第68話ゆるふわサブヒロインは、幼馴染たちの調査をするのである。 その1

 ゆるふわ宏美は、アンパンと牛乳を持って、7組教室の前で張り込みをするのである。なぜ、牛乳とパンを持っているかと言うと、郁人からの差し入れだからである。


 物凄く目立っているゆるふわ宏美だが、本人はいたって真面目なのである。廊下から、7組教室内のある人物を監視しているゆるふわ宏美なのである。


 彼女がなぜ、このような行動を起こしているかという事を、説明するには、昨日の出来事を語らなければならないのである。


「ゆるふわ…お前に頼みたいことがあるんだが…」


 昨日の地獄の食堂事件の後に、ゆるふわ宏美は、郁人にそう言われて、その頼みの内容を聞くために、放課後に、朝に、いつも待ち合わせている場所で、二人きりで会うことになったのである。


「悪いな…ゆるふわ」

「いえいえ~…大丈夫ですけど~…頼みってなんですかね~? 嫌な予感しかしないんですが~?」


 一足先に待っていた郁人が、ゆるふわ笑顔で、待ち合わせ場所に来た宏美に、そう言うと、宏美は、疑惑の表情を浮かべるのである。


「その前に…ゆるふわ…お前に…話しておかないといけないことがある…いいか?」

「は、はぁ~…なんですか~?」


 郁人の真剣な表情に、気圧される宏美は、緊張の面持ちなのである。


「実はな…り、梨緒の事と…覇道の事なんだがな」

「梨緒さんと覇道さんの事ですか~?」

「いいか…これは、他言無用だ…いいな」


 郁人が、そう言って、宏美の両肩を、両手で掴んで、念を押すのである。ゆるふわ宏美は、コクリと頷くのである。頷いてしまったのである。ここで、ゆるふわ宏美は、何気なく頷いてしまったことを、後程、後悔することになるのである。


「ゆるふわ…梨緒は、俺と幼馴染と言っているだろう? あれなんだが…」

「待ってくださいね~…すごく、嫌な予感がしますよ~…わたしぃ、帰っていいですかね~?」


 物凄く嫌な予感がするゆるふわ宏美は、ぎこちないゆるふわ笑顔を浮かべて、聞きたくないですよ~とこの場を去ろうとするが、郁人に両肩を掴まれているため、逃げられないのである。


「全く…梨緒の事を、俺は覚えてないんだ」

「…や、やっぱりですか~!!!」


 脳内で、今日の梨緒の発言を思い出して、嫌な予感がした宏美は、絶対に聞きたくなかったのである。


「ああ…あとな…覇道も…美月の幼馴染って言ってるだろ…俺は、美月とは産まれた時から一緒に居るんだが…アイツの事も、全く記憶にないんだよな」

「…嘘ですよね~!? 郁人様…記憶力大丈夫ですか~!?」

「……悪い方ではないと思うが…正直…わからんな」


 嫌な予感しかしない宏美は、目を泳がせるのである。


「で…頼みたいことなんだがな」

「いやですよ~!! 聞きたくないですよ~!! 聞こえませんよ~!!」


 宏美は、いやいやと首を振って、聞きたくないと言うが、構わず郁人が話を続けるのである。


「それとなく…二人に過去の事を聞いてくれないか? それと、覇道と永田が、なんであんなに美月に構うのかも調べてもらえないか?」

「うう~…やっぱりですか~!?」

「頼む…こんなことを頼めるのは、ゆるふわだけなんだ」

「うう~…ずるいですよ~…では、わたしぃが頼みごとを引き受ける代わりに~、郁人様は今後、学園でのアイドル活動をきちんとやってもらいますからね~…いいですか~?」

「…し、仕方ないな…その条件で…頼む」


 郁人と宏美の間で交渉が成立するのである。ただ、自信がない宏美は、不安気なのである。


「言っておきますけど~…あまり期待しないでくださいね~…り、梨緒さんや、覇道さんの過去の事を郁人様が、わたしぃに探らせてるってバレたらまずいですからね~…とくに梨緒さん…わたしぃはまだ、死にたくないんですからね~!!」

「あ…ああ…できる範囲でいいんだ…後は、美月の学校での様子を確認してもらいたいんだ…正直…あの二人の事が不安でな」

「…まぁ…郁人様は、美月さんの彼氏さんですしね~…彼女が、男の人といると不安になりますよね~」

「あ…ああ…そうだな」


 ゆるふわ宏美は、郁人の発言に同調して、うんうんと頷くが、何故か郁人の方は歯切れが悪いのであった。そんな郁人に少し疑問を感じるが、とくに追及はしない宏美なのである。


「そう言えば…美月さんはよかったんですか~?」

「美月は、先に帰ってもらっている…ゆるふわに用事があるって言ったら、私も行くって言いだしてな…先に帰らせるの苦労したけどな」

「正直に言うからですよ~…でも、美月さんには、お二人の事聞いたんですか~?」

「美月にか? ああ…美月も記憶にないらしい」

「…え!? 覇道さんの事もですか~!?」

「ああ…だから…ゆるふわに探りを入れて欲しくてな」


 驚きの表情を浮かべるゆるふわ宏美は、さすがに二人とも記憶にないという事に、違和感を覚えるのである。


「…そうですね~…確かに、今日みたいに険悪になるのもよくないですし~…早めに解決しといたほうがいいかもしれませんね~」


 考え込む宏美に、郁人も同意するのである。


「わかりました~…この不肖、細田宏美…明日、さっそく調査してみますね~!!」


 ゆるふわ宏美は、郁人に敬礼ポーズをしながら、ゆるふわ笑顔でそう言うのである。


「ありがとな…ゆるふわ…今度最高のツナサンド作ってやるからな」

「そ、それは遠慮しますね~…り、梨緒さんが恐ろしいですからね~」


 郁人のお礼に、引きつったゆるふわ笑顔で拒否する宏美なのであった。こうして、宏美は、探偵として、梨緒と政宗の過去と、美月の学園生活の様子の調査をすることになったのである。

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