第79話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その4

 ゆるふわ宏美も、お手上げの上機嫌モード美月ちゃんは、自分の席に座り、両手で頬杖をついて、ニッコニコなのである。あまりに、いつも不機嫌な美月が、ニコニコなので、デレデレなる男子生徒達なのである。


 昨日に続いて、本日も美月は、ニコニコで、郁人命名の天使の微笑みを浮かべている美月は、最高に可愛いのである。三限目の授業が終わっても、美月は、ニッコニコなのである。


「美月、機嫌がいいが何か良いことでもあったのかい?」


 そんな、美月に、本日何度目かの同じ質問をするのは、イケメンスマイルを浮かべている政宗である。そして、案の定、政宗に話しかけられると、ムッとする美月なのである。


「別に…機嫌よくないよ…普通だよ…普通」


 これも、本日何度目かの発言である。この質問は昨日から複数の男子生徒に今日は機嫌良いねと言われるので、毎回こう返している美月なのである。


 そして、しばらく、ムッとしている美月だが、やはり思い出したように、ニコニコ上機嫌になるのである。


(郁人との、ゴールデンウィーク楽しみだよ…えへへへ、楽しみだよ……郁人、郁人、郁人!!)


 美月の頭の中は、郁人の事でいっぱいなのである。そんな、美月に、浩二も政宗も、話しかけるのであるが、だいたい、適当に相槌を打つ美月なのである。


「そう言えば、美月…もうすぐゴールデンウィークだが…何か予定でもあるのかい? よければ、一緒にどこかいかないかい?」


 その政宗の発言に、美月は、一瞬で無表情になるのである。チラリとイケメンスマイルの政宗の方を見る美月である。


「ごめんね……ゴールデンウィークは、もう予定あるんだよね……それに、私が覇道君と何でどこか行かないといけないのかな?」


 先ほどまでとは打って変わって、猛烈に不機嫌な美月なのである。さすがに浩二も、美月が不機嫌になったという事は察するので、二人の間に割って入るのである。


「ま、まぁ、美月ちゃん…忙しそうだもんな!! 仕方ねーぜ…なぁ、政宗…諦めて、僕と寂しく男二人でどこかいこーぜ!!」


 どこか影のあるイケメンスマイルを浮かべて、美月を見ている政宗と、物凄く不機嫌に政宗を睨む美月との間に入って、強面の顔が引きつる浩二なのである。


「……はぁ…問題起こすと…郁人が心配するよね」


 美月はボソリとそう呟くと、再度両手で頬杖をついて、ボーっとするのである。その美月の発言がかすかに聞き取れた浩二は、ため息をつくのである。


「まぁ、政宗……そう落ち込むなって、男同士で友情を深めるのもいいもんだぜ」

「……そうか…それもいいかもしれないね」


 ジッと美月の事を見ていた政宗が、そう浩二の方を見てイケメンスマイルで言うのである。しかし、浩二は、そんな政宗に対して不気味さを感じて、やはり、郁人と話そうと思う浩二なのであった。






 そして、放課後、美月は、急いで帰ろうとするが、階段の踊り場で浩二に呼び止められて、物凄く不機嫌になる美月なのである。


「わりぃ…美月ちゃん……朝宮の奴と、内緒で会いたいんだが…協力してくれねーか?」

「郁人に…なんで!?」

「美月ちゃん…声が大きいって…少し、朝宮と話したいことがあるんだけどよ…朝宮の奴が、美月ちゃんを通して連絡くれって言われてるんだが」


 不審がる美月に、頼み込む浩二なのである。


「ちょっと、待って、スマホで連絡してみるから……郁人となんの話があるの?」

「それは…み、美月ちゃんにはちょっと……」


 浩二を睨む美月は、郁人に通話をかけると、すぐに郁人が出るのである。


「どうした? 美月?」

「郁人…今どこに居るの?」

「まだ、学校だが…何か用事か?」

「うん…永田君が郁人に会いたいって……あ、無理して会わなくてもいいよ」

「そうか…いや、いいんだ…どこに行けば良いか聞いてくれ?」

「え!? いいの!?」


 戸惑う美月は、浩二を睨んで、場所を尋ねると、駅前の喫茶店で会おうと伝えて欲しいと言われるのである。それを、そのまま、郁人に伝えると美月なのである。


「すまない…美月…できる限り、早く帰るからな」

「う、うん…わかったよ…じゃあね…郁人」


 通話を終えて、また、浩二を睨む美月なのである。


「郁人に失礼なこと言わないでよね……郁人に変なことしたら、本気で怒るからね」

「それは…すまないが、朝宮との会話次第だぜ…まぁ、でも、たぶん、大丈夫だと思うぜ」


 浩二の真剣な表情に、美月は、納得はできないが、仕方ないと諦めて、早足で階段を下りる美月なのである。


「美月ちゃん…ありがとな」


 そうお礼を言う浩二を、チラリと見て、再度、早歩きで階段を駆け下りて、下駄箱に向かう美月なのであった。







「…朝宮…と…何で細田までいんだよ…呼んでねーぞ」


 約束の駅前の喫茶店の店内で先に待っていた浩二の所に、不機嫌な郁人と、ニコニコ笑顔のゆるふわ宏美が現れるのである。


「まぁ…ゆるふわも、美月の友達だしな…居た方が話が早いと思ってな」

「……僕は朝宮…お前に話があんだけど」

「わたしぃは途中で席を外してもいいですよ~…その前に、わたしぃも永田さんとは一度きちんとお話ししたいと思っていたんですよね~」


 にっこり笑顔でそう言うゆるふわ宏美を睨みつける浩二なのである。


「まぁ…お互い言いたいことはあるだろうが…とりあえず、座ってもいいか?」

「…仕方ねーか…いいぜ」


 渋々了承する浩二の前の席に座る郁人と宏美は、ニコニコ笑顔で、珈琲を注文する宏美に、じゃあ、同じのでと言う郁人なのである。


「…お前等本当に仲いいよな…本当に付き合ってねーのかよ?」

「それはない」

「それはないですね~」


 浩二の疑問に、即否定する郁人とゆるふわ宏美なのである。


「早速本題に入ってもいいですかね~?」

「……ああ…構わねーぜ」

「……正直、永田さんと覇道さん…美月さんに嫌われてるのはわかっているんですか~?」


 ゆるふわ宏美は、真直ぐに浩二を見て、満面なゆるふわ笑顔で、ド直球にそう言い放つのである。


「……ああ…それは、僕はわかってるぜ…わかってて、やってるつもりだ…あくまで、僕はだけど…政宗は…どーだか…わっかんねーぜ」


 そう答える浩二を、ジッと見る郁人と宏美である。


「朝宮…前にも言ったと思うけどよ…僕は、美月ちゃんを単純に守りてーだけだぜ…それは、マジだ…信じてくれ…だけど、単純に善意ってだけじゃーねんだ…これは、僕個人の話だからよ…話す気はねーけどな」


 浩二は真剣な表情で、郁人と宏美を真直ぐ見つめてそう言うのである。


「……なんで、美月なんだ?」

「……美月ちゃんは……単純に……あ…入学式の日に…男子共に囲まれてて……まぁ…守ってやらねーとって思っただけだぜ」


 浩二は、郁人の質問に対して、視線を逸らして、そう言うのである。


「…今度はこっちが質問する番だぜ……朝宮は…美月ちゃんとは幼馴染だよな」

「ああ…そうだな」

「じゃあ……美月ちゃんと政宗の事…教えてくれねーか? あの二人の過去に何があったか…わりぃな…本当はこれが聞きたくて……呼び出したんだ」


 浩二は、頭を掻きながら、そう郁人に質問するのであるが、郁人と宏美は顔を見合わせるのである。


「…永田…お前と覇道って友達なんだろ…覇道に直接聞けないのか?」

「……友達と言っても…知り合ったの高校からだぜ…それに……美月ちゃんの事になると…政宗のヤツ…ちょっと、様子が変になるからよ」

「……そうか…だが、悪いな…俺も覇道の事は知らないんだ」


 郁人の発言に驚きの表情を浮かべる浩二なのである。


「ちょっと、待てよ…朝宮…お前、美月ちゃんの幼馴染なんだろ? 覇道の事、何で知らねーんだよ!?」

「……ゆるふわ…永田には話した方がいいかもしれないが…どうする?」

「……そうですね~…永田さんの協力が得られた方が今後の調査も楽になると思いますし~…お話してみますか~」


 郁人と宏美の、会話について行けない浩二は、戸惑いの表情を浮かべるのである。


「永田……今から話すことは他言無用で頼む」

「……わかったぜ」


 真剣な表情でそう念を押す郁人に対して、唾を飲み込む浩二は、頷くのである。


「美月と俺は、家が隣同士でな…産まれた時から一緒にいるが…俺は、覇道を知らない…あと、三橋梨緒はわかるか?」

「あ…ああ……朝宮の幼馴染だろ…男子の間でも、有名だぜ」

「俺は…梨緒の事も覚えていなんだ……美月とは幼稚園から中学まで一緒だった…卒業アルバムも確認したんだがな…二人の名前は見つけられなかった」


 郁人の発言に衝撃を受ける浩二は、頭を抱えるのである。


「ま、待てよ…でも…美月ちゃんのファンクラブを作る時…政宗のヤツ……美月ちゃんの事、結構よく知っててよ…だから……本当に幼馴染なんだって思っただぜ……まさか…でも…いや…」


 混乱する浩二に、郁人は追い打ちをかけるのである。


「勿論…美月にも、確認したが…美月も覚えがなかった……この間、ゆるふわが、7組の教室を何回も来ていたのは、政宗の事を調べてもらってたんだ」

「…そーだったのか……僕も、政宗に美月ちゃんとの過去を何回か聞いた事あるんだが…美月ちゃんとの大切な思い出だからって、話してくれなくてよ」


 三人の間に沈黙が訪れると、頼んでいた珈琲を店員さんが持ってくるのである。


「わたしぃとしては、問題がないのでしたら~…梨緒さんや覇道さんの過去の事はどうでもいいのですが~」

「いや…よくねーだろ……実際、学校じゃ…美月ちゃんの幼馴染は覇道で、朝宮…お前の幼馴染は三橋ってことになってるぜ…言っとくが、誰もお前と美月ちゃんが幼馴染なんて知らねーと思うぜ」


 そう、学校では、郁人の幼馴染は梨緒で、美月の幼馴染は政宗という事になっているのである。幼馴染だから、多少は、郁人や美月と仲良くしてもいいよねという認識なのである。


「……政宗は…僕の友達だ…疑いたくはねーけど……美月ちゃんの様子を見ても…正直仲が良いとは思えなかったんだ…確かに……美月ちゃんからすれば…知らねー人間がいきなり、幼馴染名乗って仲良くしてくるわけだから…あんな態度になるわけだぜ」


 どこか納得した浩二は、苛立ちながら頭を抱えるのである。その様子を、珈琲を飲みながら、ゆるふわ笑顔で眺めている宏美なのである。


「わたしぃ達が話せることはこれぐらいですね~…いえ…もう一つありますね~」


 ゆるふわ宏美は、チラリと郁人の方を見るのである。郁人はその視線に気がつくと、少し考えた後に、浩二にこう言い放つのである。


「…俺と美月の話だが…実は、俺と美月は恋人同士なんだ」


 その郁人の発言に、目を見開いて驚く浩二は、先ほどの政宗と梨緒の話よりも驚いているようだったのである。

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