昼食を済ませれた美月なのであった。


 こんな感じで、一日、照れる美月と、いつも通りな郁人という感じで、モール内を見て回るのだった。


「結局、郁人達、ゲームソフト買うみたいだよ」

「まぁ、わかってたけどね」


 毎年恒例なため、美月も美悠を驚きはしないのである。郁人と雅人はゲームショップに二人で行って、すでに買い物を終えた美月と美悠は、休憩スペースで待っているのである。


「そう言えば、お姉ちゃん…お兄ちゃんと上手くいってないの?」

「え!? そんなことないよ…どうしてそう思うのよ?」


 美悠にそう言われて、少し不機嫌になる美月は、きつめの口調になるのである。


「だって、なんかお姉ちゃん、今日変だったじゃない…お兄ちゃんはいつも通りなのにね」

「……」


 含みのある言い方をする美悠を、無言で睨む美月なのである。


「お姉ちゃん…そんな怖い顔で睨んでも、怖くないよ…今のお姉ちゃんは本当に怖くないね」

「…美悠は何が言いたいわけ?」

「今更恋人ごっこしてるんだなって思っただけだよ…だって、そうでしょ…昔のお姉ちゃんなら、どこでもお兄ちゃんと手をつないでたし、絶対お兄ちゃんの隣を歩くし、一緒にお店見て回って、ファミレスだって、仲良く一緒にメニュー見てたよね?」


 美悠にはっきりそう言われて、美月は、ショックを受けるのである。目を見開いて呆然と立ち尽くす美月に、さらに追い打ちをかける美悠なのである。


「今の二人って…仲良いのかな…なんて思っちゃた…昔は、お姉ちゃんとお兄ちゃんあんなに仲良かったのに…なんか…知り合って、すぐ付き合いだした恋人みたいな感じだったよ…お姉ちゃんが…」

「……美悠…それ以上、変なこと言うと……本気で怒るからね」


 美月は、美悠を睨みつけるのである。しかし、美悠は涼しい顔をして、邪悪な笑みを浮かべるのである。


「いいよ…怒って……私は、その何倍も怒ってるからね」


 美悠は、睨む美月を睨み返すのである。その瞳には、今まで彼女が、姉に抱いていた、嫉妬と劣等感…そして、怒りが込められているのである。


「み、美悠!?」


 そんな、美悠に気圧される美月なのである。


「ねえ……お姉ちゃん…私ね…今なら、可能性があるって感じるんだ…ずっと、我慢してきたんだ……でも、ただの恋人同士の二人なら…いつか別れる可能性あるって、そう思ったんだ…だからね」


 美悠は、姉の美月を正面から真直ぐ見て、対峙するのである。今まで、こんなに真直ぐ向かい合ったことなどない姉妹が、真っ向対峙して、睨み合うのである。


「美悠…本当に何が言いたいのよ」

「じゃあ…はっきり言うね…お姉ちゃん」


 美悠はそう言って、姉をジッと見るのである。ここでなら、まだ、引き返せる。でも、美悠は今日、気付いてしまったのだ。自分の初恋はまだ終わってないという事を、だから、本気で恋する覚悟を決めたのである。


「私ね…お兄ちゃん……朝宮郁人さんの事が好きなの…昔からずっと…お兄ちゃんの事が好きだったんだ」


 姉の美月に、そう告げる美悠に、姉の美月は、目を見開いて、呆然と美悠を見るのである。


「だから……お姉ちゃん…ごめんね…私、お姉ちゃんから、お兄ちゃんの事……奪うから」


 美悠の宣戦布告に対して、ただ、呆然と立ち尽くすことしかできない美月なのであった。

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