第67話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ゆるふわサブヒロインと一緒にお弁当が食べたい。 その15

 美月の後を追いかける郁人は、人気のない渡り廊下で、政宗に腕をつかまれて、無理やり、引っ張って連れていかれている美月を見つけるのである。


「美月!!」

「い、郁人!?」


 追いかけてきてくれた郁人の所に行こうとするが、政宗が美月の腕を引っ張って、行かせないようにして、浩二が前に出るのである。この場には、郁人と美月と政宗と浩二しかいないのである。


「朝宮!! 美月ちゃんには近づくなって言っただろーが!!」

「何でお前にそんな事言われないといけないんだ? だいたい、美月が嫌がってるだろ」


 郁人が、浩二を睨みつけるのである。ありえないぐらい怒っている郁人の様子に、たじろぐ浩二である。


「朝宮…貴様みたいな女たらしのクズを、美月に近づけさせる訳にはいかない」

「覇道君!! 郁人はクズじゃないよ!!」

「美月は、わかっていないだけだ!! 見ただろう!! 女二人を侍らせ、誑し込んで、自分のモノのように従えている姿を!!」

「そんなことないよ!! そもそも、郁人はひろみんとはお友達だし、あの自称幼馴染には、付きまとわれてるだけだよ!!」

「美月…騙されているんだよ…朝宮のクズに…学校で、朝宮のクズな噂…知っているだろう?」

「それ、噂だよね!! 私は、本当の郁人を知っているんだよ!! 幼馴染なんだから!!」


 美月を必死に説得する政宗は、美月の郁人は私の幼馴染発言を聞いて、急に黙り込むのである。政宗の瞳のハイライトは消えているのである。


「と、とりあえず、朝宮…テメェがいうと面倒だから、どこかに行けって!!」


 美月と政宗の口論を見て、驚きの表情を浮かべた後に、郁人の方を睨んで、そう言い放つ浩二に、納得のいかない郁人は、不機嫌な表情で浩二を見るのである。


「いいから、美月を放せ…嫌がってるのがわからないのか?」

「貴様には関係ないだろう!!」


 激昂する政宗を、鬼の形相で睨みつける郁人の事を、美月は、心配そうに見つめるのである。


「朝宮…てめぇが美月ちゃんの幼馴染なのは知ってるけどな…今のてめぇが美月ちゃんと関わるのは、美月ちゃんにとってよくねーってわかんねーのかよ?」

「さっきも言っていたな…永田…お前はなんの話をしているんだ?」

「本気でわかんねーのかよ…だから、てめぇはクズって言われてるんだろーが!!」


 郁人の問いに対して、浩二は、拳を握り締めて、怒りの声をあげるのである。震えて、怒りを抑えようとする浩二に冷ややかな視線を向けて、ため息をつく郁人である。


「とにかく…まず、美月を放せ…話はそれからだ」

「…政宗…」


 浩二は、そう言われて、政宗の様子を確認する視線を送るが、政宗は美月の腕を放す様子はないのである。浩二は、ため息をつき、郁人に向き直るのである。


「朝宮…わりぃがそれはできねーよ…もしも、てめぇが、美月ちゃんの事を思うなら…ここはおとなしく引いておけ…話は今度僕が聞いてやるからよ」

「…それは、無理な相談だ…俺にとって、何が一番ムカつくかと言われたら…美月の悲しい姿を見ることだからな」

「だったら!! なおさら、てめぇが学校で美月ちゃんに関わるんじゃねーよ!!」


 郁人は、浩二にそう言われて、美月の方を見るのである。美月は、郁人の事をジッと見ているのである。悲しそうな不安そうな美月を見て、郁人の心に痛みが走るのである。


「いいから、覇道!! 永田!! 美月を放せ!! これが最後だ…美月の事を放さないなら…容赦はしない!!」


 郁人は激昂し、政宗と浩二にそう言い放つのである。美月すら、郁人がこんなに怒っているのを見たことがないので、驚きの表情を浮かべるのである。そんな郁人に、浩二と政宗は、顔を伏せるのである。


「もういいでしょ…覇道君…放して…よくわかんないけど…郁人は悪くないよ」


 美月は、ジッと政宗の顔を見ると、政宗が悔しそうな表情を浮かべて、美月の腕を放すのである。解放された美月は、郁人の所に走っていくのである。


 その様子を拳を握り締め、歯を食いしばり、嫉妬の怒りに震えながら見つめる政宗である。浩二も、悔しそうに顔を伏せるのである。


「い、郁人!! そ、その私…」

「大丈夫だったか? 美月…腕…痛くないか?」

「う、うん…大丈夫だよ…その…私…郁人が来てくれて嬉しかったよ」


 美月は、そう満面な笑顔で郁人に言うと、郁人も笑い返すのである。さきほどの、怒りはどこにやら、郁人は優しい微笑みを美月に向けるのでる。


「朝宮…てめぇと美月ちゃんがどういう関係なのか…僕には正直どうでもいい…でもな…学校では美月ちゃんに構わないで欲しい…学校外でなら…僕はとやかくは言わねーから」

「浩二!?」


 その様子を見て、浩二は何かを悟ったのか、郁人に頭を下げてお願いするのである。そんな浩二に、動揺する政宗である。


 郁人は、そんな浩二をジッと見て、美月も不安そうに浩二を見つめるのである。


「俺と美月の…関係か」


 郁人は、考えるのである。自分と美月の関係は、高校に入ってから大きく変わってしまったと、確かに恋人同士にはなった。だけど、結局、恋人の時より、幼馴染の時の方が、自分たちはずっと仲が良かったかもしれないと、一緒に昼休みを過ごすこともできない関係に、なってしまったのかと思うのである。


「郁人?」


 そんなことを考える郁人を不安そうに見つめる美月の顔が郁人の瞳に映るのである。


「そうだよな…別に…俺は…ただ…」


 郁人は、美月に笑いかけるのである。そして、美月の食べかけのお弁当の蓋を開けるのである。


「い、郁人?」


 郁人の行動に疑問を抱く美月は首を傾げるのである。そんな、美月に、郁人は箸を持って、美月が食べられなかったミニハンバーグをつかむと、美月の口元にもっていくのである。


「あ~ん」

「え!? い、郁人…あ、あ~ん」


 そう言って、美月にミニハンバーグを食べさせる郁人である。その様子に驚きの表情を浮かべる浩二と政宗である・


「美月…美味いか?」

「う、うん!! 美味しいよ!!」

「そうか…よかった…美月が、ハンバーグ食べれなくて悲しそうにしていたからな…食べられてよかったな…美月」


 満面な笑みを浮かべて、幸せそうにミニハンバーグを食べる美月を見て、微笑む郁人は、政宗と浩二を見て、険しい表情を浮かべるのである。


「永田…覇道…お前らが、美月の事を考えて、何かをしようとしているのは、なんとなくわかる…でもな…美月に悲しい顔をさせるのだけは…許さない…美月は、俺の大切な幼馴染だ…わかるよな」


 郁人は、あえて恋人という言葉を使わなかったのである。郁人は、理解したのである。自分と美月は普通の関係じゃないと、たぶん、普通の恋人で、普通に恋愛して、普通に夫婦になる。そんな、順序を追っていく関係は、自分達には必要ないと感じたからである。


「美月…クラスも違うから…俺が、学校で美月にしてやれること何て、何もないかもしれない…美月は、これからも、クラスが一緒のあの二人と上手に付き合っていかないといけないんだろうな…でも、何かあったら、俺に言えば、絶対に美月を助けるからな」

「郁人?」


 美月にそう言って、優しく微笑む郁人は、お弁当を片付け始めるのである。再度、浩二と政宗を見る郁人は、険しい表情を浮かべるのである。


「永田…俺は、クラスが違うから…美月の状況なんてわからない…お前は、美月に危害を加えるつもりはないんだな?」

「あ…ああ…もちろんだぜ…そこは、マジで信じてくれていいぜ」

「そうか…わかった…美月…じゃあ、俺は行くな…放課後に…またな」

「う、うん…郁人…またね」


 そう言って、郁人は食堂に戻ろうとするが、浩二が郁人に近づき、肩をつかんで引き止めるのである。


「朝宮…今度、二人で話がしたい…今、引いてくれた礼じゃねーが…その…美月ちゃんの事…てめぇに話しておきたくなった」

「…そうか…わかった…美月を通して連絡してくれ」


 そう、美月と政宗に聞こえないように会話する郁人と浩二である。その様子を、疑惑の眼差しで睨んで見ている政宗である。


「郁人!! ミニハンバーグ美味しかったよ!! ありがとう!!」


 この場を去ろうとする郁人の後ろ姿に、手を振りながら、美月はそうお礼を言うのである。そんな美月に笑顔と、右手を振って、返事を返して、そのままこの場を去る郁人なのである。


「…じゃあ…教室に戻ろうね」


 美月はそう言って、自分の教室に向かって歩き出すのである。先ほどの不安な表情は美月からは消えていたのである。そんな美月を、嫉妬の眼差しで見つめて、政宗は、美月の後を追うのである。


「政宗…おまえ…」


 浩二は、その光景を見て、疑惑の表情を向けるのである。そして、頭をボリボリ掻いて、二人の後を追うのであった。





 何とか、梨緒を引き留めることに成功した宏美は、郁人が、置いて行ったお弁当と漫画雑誌を片付けながら、自分も仕込んでおいた漫画雑誌を取り出すのである。その光景をニコニコ見ながら、梨緒は宏美に近づいてくるのである。


「宏美ちゃん…お弁当の件…どうしようかなぁ」

「り、梨緒さん…あ…そう言えばですね~…わたしぃ、り、梨緒さんも食べたいかと思いまして~…残しているんですよ~…卵焼きと、ミニハンバーグです~」


 何とか、郁人の事を追うのは諦めてくれた梨緒だが、お弁当の件は根に持っているみたいで、焦るゆるふわ宏美は、漫画雑誌を抱きしめて、こんな時のために、残しておいたおかずを梨緒に見せるのである。


「……ふ~ん…そっかぁ…そうなんだねぇ」

「り、梨緒さん!?」


 顔を伏せて笑っている梨緒に、恐怖で震えるゆるふわ宏美である。


「フフフ、やっぱり、宏美ちゃんは優しいねぇ…嬉しいなぁ」


 満面な笑みを浮かべて、喜ぶ梨緒に、胸を押さえて、心の底から安堵する宏美である。梨緒にお弁当の残りを渡す宏美は、漫画雑誌を机の上に置くのである。


「梨緒さん…そんなに郁人様のお弁当が食べたいなら、本人にお願いすればいいじゃないですか~…郁人様の幼馴染なんですし~」


 何気なくはなった宏美の一言で、お弁当を食べていた梨緒の動きがピタリと止まるのである。


「そうだねぇ…そうだよねぇ」


 ぼそりとそう呟く梨緒に、疑問の表情を浮かべる宏美である。この時は、そんなに疑問に思わなかったが、この後、宏美は、この梨緒の言葉の意味を知ることになるのである。


「ゆるふわ…悪いな…片付けてくれたのか?」


 郁人が食堂に戻ってきて、片付け終わって、帰る準備をしていた宏美に話しかけるのである。


「はい~…梨緒さんも食べ終わったみたいですし~…教室に戻りますか~?」

「そうだな…あ…ゆるふわ…お前に頼みたいことがあるんだが」


 郁人の深刻そうな表情に、ゆるふわ宏美は嫌な予感がするのである。そして、そのお願いは、後で話すと言って、教室に戻る郁人の後を追う宏美と梨緒だが、教室に戻り間、梨緒は一言も言葉を発さなかったのである。


 そして、ゆるふわ宏美は、今日の放課後に、郁人からのお願いで衝撃的な事実を知るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る