第83話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その8

 ショッピングモールにたどり着いて、適当にお店を見て回っていたのだが、美悠は、積極的に郁人の隣を歩くのでる。そんな美悠に、何とも言えない笑みを浮かべて、少し距離を取る美月を、さらに後ろから見つめる雅人なのであった。


(美悠…また、郁人に話しかけてるよ……まぁ、美悠が元気そうだからいいけど……何で、今日は郁人にあんなにべったりなんだろ?)


 ムムムと不審がる美月は、店を回るたびに、ジッと郁人と美悠の事を観察するのである。


「お兄ちゃん……それなに?」

「ああ…冷感ぬいぐるみだ……どうだろう?」

「えっと…麻沙美さんにはどうかと思うかな」

「そうか……美月は好きそうなんだが……」


 美月は、隠れてジッと、郁人と美悠の会話を盗み聞きするのである。


「お兄ちゃん…これ見て、音で踊るお花だって」

「ああ…これか……これは……美月は、意外と好きだと思うな…隠れて、一人で遊びそうだな」

(郁人!! 私、そんなので、遊ばないからね!!)


 美月は、適当に棚の商品を手に取り、ひっそりと聞き耳をたてて、郁人の発言に頬を膨らませて怒るのである。


「これは……へぇ…ボタン一つでサラダチキンが作れるのか」

「便利そうだね……料理しないからわかんないけど」

「まぁ…でも、美月には必要なさそうだな……絶対に、買っても自分で作りそうだしな」


 棚の隙間から、郁人と美悠を監視して、絶対、手作りの方が美味しいという自信に満ちる美月なのである。


「コスメか……よくわからんが…美月なら喜ぶだろうな…いや、でも、意外とこだわってそうだからな…不用意に美月に買うのは…よくないな」

「いや……お兄ちゃん…麻沙美さんへのプレゼントじゃないの?」


 ジト目な美悠は、美月の話ばかりなことに不満を言うのだが、郁人と会話デッキは基本的に一つの美月デッキしかないのである。


 もちろん、切り札も美月な郁人なのである。


(郁人、私の事ばかり……話してるよ…うううう、郁人…そんなに私の事が好きなの)


 色んな店を回る中で、郁人と美悠の会話を盗み聞きしていた美月は、郁人が自分の話ばかりなことが、滅茶苦茶嬉しくなり、恥ずかしさと嬉しさから、両頬を両手で押さえて、悶える美月なのであった。そして、そんな美月をジッと見ていた雅人なのである。


「美月、ほら、これなんてどうだ? 美月好きだろ?」


 そして、今度はファンシーショップで、それぞれ適当に見て回っている中、郁人は、美月の隣に行って、笑顔で、猫のぬいぐるみを見せるのである。自分の事ばかり考えてくれる郁人を思い出して、超絶恥ずかしくなってしまう美月の顔はみるみる、赤くなっていくのである。


「い、良いと思うよ……あの…い、郁人……ち、近いよ」

「そうか? いつもこんな感じじゃなかったか?」


 郁人にピタッとくっつかれて、微笑みかけられる美月は、嬉し恥ずかしいのである。顔が真っ赤な美月は、俯いて、ソソソっと離れて、チラリと郁人の方を見る美月だが、にやりと笑う郁人と目が合うのである。目が合ったことで、さらに恥ずかしくなる美月は、反射的に郁人に背を向けるのである。


(ううう~…郁人、絶対、私のこと揶揄ってるよ…で、でも、えへへへ、郁人とくっついちゃったよ)


 美月は嬉しさのあまり、顔が緩みまくって両手で両頬を押さえて、郁人に背を向け続けて、デレデレに照れる美月なのである。付き合いだしてからというもの、美月は恋人という事を意識してしまい照れてしまうのである。


(郁人と私は恋人同士……うううう、恥ずかしいよ)


 チラリと郁人を見て、やっぱり照れてしまう美月は、恥ずかしくなってそっぽを向いてしまうのである。


(郁人は私のことが大好き…私も大好きだよ…郁人)


 そんなことを考える美月は更に恥ずかしくなってしまい、心の中で絶叫するのである。そんなやり取りをしていると、美悠が郁人に近づくのである。


「お兄ちゃん……それなに? 猫のぬいぐるみって…さすがに母の日のプレゼントにはどうかと思うよ」

「そうか? まぁ……そうだな…美月なら、喜んでくれると思うけどな……昔あげたクマのぬいぐるみを今でも大切にしてくれてるしな」

「……お姉ちゃん、あのクマのぬいぐるみ、私には絶対触らしてくれないんだよね」

「そうなのか?」


 姉の美月をジト目で見ながらそう言う美悠に、慌てる美月なのである。


「ち、ちが…そ、その……あれは…その……えっと…うう~」


 必死に弁明しようとするが、言葉が出てこない美月は、完全に混乱しているのである。


「いつも、部屋でお姉ちゃん、あのぬいぐるみ抱っこしてるもんね」

「い、いいでしょ…別に……い、郁人だって、私の部屋に来たら、必ず、あのぬいぐるみ抱っこしてるんだからね…一緒だよ!!」

「……いや…それは…させられてるだけで…」

「郁人!!」

「……俺もあのクマのぬいぐるみ抱っこするの好きだな…うん…触り心地がいいもんな」


 美月は、郁人にムスッとした視線を送ると、全てを悟った郁人は、そう言って、誤魔化すのである。完全に阿吽の呼吸なのである。


「お姉ちゃん…そんなに照れなくてもいいじゃん…抱っこしてるのは事実なんだし」

「み、美悠!!」


 美悠は、にやりと笑って、姉の美月を揶揄うのである。揶揄われた美月も、さすがに美悠の様子が少し変なことに気がつくのである。


(ううう~…まさか、美悠に揶揄われるなんて思ってなかったよ…でも、今日の美悠…ちょっと、変な気がするけど…気のせいよね)


 美月は、これ以上ここに居たら、さらに揶揄われると思い店内から出た後に、そんなことを思っていると、雅人もお店から出てくるのである。


「あ、姉貴……兄貴達は?」

「…まだ、店内だと思うよ」

「……そっか…はぁ~…兄貴の野郎」


 郁人が美悠と一緒に居ることに苛立つ雅人の様子に、首を傾げる美月は、雅人に笑いかけるのである。そんな美月を見て、雅人の心臓が跳ねるのである。


「雅人君……何か悩み事でもあるの? フフフ、じゃあ、お姉ちゃんが雅人君のお悩み聞いてあげようか?」


 美月は両手を合わせて、姉アピールするのである。実際、美月の中で雅人は弟みたいなものなのである。


「……姉貴…そういうとこあるよな……ほんと…昔から…」

「ん? 雅人君? どうかしたの?」


 ぼそりと小声でつぶやく雅人の声は美月には聞こえてないのである。雅人はため息をついて、美月に背を向けるのである。


「いや・・・悩みなんてないって…姉貴こそ……いいのかよ? その、兄貴と一緒にいないで?」

「な、な、な、べ、別に…常に一緒ってわけじゃないよ…それに…最近は、学校でも一緒にいられないし」


 そう言って、落ち込む美月をジッと見つめる雅人に、ハッとなって気がつく美月は、慌てて、笑顔を浮かべて、誤魔化すのである。


「……姉貴?」


 そんな美月に、雅人は言い知れぬ思いを抱いて、そして、もしかして、兄貴と上手くいってないのかと、黒い希望を持ってしまうのである。

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