第80話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その5

 郁人の発言を受けて、浩二は、郁人を強面の面で睨みつけるのである。


「……朝宮…冗談でも笑えねぇぜ」

「…言っちゃうんですね~…まぁ…良いですけどね~」


 浩二は、信じてないようで、ゆるふわ宏美は、呆れながら、珈琲を飲むのである。


「別に、冗談じゃないんだがな……永田には、言っておこうと思ってな」

「じゃあ…朝宮…てめぇは、美月ちゃんと付き合ってるのに、女子生徒侍らせてるのかよ!!」

「……毎回思ってたんだが…何でそんな話になってるんだ?」


 郁人が、本気で眉間にしわを寄せて、疑問顔を浮かべ、ゆるふわ宏美も、疑問顔で、珈琲を飲むのである。


「朝宮…じゃあ、ファンクラブ作って……朝、女子生徒引き連れて登校してきて、昼も女子生徒達と屋上で飯食ってるのはなんなんだよ!?」

「それを言うと~…美月さんもそうなんですけどね~」


 珈琲を飲みながら、郁人を怒鳴る浩二に、ぼそりとそう呟くゆるふわ宏美を、浩二はギロリと睨むのである。


「美月ちゃんは違うだろーがよ!!」

「何が違うんですかね~…教室で男子生徒達に囲まれて~、食堂で、男子生徒達とお昼を一緒に食べてますよね~…ファンクラブもありますしね~」

「それは…だから……僕が……細田…テメェ、何が言いてーんだ?」

「わたしぃと永田さんは似ているという事ですよ~…初めて、お会いした時に、なんとなくわかったんですよね~…あなたの姿はわたしぃに似ているって~」


 コーヒーカップに残った僅かなブラック珈琲をジッと見つめながら、複雑そうな表情を浮かべているゆるふわ宏美に、郁人と浩二の視線が集まるのである。


「永田さん…あなたとは、少し違いますが~……郁人様に、学園のアイドルになってもらったのには理由があります~…もちろん、美月さんもそうですよね~?」

「……じゃあ、朝宮…てめぇの意思で、女子共を侍らせてるわけじゃねーって言うのかよ!?」

「いや…そもそも、侍らせてないんだが」


 疑惑の眼差しで、郁人の事を見る浩二に、呆れながら、ぼそりと言う郁人なのである。


「細田……テメェと僕は、似てなんかねーぜ……僕は、美月ちゃんを守りたいだけだ」

「……永田…結局、お前は美月を何から守りたいんだ?」

「……てめぇみたいな…不誠実のクソ野郎からだぜ」


 郁人を睨む浩二に、呆れるゆるふわ宏美なのである。険悪なムードを漂わせる浩二を無視して、店員を呼んで、珈琲のお代わりを頼むゆるふわ宏美なのである。


「その誤解から解きませんか~? 郁人様は別にクソ野郎ではないですよ~……たぶんですけどね~」


 クソ野郎ではないと擁護しようと思った宏美だが、郁人の自分に対しての酷い扱いを思い出して、煮え切らなくなる宏美を、ジロリと睨みつける郁人なのである。


「冗談ですよ~…郁人様は良い人ですよね~」

「じゃあ…なんで、てめぇは、美月ちゃんと付き合ってることを内緒にしてんだよ…不誠実だろ!!」

「はぁ~…永田さんって~…本当に面倒な人ですね~……わたしぃがお願いしてるんですよ~…それに…覇道さんや三橋さんには、郁人さんと美月さんはそれぞれ、きちんとお話ししたそうですよ~…止めたんですけどね~…話すって二人とも聞かないんですから~」


 ゆるふわ宏美の発言に、驚く浩二なのである。


「じゃあ…あの二人は知ってんのかよ!?」

「ああ…まぁ、信じてもらえなかったんだがな……それに…正直…梨緒に言おうとすると…」

「本当にやめてくださいね~……た、たぶん大丈夫だと思いますけど…その…お、お二人ともなんというか~…ヤ、ヤンデレ気質というかですね~」


 そのゆるふわ宏美の発言で、黙り込む三人は、完全にヤンデレだなと納得するのである。


「……でも…すまねーが…やっぱり納得いかねーぜ…美月ちゃんって可愛い恋人いるならよ……やっぱ、他の女と仲良くするのはよくねーだろ…細田とだって、付き合ってるって噂すげー流れてんだぞ…それに、お前ら二人が仲良くしてたら美月ちゃん…悲しみだろーがよ」


 やはり、郁人への敵対心が消えない浩二は、郁人にそう言って、対面の二人を睨むと、郁人と宏美は顔を見合わせるのである。


「いや…美月は気にしたんと思うぞ」

「いえ~…美月さんは気にしないと思いますね~」

「まぁ…でも、確かに最近嫉妬はするな」


 ほら見たことかと、怒る浩二に、郁人はやれやれと言う表情をするのである。


「美月…ゆるふわの事大好きだからな……自分の方がゆるふわと仲が良いって張り合ってくるんだよな……正直、俺はゆるふわとは別に仲いいつもりないんだがな」

「なんでですか~!! わたしぃ達お友達じゃないですか~!!」

「そうだったか?」

「そうですよ~!!」


 郁人の発言と、二人のやり取りに頭を抱える浩二なのである。


「本当に…美月ちゃんが可哀想だぜ」

「はぁ~…永田さんはそう思うんですか~? わたしぃは美月さんは幸せそうですけどね~…じゃなければ~…毎晩、毎晩、郁人様トークをしないですよ~」


 やつれた顔で、遠くを見ながらぼそりとそう呟く宏美は、乾いた笑みを浮かべるのである。


「まぁ、美月と俺が付き合ってるのは事実だ…それだけは覚えておいてくれ」

「……朝宮…なら、まず…僕から言えるのは、三橋や細田と仲良くするのやめろ…美月ちゃんの事が好きなら…まずそこからだろーがよ」

「ゆるふわは…まぁ…別にいいけど…梨緒は……」

「なんですか~!? わたしぃは別にいいって~!! というか~…それは難しいですよ~…1組には1組の人間関係があるんですよ~…永田さんは簡単に言いますけど~…それに、そういうなら、永田さんと覇道さんがまず、美月さんに付きまとうのやめたらどうですか~? それが先じゃないですか~?」


 ゆるふわ宏美の、得意のゆるふわスマイルを浮かべて、正論で浩二の事をぶん殴るのである。正直、浩二の事を面倒くさいと思い始めたゆるふわ宏美なのである。


「それは…い、いや…ちげーだろ!! 絶対に、朝宮みたいな奴と付き合うと美月ちゃんは不幸になるんだよ!! 女にだらしねー奴が、美月ちゃんを幸せにできるわけねーだろがよ!!」

「いえ~…郁人様はだから~…別に女性にだらしなくはないですよ~…それに、言いましたよね~? 学園のアイドルもわたしぃのお願いでしてもらってるって~…というか~…美月さんの事を知ってるならわかりますよね~? 郁人様もどれだけモテるのか~?」


 怒って、立ち上がる強面浩二を、ゆるふわ宏美は、ニッコリ笑顔を浮かべて、諭そうとするのである。


「朝宮が美月ちゃんと付き合ってるの隠してるのも、どうせ、女を侍らせるためだろーが…じゃなきゃ、隠す意味ねーだろーが」

「はぁ~…本気でそう思うんですか~? 郁人様と美月さんって今では学園のアイドルですよ~……正直、隠れてお付き合いしていただく方が~…ファンクラブ運営や学園生活もスムーズに進むと思いますけどね~」

「……でも、自分の彼女を独占したいって…普通は思うだろーが」

「それは、一般的な考えですよね~……そもそも、永田さんは、美月さんを守りたいのですよね~? じゃあ、二人がお付き合い公表することに意味ってあるんですか~? そこから発生するトラブルの方が~…美月さんにとって、状況が悪くなるって考えないんですかね~?」

「……」


 ゆるふわ宏美は、浩二を完全論破して、涼しげな表情を浮かべているのである。そんな、宏美を睨みつけて、椅子に不機嫌そうに座る浩二なのである。


「永田……お前は、結局、俺にどうして欲しいんだ?」

「……美月ちゃんと別れろ…朝宮……それが、美月ちゃんのためだぜ」


 浩二にはっきりそう言われる郁人は、ため息をつくのである。ゆるふわ宏美も、もう、この人何言ってもダメですね~と諦めの表情を浮かべているのである。


「永田さんの言いたいことは……わかりました~…でも、一つだけ言わせてくださいね~…わたしぃは、郁人様の理解と協力を得て、郁人様のファンクラブの運営を行っています~…永田さん…あなたはどうなんですかね~?」

「…それは…」

「はぁ~…まずはそこなんじゃないんですか~? わたしぃは郁人様の信頼を得ています~あなたは、美月さんに信頼されてないですよね~?」

「……いや、俺もゆるふわを信頼したことも、理解と協力したこともないんだが…」


 ゆるふわ宏美が、ドヤ顔で、浩二に語っているとことに、郁人がツッコミを入れるのである。今まで、悔しそうにしていた浩二が、一気に強面な顔をもっと強面にして、宏美を睨みつけるのである。


「郁人様!! どうして、味方を後ろから刺すようなこと言うんですか~!!」

「すまない…言わずにはいられなかった…反省はしていない」


 涙目でゆるふわ宏美は、郁人の方を見て、郁人の服を掴んで、必死に揺さぶって、猛抗議するのだが、郁人は全く悪びれないのである。


「……やっぱ…テメェ等は信用できねーぜ……わりぃが美月ちゃんの事は、僕が何とかするぜ…政宗のことはよくわかんねーけど…朝宮…テメェよりは、政宗の方がまだ、美月ちゃんの事好きだと思うぜ」


 そう浩二は、郁人を睨みながら、挑発するが、郁人は涼しげな表情を浮かべている。珈琲のお代わりを持ってきた女性店員は、気まずそうだったが、郁人が笑みを浮かべて対応するのである。


「…はぁ~…永田さん…正直もう面倒なので言いますけど~…それ、美月さんの事本気で思って言ってるんですか~?」

「ああ…僕は本気でそう思ってるぜ……美月ちゃんが男に囲まれて、男に言い寄られてても、へらへら女と仲良くする奴が…クソ野郎じゃねーわけないからよ!!」


 ゆるふわ宏美は、チラリと郁人の方を見るが、涼しげな表情で聞いている郁人を見て、安心して、浩二の方を見るのである。


「まぁ…永田さんにはわからないでしょうね~…恋と愛の違いは~…永田さんは、恋の方が尊いとお考えなんですね~」

「細田…てめぇ…何が言いたいんだよ?」

「いえいえ~…郁人様の美月さんへの深い愛情に気づけないなんて~…可哀想だと思っただけですよ~…覇道さんは、美月さんに恋してるんですよ~…郁人様は、美月さんを愛してるんです~…わかりますか~?」

「政宗だって、美月ちゃんを愛してるはずだぜ」

「いえいえ~…残念ですが~…全く愛を感じられませんね~…だって、恋って自分のためにするもので~…愛は相手を思うものですからね~」


 満面なゆるふわ笑顔でそう言う宏美に、郁人は呆れるのである。


「ゆるふわ…お前…恥ずかしいこと言うなよな」

「なんですか~!? 今わたしぃ良いこと言いましたよ~!!」


「くだらねーぜ!! もし、本当に朝宮が、美月ちゃんを愛してるんだったら、男に囲まれてたら助けるだろーが!! 他の女と一緒に居たりしねーだろーが!! そいつこそ、美月ちゃんに恋してるだけだろーが!! 政宗は美月ちゃんを守りたいって、強い気持ちがある…やっぱり…政宗の方が美月ちゃんを幸せにできるはずだぜ!!」


 そう言って、浩二は席を立ち、店から出ようとするのである。


「……永田さん」


 ゆるふわ宏美がそう捨て台詞を吐いて、立ち去ろうとする浩二を呼び止めるのである。


「わたしぃ…永田さんの分は奢りませんよ~…郁人様の分ならまだしも~」


 そのまま、店を出て行こうとする浩二に、最高のゆるふわスマイルでそう言う宏美に、頭を掻いて、イライラしながら、お金を財布から取り出して、机に叩きつける浩二なのでる。


「……言っておくぜ…朝宮…やはり、僕はテメェが嫌いだ…美月ちゃんのことは僕達に任せておけ…よけーなことはするんじゃねーぞ……あと、美月ちゃんとは早めに別れろよな…どうせ、長くは続かねーからよ!!」


 そう再度捨て台詞を吐いて、立ち去る浩二を、涼しげな表情で見ている郁人に更に怒りが込み上げる浩二なのである。苛立ちながら、店の外に出る浩二は、怒りで震えるのである。


「本気で…本気で好きなら…そんな落ち着いてねーだろ…美月ちゃんには…あんな思いはしてほしくねーんだよ…クソが」


 怒りに震える浩二は、夕暮れの空を見上げて、そうぼそり独り言を言って、拳を握り締めるのである。


話しが全く通じない浩二を見送った後、呑気に珈琲を飲むゆるふわ宏美は、郁人の方をチラリと見て、ため息をつくのである。


「…はぁ~…話の通じない方ですね~……本当に大丈夫なんですかね~? あれでしたら、やはり、わたしぃが美月さんのファンクラブ…掌握しましょうか~?」

「いや…俺とゆるふわは、結局クラスが違うしな…何かあったら、美月を守れないだろ…今のところは、永田に任せて大丈夫だろ……それに、ゆるふわに任せても不安だしな」

「なんですか~!? わたしぃの方が上手くやれますよ~…はぁ~…で~、もし…任せられないと判断したら~…どうするんですか~?」

「その時は…その時だ」


 郁人の表情を見て、寒気が走るゆるふわ宏美なのである。宏美は、この時心の底から思ったのである。


 一番病的なほど美月を愛していて、病んでいるのは朝宮郁人なのかもしれないと……。






「あ…郁人…その…お、お帰り…遅かったね」


 郁人は、ゆるふわ宏美と駅で別れて、帰宅すると、自分の家の前で美月が私服で待っているのである。帰ってきた郁人を見つけて、嬉しそうに、恥ずかしそうにそう言う美月に、笑みがこぼれる郁人なのである。


「悪いな…遅くなって」

「う、ううん…いいんだよ……あ…何か、失礼なこと言われなかった?」

「いや…何も…美月…家に入ろうか…本当に悪いな…遅くなって」

「え!?あ…う、うん…いいんだよ」


 郁人に肩を掴まれて抱き寄せられて、家に誘導される美月は顔を真っ赤にするのである。


「俺の部屋で待っててくれてもよかったのに」

「わ、私が好きで、外で待ってただけだから…ほ、本当に郁人は気にしなくっていいんだよ!!」


 恥ずかし嬉しい美月は、照れて縮こまりながらも、郁人と一緒に家の中に入るのであった。

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