第82話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その7

 美月は、昨日の不機嫌がウソのように上機嫌になっているのである。浩二の出来事で、超絶不機嫌だった美月は、郁人の前でも、少しムスッとしていた為、郁人は、美月がゴールデンウィークの件で特に予定を何も立ててないからご立腹なのだろうと思った郁人は、ゴールデンウィークは、毎日遊ぼうと美月に言った瞬間に、超絶上機嫌になって、全て忘れる美月なのである。


 美悠と雅人も一緒とはいえ、郁人とお出かけのため、服装に気合を入れる美月なのである。郁人と美月は相談して、昼は外で食べようという話になったため、朝から出かけることになったのである。


「お姉ちゃん……早く行って、早く買って、早く帰ってこよう…」


 出かける前から、テンションが超低い美悠は、気だるそうに、姉の部屋を訪れて、入念にお出かけ準備をする美月を急かすのである。


「ちょっと、美悠、折角、みんなでお出かけするんだから、ゆっくり見て回ろうよ」

「お兄ちゃんとお出かけするから、ずっと一緒に見て回りたいってことでしょ…はいはい」


 そう言って、呆れる美悠に、美月は、顔を真っ赤にして、慌てだすのである。


「そそそ、そんな事言ってないよね!! べ、別に…みんなで見て回れるのが嬉しいだけで……郁人がどうとかって言うのは……なくはないかもだけど…」


 美月は、勢いよく否定したが、セリフが後半になるにつれて、声のボリュームが下がり、最後の方はなんて言っているか聞こえないのである。


「…お姉ちゃん?」


 あからさまに動揺している美月に対して、不審がる美悠なのである。確かに美月は、たまに素直にならない時があるが、ここまで全力否定な美月を見るのは、妹の美悠でも初めてなのである。


「とにかく、早く行かないと、お兄ちゃん達待たせちゃうから…早くしてね」

「わ、わかってるから、後、ちょっとだけ、待っててよね」


不審に思った美悠だが、そんなこともあるかと納得して、必死に服装選びをしている姉の美月を急かした後に、一階のリビングに降りていく美悠なのであった。


 結局、美月はお気に入りの春物のロングワンピースと、春物のパーカーという無難な組み合わせに決めて、急いで着替えて、身だしなみを整えるのである。結局、結構時間がかかって、待ち合わせ時間ギリギリになるのである。


 美月と、美悠は家を出ると、やはり、郁人と雅人はすでに待っていたのである。


「ごめん…郁人……ま、待ったよね」

「いや…気にしなくていいぞ…まだ、待ち合わせ時間になってないしな」


 そう真っ先に郁人の元に駆け寄って謝る美月に、嫉妬する美悠と雅人なのである。


「美月…今日も可愛いな」

「あああああ、ありがとう…い、い、郁人も…その…あっ!! 雅人君も、ごめんね…待たせちゃって」


 美月は、郁人に褒められて、顔を真っ赤にして、照れながら、郁人を褒めようとするが、恥ずかしさのあまり、思い出したように、雅人に謝りに行く美月に、美悠は、やはり違和感を感じるのである。


「い、いや…姉貴…別にいいって」


 雅人は美月に近づかれて、照れてしまい、それを隠すために、そっぽを向くのである。


「美悠ちゃんもおはよう…服似合ってるよ」

「べ、別にお兄ちゃんに褒められても嬉しくないんだけど……そんな事より、早く行って、早く帰ってきたい」


 爽やかな笑顔を浮かべて、美悠にそう言う郁人に、ドキドキしてしまう美悠は、ぶっきらぼうにそう言って、歩き出すのである。


「じゃあ、行こうか…美月と雅人も行くぞ」


 照れる雅人と、そんな雅人に首を傾げる美月にそう言って、歩き出そうとする郁人を、慌てて追いかける美月だが、郁人の隣ではなく少し後ろを歩く美月なのである。


 前を歩く美悠は、チラリと郁人と美月を見て、違和感は確信に変わるのである。そんな美悠のことなど、露知らず、雅人は郁人と美月の後ろから、嫉妬の視線で二人を見ながら歩くのである。


 駅まで、歩いていく中で、美悠は確信したのである。郁人と美月の関係性が以前と明らかに変わったという事に、美悠は、郁人に積極的に話しかけに行くと、郁人は美悠に対して普段通りに接するのだが、姉の美月だけが様子がおかしいことに気がつくのである。


 普段なら、美悠が郁人に話しかけると、絶対に美月は話に割り込んでくるのだが、何度、試しに美悠が話しかけても、美月は、話に割り込んでこないのである。


 ジッと、見ているだけで、たまに、自分を誤魔化すように雅人に話かける姉の美月を見て、美悠の子供の頃、そして、ついこの間に、失くしてしまったものを取り戻した気がするのである。


 電車に乗って、ショッピングモールに向かう途中も、美悠は積極的に郁人に話しかけるのである。


「お兄ちゃん…何買うかとか、前もって決めてるの?」

「そうだな…まぁ、美悠ちゃんも知ってると思うけど、こっちは、ゲームソフト買っとけばだいたい喜ぶからな…まぁ、毎年そうだと面白みに欠けるから…何か別のモノを探したいとこだがな」

「それ…お兄ちゃん毎年言ってるよね…結局、時間切れでアイツのやりたいゲーム買うのがお約束じゃん」

「いや…さすがに今年こそは、何か探してみるよ」


 美悠はそう郁人と会話するのである。美悠は覚えているのである、この会話はいつも姉の美月と郁人がしていた会話だと、本人同士は取り留めのない会話でも、美悠にとっては毎年、嫉妬心に苛まれながら、ただ、黙って聞いてるしかなかった会話なのである。


「美里さんのプレゼントは、いつも選ぶの大変そうだよな……何か考えてるの?」

「私は、なんでもいいと思うだけど…お姉ちゃんがね」

「まぁ、美月はこだわるからな」

 美悠は、郁人と会話がここまで続くことなど、幼い時以来なのである。姉の美月に独占されて、大好きなお兄ちゃんに構ってもらえなかった美悠にとって、幸福を感じるひと時なのである。


 それが、なぜか、大好きなお兄ちゃんが、大好きなお姉ちゃんと付き合ったことがきっかけであることが、皮肉さを倍増させるのである。


 そんな郁人と美悠の会話をジッと聞いているだけの美月を、ジッと見ている雅人は、兄の郁人の無神経さに腹を立てるのである。


「姉貴…その…良いのか?」

「うん? 何が?」

「その…兄貴が…あいつと話してて」


 そう雅人に言われて、一瞬驚きの表情を浮かべる美月だが、すぐに笑顔になるのである。


「いいんだよ…美悠、最近元気なかったしね……郁人も、たぶん気を遣ってくれてるんだよ」

「……なら…いいだけどさぁ」


 優しく微笑んでそう美月に言われると、何も言えなくなる雅人は、一人イラつくのである。そして、郁人の方を見つめる美月に気がつく郁人は、美月に優しく微笑むのである。そんな郁人の微笑みに、また、顔が赤くなる美月は、視線を逸らしてしまうのである。


 そんな、姉の美月の様子を観察する美悠は、確信が決意に変わるのであった。






 そして、美悠の決意が、不退転となる瞬間が訪れるのでる。最寄り駅から降りて、ショッピングモールに向かう最中に、郁人が美月と手を握ろうとした瞬間、美月が恥ずかしがり、郁人に、ふ、二人が見てるからと、顔を紅潮させて、恥ずかしがって、手をつなぐことを拒んだとき、美悠は、今まで、絶対の勝者であった美月に対して、初めて、かすかな勝機と希望を見出すのであった。

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