第77話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その2

 ロマンティックが止まらない美月は、郁人を意識しまくってしまい挙動不審になってしまうのであった。郁人の肩が触れたら、ドキドキして、縮こまってしまったり、郁人の顔が近づけば、完全に思考停止して、固まってしまったり、郁人の事を見るだけで、心臓がバクバクで、顔が真っ赤になってしまいモジモジしてしまう美月なのである。


 そんな美月は、幸せなひとときを過ごし、郁人が帰る時間になるのである。郁人から、ずっと抱っこしていたクマのぬいぐるみを渡される美月は、顔をうずめてぎゅっと抱きしめた後に、いつもの場所にくまのぬいぐるみを置く美月なのである。


「じゃあ、そろそろ帰らないとな」

「そ…そうだね」


 そう言って、郁人は美月の部屋から出て、美月は玄関に向かう郁人の後をついて行くのである。


「あら…郁人君もう帰るのかしら?」

「はい、すみません、遅くまで」


 階段を降りると、リビングに居た美月の母の美里が、リビングから顔を出して、そう言うと、郁人は頭を下げるのである。


「フフフ、まだいてくれてもいいのよ…美月ちゃんの、その方がうれしいわよね?」

「お、お母さん!! もういいから!!」


 郁人に、口元を押さえながら、優しくそう言う美里に、顔を真っ赤にして、リビングに押し戻そうとする美月なのである。


「すみません…まだ、美月と一緒に居たいんですけど…家に帰ってご飯作らないといけないで、今日は帰ります」

「うう~…い、郁人…うううう~」


 郁人の発言に、さらに顔が赤くなって恥ずかしくなる美月は、うめき声をあげながら、母の美里をリビングに必死に押し込もうとするのである。


「あら、残念ね…じゃあ、郁人君また、遊びに来てね」

「あ、はい、また来ますね…じゃあ、美月、帰るな」

「う、うん…郁人…またね」


 郁人は、そう言って玄関の扉を開けて、自分の家に帰るのである。そんな郁人をジーっと名残惜しそうに見つめる美月に、母の美里は首を傾げるのである。


「お母さん…郁人に変なこと言わないでよね!!」

「え、ええぇ!? へ、変なこと言ったかしら?」


 母の美里に頬をぷくっと膨らませて不満気な美月に、頬を押さえて疑問気な美里なのである。美月は、顔がまだ赤いまま、台所に向かい晩御飯の準備をしだすのである。






 晩御飯の準備が終わり、美月の父の公人が帰ってきて、美悠も自分の部屋から出てくるのである。


「美悠…もう晩御飯だよ」

「わかってる…だから、来たんでしょ」


 かなり不機嫌な美悠は、そう姉の発言に応えて、自分の席に座るのである。そして、夜桜家一同が揃うと、両手を合わせていただきますと言って食事が始まるのである。そして、家族の何気ない会話の中で、美里が、思い出したように郁人の話題を出すのである。


「そう言えば、今日、郁人君がウチに遊びに来てたわよ…フフフ、美月ちゃん照れて可愛らしかったんだから」

「そ…そうなのか…み、美月…いいかい…お付き合いしだしたからと言って…まだ、高校生…節度を守って…その……だな…いいか!! 美月!!」

「う、うん?」


 しどろもどろな父の公人の発言に、首を傾げる美月は、よくわからないまま頷くのである。美悠は、黙々と食事を続けるのである。



「そう言えば……今日は、美月ちゃん…素直に郁人君帰したわね…いつもなら、郁人君の腕にしがみついて、放さないのに…」

「わ、私そんなことしないよ!!」


 母の美里の発言に、美月は、顔を真っ赤にして否定するのである。その様子に、黙々と食事を続けていた美悠が、姉の方を見るのである。


「…お姉ちゃん…いつも、絶対、ご飯食べてもらうって我儘言うじゃない」

「い、言わないから!! それに…い、郁人も家のことしないといけないし…」


 美悠は、真直ぐ姉の方を見つめて、疑問を口にすると、必死に否定した後に、ぼそぼそと言い訳を言い出す美月なのである。


「ふ~ん…そう…別に…どうでもいいけどね」


 美悠は、完全に話題に興味を失い食事を再開するのである。しかし、美悠は確かに姉にしては様子が変だとは心の片隅でそう思うのだった。


 美悠の普段とは違う様子に、やはり心配になる美月は、カレンダーを見ると、4月ももう終わり、もうすぐゴールデンウィークなことに気がつくのである。


(もうすぐゴールデンウィーク…い、郁人とで、デートとか…い、郁人の家にお泊りとか…りょ、旅行はさすがに無理でも…な、何かあるよね!! フフフフ)


 美月は、突然上機嫌になり、ニコニコ笑いだすので、父の公人と母の美里は、美月のことが心配になるのであった。そんな中、美悠だけが、ただひたすらご飯を食べ続けるのであった。






 そして、美月は、お風呂に入って、自分の部屋に戻ると、例のクマのぬいぐるみと目が合うのである。ジッとクマのぬいぐるみを見つめる美月は、突然ににやにやと、にやけだして、クマのぬいぐるみに駆け寄って抱き着くのである。


「郁人、郁人、郁人、郁人!! 大好きだよ!! 郁人!!」


 クマのぬいぐるみに顔をうずめながら、ベッドにダイブして、そう叫ぶ美月なのである。そして、しばらくクマのぬいぐるみを抱きしめながら、顔をスリスリする美月は、突然起き上がり、スマホを手にもって、ある人物に通話をかけるのである。


 本日も、ゆるふわ宏美は、美月の郁人トークに付き合わされることになるのである。


 そして、その夜、美月は幸せな気分で眠りに落ちるのである。しかし、美月は、昔よく見ていた、彼女にとっての悪夢を見ることになるのであった。


 小学生の郁人が、美月の前に居たのである。美月は、ジッと、子供の頃の郁人の背中を見ているのである。美月は、この夢をよく知っている、自身が昔よく見ていた夢だからである。悪夢だと、美月は夢の中で認識し、なぜ今更この夢を見るのかと疑問に思うのである。


 突如、小学生の郁人が、歩き出す、美月は、手を伸ばすが、届かない。


「待って、いっくん…待ってよ!! みつきを置いて行かないでよ!! いやだよ!! 行かないで!! いっくん!!」


 小学生の美月は、その場に座りこんで、走っていく郁人の背中に泣きながらそう言うが、郁人はどんどん遠ざかっていくのである。郁人に置いて行かれ、一人暗闇の中で泣く小学生の美月は孤独なのである。


「……何で…今更…こんな夢を見るのよ……大丈夫だよね…だって、私と郁人は恋人同士になったんだよ…大丈夫、大丈夫」


 悪夢から覚めて、涙を流して、汗でびっしょりな美月は一人頭を抱えてぼそりとそう呟くのである。小学生の時よく見ていた夢を、何故このタイミングで見たのかと、疑問に思う美月は、大丈夫と何度も心の中で念じるのである。






 そして、次の日、郁人と一緒に登校していると、ゴールデンウィークの話をする郁人に、期待を膨らませる美月だが、郁人の一言で、昨日の悪夢を思い出す美月なのである。


「美月…ゴールデンウィーク、いつも通り、雅人と美悠ちゃん誘って、母の日のプレゼント買いに行くだろ? いつがいい?」

「え!? あ…う、うん…い、いつでもいいよ…そ、その…い、郁人?」


 美月は、その郁人の誘いで一気に不安になり、モヤモヤするのだが、郁人は、美月が落ち込んでいることに気がついて笑うのである。


「大丈夫…美月、二人でもどこか行こうな…あれなら、俺の家で、オールでアニメ鑑賞会もいいかもな」

「え!? い、郁人!? そ、そうだね!! うん!! いいと思うよ!! えへへ…た、楽しみだよ!!」


 そう郁人が言うと、上機嫌になる美月なのである。もう、美月は、昨日の悪夢や先ほどのモヤモヤは吹き飛んでしまっているのだった。


 しかし、ゴールデンウィークに、美月はこの悪夢を見た理由を知ることになるのであった。

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