第76話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その1
「美月…おはよう…今日も美月は可愛いな」
今日も、学校に登校するために、家を出る郁人と美月は、同じタイミングで家を出て来て、家の前でお互いの視線が合うと、郁人は優しい笑みを浮かべながらそう言うのでる。
「あ、あう~…お、おはよう…い、郁人…い、郁人もその…か、か、か……」
顔を真っ赤にして、照れる美月は、カッコいいよの一言が言えずに、口をパクパクさせながら、顔を伏せてしまうのである。
「じゃあ、行こうか…美月」
郁人は、照れに照れて、顔を真っ赤にして伏せている美月に近づいて、手を握るのである。自然に指を絡めて、恋人繋ぎをする郁人に、心臓バクバクでときめく美月なのである。
(郁人、郁人、郁人!! かっこいいよ!! 今日もカッコいいよ!!)
歩き出す郁人の横顔をチラチラ見ながら、デレデレに顔を緩ませる美月だったが、ハッと、思い出すのである。今日は、郁人に部屋に来てもらいたい美月は、どうやって、郁人を誘おうかと考えるのである。
(ま、ま、待って…い、いつも私…なんて言って郁人の事…誘ってたの!? 思い出すのよ!!)
美月は必死に過去の自分を思い出すのであるが、思い出すのは、とくに意識せずに、誘っていた記憶なのである。
(わ、私…なんで今まで、こんなに簡単に郁人の事を誘えてたのよ!? は、恥ずかしいけど…でも…いい加減…郁人に部屋に来てもらいたいし…)
郁人の横顔をチラリとのぞき込む美月は、普段通りの郁人の様子に、よしと心の中で気合を入れるのである。
「郁人!郁人!郁人!郁人!郁人!郁人!!」
「ど、どうした!? 美月!?」
突然美月が、足を止めて、郁人の名前を連呼しだすのである。必死に郁人の名前を連呼する美月に驚く郁人なのである。
「そ、その……あのね!!あのね!!あのね!!あのね!!」
「お、落ち着け美月…ドドド、どうしたんだ!?」
美月は、息切れを起こして、はぁはぁと胸を押さえて、呼吸を整えているのである。
「だ、大丈夫か? 美月?」
美月の突然の奇行に、驚きながらも心配する郁人なのである。
「郁人!! あのね!! 今日だけど…その……今日は…わ、わ、私の部屋で遊ぼうよ!!」
顔を真っ赤にして、ぎゅっと瞳を閉じで、力強く全力でそう言い放つ美月に、郁人はポカーンとするのである。
「あ…ああ…別にいいけど…そ、それだけか?」
「う、うん…そ、そうだよ…い、郁人…じゃあ、放課後私の家だからね!!」
呆然とする郁人に対して、物凄く嬉しそうな美月は、心の中で全力スキップして、にやにやとにやけるのである。そんな、美月の様子に困惑しながらも、嬉しさのあまり上の空の美月の手を引いて、学校に向かう郁人なのであった。
今日は、一日上機嫌で過ごした美月は、やっと待ちに待った放課後になり、引き留める政宗と浩二を完全スルーして、急いで、学校を出て、郁人と合流する美月なのである。
郁人と合流した美月だが、郁人の顔を見ると心臓がバクバクになり、照れに照れてしまう美月は、モジモジしながらも、郁人に手を引かれて、一緒に家まで帰るのである。そんな、美月に他愛のない話をする郁人を、チラリと見て、相槌を打っては、顔を真っ赤にして照れてしまう美月なのである。
(うう~…郁人がカッコいいよ…大好きだよ!! 郁人!!)
郁人の横顔を見て、デレデレになる美月に、郁人は、普段通りに接するのであった。そんな二人は、いつの間にか自分たちの自宅にたどり着くのである。
「じゃあ、美月、後で家に行くな」
「う、うん…待ってるからね!! ぜ、絶対に来てよね!!」
「あ…ああ、絶対に行くから…安心しろ」
なぜか、不安そうな美月に、郁人は少し戸惑うが、ニッコリ笑って、手を振って、家に帰るのである。そんな郁人をジッと見送った後に、デレデレに顔が緩む美月は、ニヤニヤとにやけながら、自分も家に帰るのである。
郁人は、家に帰り、着替えて、届いていた荷物を開封して、美月の家に向かうと、美月が着替えを済ませて、私服で自分の家の玄関の前で、立って待っていたのである。
「美月…待っていてくれたのか? ありがとな」
「う、うん…郁人…勝手に鍵あけて入ってきていいって言っても、遠慮するからね」
「それは…そうだろ…美悠ちゃんいるしな…勝手に入るのはまずいだろ」
「別に、美悠も気にしないと思うよ…私だって郁人の家に普通にお邪魔するし…」
少し不満な美月は頬を膨らませて、郁人にそう言うと、郁人は美月の方を見ると、さも当然のようにこう言うのである。
「だって、俺の部屋は、もう美月の部屋でもあるだろ…美月と一緒に買ったテレビとか漫画とかあるしな」
「え!? い、郁人!?」
郁人のその発言に、目を見開いて驚き、顔を真っ赤にして、頬を両手で押さえる美月なのである。
(い、郁人!? そ、それって…つまり…私達…もうすでに、半同棲してるってことだよね!? そう言ってるんだよね!? 郁人!!)
美月は、話が飛躍して、真っ赤になって照れながら郁人を見つめるのである。そんな、美月の様子に首を傾げる郁人なのであった。
「と、とにかく…家に入ろうよ…郁人!!」
「あ…ああ…そうだな」
美月は、慌てて照れながら、扉を開けて郁人を家に招き入れるのである。郁人はお邪魔しますと言って美月の家に上がり、リビングの方を見るが、誰もいないのである。
「あれ…美悠ちゃん帰ってないのか?」
「あ…帰ってきてるよ…最近、帰ってきても、すぐに部屋に籠っちゃうんだよね…前は絶対にリビングにいたのにね」
そう不思議そうに言う美月に、郁人もそう言えば、最近、雅人もそうだなと思うのであった。
「でも、雅人君もそうだよね…最近、郁人の家に行っても、リビングにいないよね?」
「まぁ…そうだな」
二人はそんな会話をしながら、階段を上り美月の部屋に向かうのである。そして、美月の部屋に入ると、美月はすかさず、クマのぬいぐるみの所に行って、クマのぬいぐるみを抱きしめて、郁人の所に戻るのである。
「はい!! 郁人!! クマさんが郁人に久しぶりに会えて嬉しいって言ってるよ!! 抱っこしてあげてね!!」
「あ…ああ」
美月の部屋に郁人が来ると必ず美月から、クマのぬいぐるみを抱っこさせられる郁人なのである。
「毎回思うけど…美月…これって…」
「いいから、郁人は、その子を抱っこしてればいいんだよ…郁人が買ってくれたんだから、郁人がお父さんなんだよ…クマさんも郁人に甘えたいんだよ!」
「そ…そうか」
美月に頬を膨らませて、そう言われると、郁人は納得するしかないのであった。しかし、美月は、今の自分の発言を思い出して、みるみる顔を赤くして、両手で頬を押さえて悶絶するのである。
(い、い、い、郁人がお父さんなら…わ、私がお母さんだよね!? ううう、恥ずかしいこと言っちゃたよ!!)
そんな美月の不審な様子に疑問気な表情を浮かべながらも、クマのぬいぐるみを抱っこしながら、床に座る郁人なのである。
「そう言えば…今日、新刊の漫画が届いていたから、持ってきた…美月続きが気になってただろ?」
「あ…うん!! 気になるところで終わってたよね!!」
郁人がどこからともなく、一冊の単行本を取り出すのである。それは、青年漫画の青春恋愛モノの漫画である。美月は、現実に引き戻されて、漫画に興味を示すのである。
「じゃあ、一緒に読むか…俺も続き気になるしな」
「え!? い、一緒に!?」
「あ…ああ…いつも新刊出たら一緒に読んでるだろ?」
「そ、そうだね…そうだよね!! うん!!」
顔を真っ赤にして動揺する美月に、郁人が、ポンポンと自分の隣の床を叩いて、美月に座れと合図を送るのである。美月は照れながら、ゆっくりと郁人の隣に座るのである。
郁人はクマのぬいぐるみを抱っこしながら、漫画を読みだすと、美月が見やすいように、位置を調整するのである。
(い、い、郁人、肩…肩当たってるよ…ち、近いよ!!)
郁人と密着する形になってしまい美月は、恥ずかしさで、心臓バクバクなのである。
「美月? 読んだか?」
「え? あ…うん!! 読んだよ!!」
「…そうか」
もはや、美月は漫画の内容など頭に入ってこないのである。郁人と触れ合って嬉しさと恥ずかしさで悶える美月なのであった。
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