第81話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その6
郁人は、部屋の外で、美月に待ってもらって、制服から、私服に着替えるのである。美月は、部屋の外で心臓バクバクのドキドキで、顔を紅潮させて、待っていると、郁人から、着替えが終わったと言われて、そーっと扉を開けて、そわそわと部屋の中に入る美月なのである。
美月は、郁人と恋人同士になってからというもの、郁人の部屋に遊びに来ても、部屋の床に体操座りで、縮こまっているのである。
「今日も、アニメでも見るか……そう言えば、美月…ゴールデンウィークの初日に、雅人と美悠ちゃん誘って、モールに行かないか?」
郁人はそう言って、テレビのリモコンを持って、テレビを操作しながら、美月の隣に座るのである。
「あ…う、うん!! いいと思うよ!! 美悠は私から誘っとくね」
「ああ…頼むな」
美月は、隣に座る郁人を意識して、心臓バクバクで、顔を赤くして、照れてしまうのである。
最近は、美月はアニメどころではないのである。チラリと郁人の方を見ては、顔を紅潮させて、落ち着いたら、また、郁人の方をチラリと見て顔を紅潮させてを繰り返すのである。
(えへへへ…郁人、郁人、郁人)
そして、一人でニヤニヤしだす美月は、あからさまに挙動不審なのである。
「美月? 大丈夫か? 顔赤いぞ…熱あるんじゃないのか?」
郁人の方を覗き見て、顔を赤くしていた美月は、郁人と視線がばっちり合ってしまい、郁人に心配そうにそう言われて、さらに顔を赤くしてしまい、郁人は美月に顔を近づけるのである。
「だ、だ、だ、大丈夫だよ!! 熱なんてないよ!!」
「嫌…顔赤いだろ……おとなしくしてろ」
「あわわわわ、い、郁人…ち、近いよ…近すぎるよ!!」
顔を真っ赤にして、戸惑う美月に、郁人は顔を近づけて、美月の頭に手を乗せて、美月のおでこと自分のおでこをくっつけて、熱を測る郁人に、美月の心臓は、限界突破しそうなほど、バクバクと爆音を鳴らすのである。
「……やっぱり、少し熱いな…本当に大丈夫か?」
熱を測り終えて、郁人は美月から離れると、美月は、プシューと頭から蒸気を発して、思考停止してしまうのである。そんな、美月を心配そうに見つめる郁人なのである。
「い、郁人…だ、大丈夫だからね…本当に…き、気にしないでね」
顔を真っ赤にして頬を押さえて、デレデレに照れる美月は、郁人から背を向けて、必死に、自分を落ち着かせるのである。
(郁人の、郁人のおでこと、おでこと……えへへへへ…嬉しいよ)
デレデレに喜ぶ美月だが、そんな美月を心配そうに見つめる郁人なのである。
「美月…体調悪いなら…早めに帰るか?」
「だだだだだ、大丈夫だから!! ま、まだいるよ!!」
「そ…そうか……気分が悪いなら…少しベッドで横になるか?」
郁人は、美月が心配で気を遣ってそう言うが、ものすごい勢いで、振り返り、郁人の方を見て、必死に大丈夫アピールをする美月に、戸惑う郁人なのである。
「べ、べ、べ、ベッドは…だ、ダメだよ」
美月はベッドをジッと見た後に、そう言って両手を必死に振って、顔を真っ赤にするのである。
「そ…そうか…そう言えば…最近、美月ベッドで横にならないよな…前は、来たらベッドにダイブしていたのに…」
郁人がそう言うと、美月の顔が、もはやゆでだこ状態になり、あわわわと慌てる美月なのである。
「そ、そんなことないよ!! 私、そんなはしたないことしないよ!! い、郁人何言ってるの!?」
「そ…そうか…美月…ほ、本当に大丈夫か?」
「だだだだだ、大丈夫だから…ほ、本当に大丈夫だから…き、気にしないで」
心臓を押さえて、恥ずかしさのあまり、うずくまる美月を、本気で心配する郁人なのである。
そう、美月は郁人と付き合いだしてからというもの、恋人になったことを意識してしまい郁人の前で挙動不審になる事が多くなってしまったのである。そして、最近は、郁人が幼馴染同士の時と同じ距離で接するので、さらに恥ずかしさから、挙動不審になってしまう回数も増えてしまう美月なのである。
挙動不審な行動を何度も繰り返す美月と、そんな美月を心配する郁人という流れは、美月が家に帰る時間まで続くのであった。
顔を真っ赤にして、照れまくる美月を家に送った後、郁人は、雅人の部屋をノックするのである。
「雅人…いるか?」
「……兄貴……なんか用かよ?」
「あ…ああ…ゴールデンウィークの初日…何か用事でもあるか?」
「……特に用事はないけど…なんでだよ?」
「毎年、この時期に母の日のプレゼント買いに行くだろ…美月と美悠ちゃんと…だから、その日に行かないかと思ってな」
「……姉貴と二人で行けば良いだろ……恋人同士なんだし…デートでもしてこればいいだろ」
「いや、毎年四人で行ってたんだし…今年も、四人で行かないか?」
「……考えとくわ」
「ああ……考えておいてくれ」
やはり素っ気なく、元気がない雅人を心配する郁人なのであるが、雅人からしたら、この郁人の誘いは、苦痛以外のなにものでもなかったのである。
そして、美月も家に帰り、真っ赤になった顔を両手で押さえて、玄関で立ち尽くしていたが、やっと、正気に戻り、二階の美悠の部屋に向かいドアをノックするのである。
「美悠…いる?」
「……何……お姉ちゃん?」
美月がドア越しに声をかけると、不機嫌そうな美悠の声が返ってくるのである。
「あ、あのね…美悠……そ、そのゴールデンウィークなんだけど……いつも、母の日のプレゼントを郁人達と買いに行くじゃない? その日、ゴールデンウィークの初日にしようと思うんだけど…どうかな?」
「……お姉ちゃん…私が来てもいいの?」
美月がそう言って、美悠を誘うと、しばらくの沈黙の後に、不機嫌な声で美悠にそうかえされる美月は、少し驚いた表情を浮かべるのである。
「え!? う、うん…それはもちろんだよ…私も……郁人も、みんなで行けた方が嬉しいよ」
「……本当に? それでいいの? お姉ちゃん」
美月は少し戸惑ったが、最後は、優しい声色でそう言うが、美悠は、もう一度確認してくるのである。
「……いいよ…美悠…雅人君も誘って、四人で行こうよ」
今度は、美月は、真剣な表情で、はっきりとそう言い放つのである。
「そう…じゃあ…私も行こうかな…ずっと、このままじゃダメだしね」
「美悠……何か言った?」
美悠が小声でそう言うので、聞き取れなかった美月が、なんて言ったか聞き返すと部屋のドアが開くのである。
「私も行くって言ったのよ! まぁ、毎年恒例だしね……面倒だけど」
「そ…そっか…それならよかったよ……じゃあ、私は夕ご飯の準備してくるね」
そう言って、階段を下りていく姉の美月の背中をジッと見つめて、頑張れ自分と気合を入れる美悠は、美月の後を追って、リビングに向かうのであった。
そして、数日が何事もなく過ぎていき、事件はゴールデンウィーク前の日の学校で起こるのである。
結局、明日は、美悠も雅人も行くことになり、四人で買い物に行くことになったが、それ以外の予定はとくになしという状態に、もやもやする美月は、本日は少し不機嫌だったのである。
一日中ムスッとしていた美月は、学校が終わると、真っ先に、教室から走って出て行くのである。そんな美月の事を浩二は、少し、疑問に思ったのである。最近は、あんなに機嫌がよかったのにゴールデンウィーク前の今日機嫌が悪いのは、郁人と何かあったと思った浩二は、急いで美月の後を追うのである。
そして、校門を出て、生徒がいないことを確認して、浩二は美月に声をかけると、美月は振り返り、物凄く嫌そうな表情を浮かべるのである。
「…何か用でもあるの? 私、急いでるんだよね」
「この間の朝宮とのことで…美月ちゃんに話があるんだ」
「郁人の事?」
「あ…ああ……今日…美月ちゃん機嫌悪かっただろ…なんでなんだ?」
そもそも、美月は確かに、ゴールデンウィークの件で、少し不機嫌だったけど、それは、いつも、学校で男子生徒達に話しかけられている間、郁人の事をずっと考えているから、今日は、ゴールデンウィークの予定どうなるんだろうという事ばかり考えてしまった結果なのである。
「……私、正直学校で機嫌が良いことの方が少ない気がするんだけどね」
「……朝宮と何かあったんじゃねーのか?」
美月が嫌味を言うが、全く話が通じない浩二に、郁人と上手くいってないんじゃねーのと言う発言をされて、さらに機嫌が悪くなる美月なのである。
「永田君には関係ないよね」
「美月ちゃん…はっきり言うけど…朝宮の奴はやめておいた方がいいぜ」
浩二の一言に、目を見開いて驚きの表情を浮かべる美月は、みるみると険しい表情に変わっていく、そんな美月に、さらに追い打ちをかける浩二なのである。
「美月ちゃん……美月ちゃんは、きちんと自分の事を愛してくれる奴と付き合った方がいいぜ…たとえば…政宗とか……朝宮は…女を泣かすようなクズ野郎だ…はっきり言うぜ…別れた方が絶対に良いぜ」
そう浩二が言うと、美月は、今まで見せたことがない怒りの表情を浮かべて、全身怒りで震えるのである。美月の瞳に暗い闇が見え隠れするのである。
そう浩二は、美月の地雷を踏んでしまったのである。
「……ねえ…永田君…それって…郁人にも…言ったのかな?」
「ああ…はっきり言ってやったぜ……別れろって」
「そっか……ごめんね…永田君……悪いけど…二度と私に話しかけないで」
浩二がはっきりと美月を見据えてそう言うと、美月は一言そう言って、浩二に背を向けて歩き出すのである。
「美月ちゃん!! 僕は美月ちゃんのためを思って言ってるんだ!! 朝宮みたいな奴と付き合うと美月ちゃんは絶対に不幸になる!! だから!!」
「私に!! 二度と話しかけるなぁぁぁ!!!!」
美月は、そう怒りの声をあげるのである。その物凄い心の底から憎悪と怒りが込められた叫びに、浩二は驚きと、恐怖を感じるのである。
「永田君…あなたが言ったこと……私…絶対許さないから…絶対忘れないから…絶対に許さない」
顔だけ振り向いて、そう恨みと憎悪を込めた声で言い放つ美月の瞳から完全にハイライトが消え、もはや、完全にお前は敵だという意思が込められていたのである。
「み、美月ちゃん……僕は美月ちゃんのためを」
「はぁ~…じゃあこれが最後の会話だよ…永田君…私は言ったよね…郁人に失礼なこと言わないでよって……なのに…絶対許さない…許さないから!! 私のためを思うなら、私に二度と話しかけてこないでよ!!」
「僕の話を聞いてくれ!! 美月ちゃん!!」
美月は、浩二を激しく睨みつけた後、再び歩き出すのである。美月は、梨緒に対してでもここまで激しく怒りを感じたことはないのである。そう美月にとって、もはや、浩二は完全に敵となった瞬間であった。
もはや、美月に完全に無視され、一人道端に残された浩二は、呆然と立ち尽くすことしか出来なかったのである。
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