第66話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ゆるふわサブヒロインと一緒にお弁当が食べたい。 その14

 場の雰囲気は、最悪である。いつ、喧嘩が始まってもおかしくないのである。そんな中、郁人に、全てを託されたゆるふわ宏美は、引きつったゆるふわ笑顔を浮かべるのである。


「み、みなさん自己紹介も終わったことですから~…こ、ここは、これから、仲良くしましょうという事で~…よ、よろしくお願いしますね~」


手を合わせて、冷や汗ダラダラ引きつったゆるふわ笑顔でそう言う宏美だが、美月と梨緒はバチバチの睨み合いを続けており、政宗と浩二は、そう言った宏美を、激昂の眼差しで睨みつけるのである。


「そ、そうだな…みんな仲良しさんがいいよな…うん…仲良しさんだ」

「そ、そうですよ~…仲良しさんですよ~!! 仲良くしましょうよ~」


 そんな中、郁人だけが、ゆるふわ宏美を援護し、引きつった、笑顔を浮かべてそう言うと、宏美も郁人とに同調して、緊迫する雰囲気の中、仲良くしよう発言をするのであるが、完全にスルーされる二人である。


「何か言いたいことでもあるのかなぁ? 覇道君と永田君と仲良しな夜桜さん?」

「だから、別に仲良く何てないんだからね!!」

「うん…わかってるよぉ…ツンデレって、やつだよねぇ…よくわからないけど、そういうのなんだよねぇ」

「本当に、違うんだからね!! だいたい、郁人の幼馴染は私なんだから、勝手に幼馴染名乗らないでよ!!」


 ついに、美月と梨緒が口喧嘩を始めてしまうのである。バチバチの二人は、睨み合いながら、激しく言い合うのである。


「おい!! 貴様等!! 仲良しなどと言って、美月をたぶらかす気だろ!! 俺達は騙されたりはしない!!」

「そうだぜ!! 少し昔からの知り合いってだけで、美月ちゃんに幼馴染なんて言わせてんだろーが!!」


 怒り狂う政宗と浩二に、郁人は、ゆるふわ宏美に耳打ちをするのである。


「ゆるふわ…これ…どうすればいいと思う?」

「知らないですよ~」

「おい!! 貴様等!! いい加減にしろ!! 先ほどから、二人で内緒話をして…いったい何をたくらんでいるんだ!! この状況も貴様等の仕業なのか!?」


 喧嘩する美月と梨緒を指して、そう郁人と宏美を非難する政宗に、郁人も宏美も、自分たちは関係ないという表情を浮かべるのである。


「ゆるふわ…何とか誤解を解いてくれ」

「郁人様がどうにかしてくださいよ~」


 なぜか、誤解されている郁人と宏美が、ヒソヒソと会話するのである。やはり、その様子が気に入らない、政宗と浩二の怒りを増幅させるのである。


「夜桜さん…覇道君とお似合いだと思うよぉ…ほらぁ…覇道君って、夜桜さんの事好きみたいだし…幼馴染同士だし…良いと思うなぁ」

「そんなに、覇道君、覇道君って言うなら、三橋さんが覇道君とお付き合いしたらいいと思うよ…郁人の事は、本当の幼馴染の私に任せてくれて大丈夫だよ」

「本当の幼馴染ってなにかなぁ? もしかして、私が偽物って言いたいのかなぁ?」

「そう思うってことは、そう言う事だと思うよ」


 美月と梨緒のバチバチのやり取りは続いているのである。お互い、睨み合いが続き、これ以上続くと取っ組み合いが始まりそうなほど険悪なムードである。


「おい、ゆるふわ…マジで止めないとまずいぞ」

「わ、わかってますが~…わたしぃでは、止められませんよ~…いくとさまぁ~何とかしてくださいよ~」

「大丈夫だ…ゆるふわなら、何とかできる…お前のその、ゆるふわ笑顔で場を何とか和ませてくれ」

「なんですか~!? そのゆるふわ笑顔って~!?」


 無理やり、矢面に立たされる宏美は、喧嘩する美月と梨緒に、郁人と宏美を睨む政宗と浩二を見ると、拳を握り締めて気合を入れて、ニッコリ笑顔を作るのである。


「み、みなさん~…け、喧嘩はやめましょうね~…に、ニッコリ笑顔ですよ~…スマイルですよ~」


両手の人差し指で頬をついて、ニッコリ笑顔でそう言うゆるふわ宏美に、視線が集中するのである。ジーっと見られる宏美は、次第に嫌な汗が噴き出してきて、笑顔をぎこちなくなるが、そのポーズを続けるのである。


「貴様…気持ち悪い笑顔を浮かべて何を言っている? まさか、馬鹿にしているのか!?」

「細田…何屈託だらけの笑顔を浮かべてやがる!!」

「宏美ちゃん…とりあえず、変な笑顔してないで、少し黙っててねぇ」


 政宗と浩二と梨緒から、そう言って、ボロカスに言われて、涙目で郁人の方を見るゆるふわ宏美である。


「お、俺は良いと思うぞ…ゆるふわ笑顔…に、ニッコリ笑顔で、スマイルだよな」


 郁人は、ぎこちない笑みを浮かべて、ゆるふわ宏美に加勢するのである。


「朝宮…てめぇまで、キモイ笑顔しやがって…許さねーぞ!!」

「貴様…ふざけた笑顔で…馬鹿にしているんだろう!!」

「郁人君…ごめんねぇ…良い笑顔だけど、今は、夜桜さんと決着つけないといけないから…おとなしくしていてねぇ」


 援護した郁人も、ボロカスに言われるので、ゆるふわ宏美と郁人は、美月を見るのである。不機嫌で、梨緒を睨んでいた美月が、二人の視線に気がつき、首を傾げて、少し考え込むと、ハッとなり、コクコクと頷くのである。


「えっと…に、ニッコリ笑顔でスマイルだよね」


 美月が物凄くぎこちなく、ゆるふわ笑顔を再現しようとしているのである。両手の人差し指で頬をついて、笑顔を無理やり作る美月に、驚く政宗と浩二に、梨緒はあからさまに、ヤンデレ笑顔を浮かべるのである。


「み、美月…やめるんだ!! そんな怪しい笑顔してはいけない!!」

「美月ちゃん、細田に悪影響を受けちまったか…細田…ぜってー許さねーぜ!!」

「夜桜さん…それ…馬鹿にしているってことでいいよねぇ」


 美月は、そう言われるが、完全スルーして、郁人と宏美の方を見て、ドヤ顔で、やってやったという顔をして、褒めて欲しそうな表情を浮かべているのである。


「美月の天使の笑顔が効かないなんて…あいつら…人間なのか?」

「それ…郁人様だけですよ~…効きそうなの~…どうするんですか~? 物凄く怒ってますよ~?」

「ゆるふわ…大丈夫だ…このまま、笑顔で誤魔化そう」

「ほ、本気ですか~!?」


 ヒソヒソ話を終えて、郁人と宏美は、ニッコリ笑顔を浮かべるのである。美月は、首を傾げた後に、郁人と宏美を見て、とりあえず、ニッコリ笑うのである。


「あ、朝宮…貴様!! ふざけるのも大概にしろ!! 美月をたぶらかすのを止めろ!!」

「そーか…わかったぜ…テメェ等の企みが…」

「浩二…本当かい?」

「ああ…見ろ…アイツらの邪悪な笑顔…細田の奴は、あの邪悪な笑みを流行らせようと企んでやがるだ…美月ちゃんにも、あの笑顔をさせることにより、学校内での自分の地位を確立しようとしてやがるんだ!?」

「な…なんだと!?」

「そーだろ!! 細田!!」

「いえ~…違いますよ~!?」


 決めポーズのように、犯人はお前だと宏美を指さす浩二に、真顔で否定するゆるふわ宏美である。


「このままだと…いけない…浩二、早くこの場から、美月を連れ出さないといけない!!」

「だな…美月ちゃん!! 教室に戻るぜ!!」


 政宗と浩二は、席を立ちあがり、食べ終わった食器を持って、美月の所に行くと、そう言って、美月を連れて行こうとするのである。


「お、おい…お前等、ちょっと待て、なんだその話は意味わからんだろ!?」

「そ、そうですよ~!! なんですか~!? 邪悪な笑みって~!! 失礼ですよ~!!」


 美月を連れて行こうとする二人にそう言って止めに入る郁人と宏美を、睨むイケメン二人である。


「ちょ…待ってよ!! 私は、まだ、食べ終わってないよ!! まだ、最後のハンバーグが残ってるんだよ!! 郁人お手製の和風ミニハンバーグ!!」


 腕をつかまれて、無理やり連れて行こうとされる美月は、絶叫するのである。最後に好物を残す美月は、大好きなハンバーグを食べるところで、政宗と浩二に連れ去られようとしているのである。


「お前等、美月が嫌がっているだろ…話し合えばわかるから…落ち着け」

「朝宮…貴様に言っておく…美月の事は、俺達の問題だ…貴様には関係ない」

「そーだぜ…ただの幼馴染なら口を出すんじゃねーぞ!!」


 そう言われて、さすがに苛立つ郁人の背後に、ニッコリ笑顔で梨緒がいつの間にか立っているのである。


「郁人君…宏美ちゃん…私達も帰ろうねぇ…この人達とは話しても無駄だよぉ…それに、郁人君を馬鹿にして…私達ファンクラブが黙っていると思っているのかなぁ…フフフ、絶対後悔させてあげようねぇ」

「り、梨緒さん…わ、わたしぃは、美月さん達と対立するつもりはなくてですね~」


 そう言って、ヤンデレ梨緒の暴走を止めようとする宏美は、ギロリと梨緒に睨まれて、おとなしくなるのである。


「わりぃーが…こっちも、馬鹿にされたままじゃ終われねーからな…美月ちゃん…行くぜ」

「貴様等…美月に喧嘩を売ったこと…必ず後悔させてやろう」

「え、え!? 何!? どういうことなの!? って、言うか、私のハンバーグ!!」

「み、美月!?」


 郁人は、連れていかれる美月を追おうするも、梨緒に腕を捕まえて、ニッコリ笑顔を浮かべられるのである。


「じゃあ、私達も教室に戻ろうよぉ…ねぇ…郁人君…宏美ちゃん」


 有無を言わせない梨緒の圧倒的な圧に、後ずさりするが、美月が、無理やり、連れていかれるのは、止めないといけないのである。


「悪いが…美月の弁当だけでも、届けてやらないといけない…あいつ…本当にハンバーグ好きだからな」


 郁人はそう言って、梨緒の腕を振り払い、残された美月の食べかけの弁当を持って、美月を追うのであった。そんな郁人を追おうとする梨緒の前に、宏美が立塞がるのである。


「宏美ちゃん…そこ…どいてくれないかなぁ?」

「そ、それは~…む、無理ですかね~…い、郁人様の今後のアイドル活動をしてもらうためには、ここは、郁人様を行かせるべきだとわたしぃは思いますからね~」


 梨緒の放つ圧に、震えながらも、ゆるふわ笑顔を浮かべて、梨緒を止めに入るゆるふわ宏美に、梨緒はため息をついて、少し寂しそうな表情を浮かべて、肩を下ろすのである。そんな、梨緒に対して、宏美はせつない笑顔を浮かべて、顔を伏せるのであった。

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