第65話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ゆるふわサブヒロインと一緒にお弁当が食べたい。 その13

 ニコニコ笑顔の美月は、お友達と恋愛話に憧れていて、最近は、ゆるふわ宏美が、美月の郁人デッキに付き合わされているのである。美月の会話デッキは郁人デッキしかないのである。


「み、美月さん…このメンバーで恋バナは~…ど、どうなんでしょうかね~」

「ええ~…ひろみん…いつも恋バナしてくれるのに…今日何でダメなの?」


 美月が、宏美に首を傾げて疑問顔で尋ねてくるのである。その疑問は、チラリと見て、微動だにせず、沈黙を保っているヤバい男女二人が居るからである。間に挟まれている浩二の強面な表情が、弱気と恐怖で、冷や汗ダラダラなのである。


「そうか…ゆるふわ…いつも美月と恋バナしてくれているのか…ゆるふわ…お前は、実はいい奴だったんだな…最高のツナサンド作って来てやるから、楽しみにしておけ」


 郁人が、ゆるふわ宏美に優しい微笑みを向けてそう言い放つ、宏美は、郁人の扱い改善を望んではいたが、今、感謝の言葉を述べられるのは、困るのである。案の定、梨緒の圧が、宏美に放たれて、ガタガタ震える宏美なのである。


「そうなんだねぇ…宏美ちゃん…私達…お友達だと思ってたのになぁ…そっかぁ…そうなんだねぇ」


 ハイライトオフの瞳にジッと見つめられて、ボソボソとヤンデレボイスでそう呟く梨緒に、恐怖と緊張のあまり吐き気を催す宏美なのである。


「えっと…じゃあ、ひろみん!! 恋バナと言ったら、好きな人だよね…ひろみんは好きな人いるの?」


 口元を押さえながら、ゆっくり美月の方を見る宏美は、美月の質問に、涙目になるのである。宏美は、理解したのである。


(美月さんの中で、対面の三人はいないことになっていますよ~!!)


 ニコニコ笑顔の美月に、泣きだしそうなゆるふわ宏美である。全てを悟った宏美は、とりあえず、この場を何とかしないといけないと思い、郁人の方にどうにかして欲しいと、助けを求める視線を送るのである。


「…ゆるふわ」


 郁人は、優しい微笑みで、宏美に、美月の相手をしてやってくれよなとゆるふわ宏美の肩を叩くのである。ブンブンと首を振って拒否をする宏美を完全に無視して、微笑ましいく、助けを求める宏美と、嬉しそうにニコニコ宏美の返事を待つ美月を見守る郁人なのである。


「わ、わたしぃは、今は好きな人いないですよ~!! な、永田さんとかはどうなんですか~!?」


 宏美は、もうどうにでもなれと、そう言って、比較的この中のメンバーなら、大丈夫そうな浩二に話を振るのである。振られた浩二は、目を見開いて驚いた後に、あからさまに機嫌が悪くなるのである。


「僕の好きな人とかどーでもいいだろーが!! だいたい、てめぇ、細田!! お前の好きな人は朝宮だろーが!!」

「ち、違いますよ~!! わたしぃは、あくまで、郁人様のファンクラブ会長で、マネージャーなんです~!! 勘違いしないでくださいよ~!!」


 浩二の発言に、ギロリと睨む梨緒と、不安気に宏美を見つめる美月に、焦るゆるふわ宏美は、両手を振って、必死に否定するのである。


「それを言うなら~…永田さんも、美月さんが好きなんじゃないですか~!?」


 反撃とばかりにそう言って、浩二に反撃する宏美は、もはやヤケクソテンションである。だが、言われた浩二は、政宗に、眉間にしわを寄せて睨まれ、美月には疑問顔で見られて、郁人と梨緒からは、たぶんそうなんだろうなと言う感じで、浩二を見ているのである。


「ほ、細田、お前なぁー!! 僕は、別に美月ちゃんが好きな訳じゃないねーからな!! ただ、美月ちゃんはちょっと、放っておけないだけだ…朝宮みたいな野郎を近づけさせたくねーだけだ」


 郁人を睨みながらそう言う、浩二に、やはり、梨緒が不機嫌になるのである。美月も、あからさまに、機嫌がよかったのに、不機嫌になって、浩二を睨んでいるのである。


「なぁ…ゆるふわ…俺、なんで、あんなに嫌われてるんだ?」

「し、知らないですよ~…わたしぃだって、嫌われてますよ~」

「誤解をとくために、俺と美月は、付き合っているって言った方が良くないか?」

「絶対に、それだけは、やめてくださいよ~…前に、覇道さんに言った時、全く信じてもらえなかったそうじゃないですか~…今の状況でそんなこと言ったら、暴動が起きますよ~…絶対やめてくださいね~」

「でも、俺と美月揃ってるし…今度は上手く…」

「やめてくださいね~」


 郁人と宏美は、耳打ちで会話し、そう提案する郁人の発言を遮って、宏美は絶対にそれだけはやめろと釘を刺すのである。


「あのねぇ…前から、思っていたんだけどねぇ…夜桜さんのファンクラブの会長さんだっけ? 郁人君の事を敵視しているけど…正直、こっちは迷惑なんだよねぇ…そもそも、こっちは、夜桜さんの事なんて、どうでもいいんだよねぇ…ねぇ…宏美ちゃん?」

「え…そ、そうですね~…で、出来れば、仲良く、活動していきたいと思っていますね~…ほ、ほら、同じような活動しているわけですしね~」


 宏美は、いきなり梨緒に話を振られて焦るのである。郁人を止めるのに必死で話半分しか聞いてなかった宏美だが、とりあえず、当たり障りのない発言を、ゆるふわ笑顔を浮かべて言うのである。


「てめぇ!! 朝宮のファンクラブの会長が直々に、美月ちゃんにちょっかいかけに来てるじゃねーか!! なぁ…細田!!」


 梨緒から、睨まれて、浩二から、激昂されるゆるふわ宏美である。政宗も、ゆるふわ宏美と郁人を睨むのである。


「待って、なんで、ひろみんと郁人が悪いって話になってるのよ!? そもそも、よくわかんないけど、私としては、永田君と覇道君の方が迷惑なんだけど」


 美月の爆弾発言で、場の空気は最悪になるのである。浩二が怪訝そうに美月の事を見て、政宗は顔を伏せるのである。


「み、美月さん…余計なことはその~」

「わかってるよ…ひろみん…大丈夫…正直に言うけど、私と郁人は幼馴染だから、元から仲がいいし、ひろみんとは、郁人とのつながりで、仲良くなったんだよ…だから、別に、普通に郁人やひろみんの悪口言われるのは、不快だよ!!」


 はっきりと、浩二にそう言い放つ美月に、浩二は、政宗の方を見るのである。政宗は、顔を伏せて、拳を握り締めて、沈黙を保っているのである。


「えっと…永田さんは…郁人様と美月さんが幼馴染って、知っていましたか~?」

「あ…ああ…いちよ…聞いてはいけどよ…だけど…い、いや、この話はここではいい…とにかく、僕は、朝宮と細田…お前らが嫌いだってことは知っといてくれ!!」


 そう言って、この話を終らそうとする浩二だが、梨緒があからさまに美月の事を睨んでいるのである。


「夜桜さん…郁人君の幼馴染って、言うけど…今は、永田君と覇道君と仲がいいんだし…郁人君のことは、どうでもいいんじゃないかなぁ…イケメン二人、誘惑しておいて、郁人君も自分のモノにしたいって言うのは…ゆるされないよねぇ」


 ヤンデレ梨緒にそう言われて、あからさまに機嫌が悪くなる美月は、梨緒を睨み返すのである。宏美はやっぱり、修羅場になってしまいました~と両手で頭を抱えて悲鳴をあげるのである。


「ゆ、ゆるふわ…どうにかしないとまずくないか?」

「まずいですよ~!! いくとさまぁ~!! 何とかしてくださいよ~!!」

「わ、わかった…任せておけ…ゆるふわ…いつも、美月と仲良くしてくれてるからな…ここは、何とかしてみよう」

「い、いくとさまぁ~」


 あたりの強い郁人に、優しくされて感動するゆるふわ宏美なのだが、感動のあまり忘れていたのである。


「ま、まぁ、落ち着け…ここは、まず、親睦を深めるために…じ、自己紹介して、お互いの誤解を解かないか?」


 宏美は、郁人の発言に、郁人様のコミュ力が乏しいことを思い出すのである。今更何を言っているのだろうと呆れる宏美である。案の定周りも、怪訝な表情を浮かべるのである。


「…朝宮郁人…趣味は…ほ、本を読んだり…テ、テレビを見る事だな…好きな食べ物は、ハンバーグの星座は射手座だな」

「郁人? え…えっと、夜桜美月で…しゅ、趣味は、い、郁人と同じで、本読んだり、テレビを見たりだよ…好きな食べ物はハンバーグで…星座は射手座だよ」


 突然自己紹介を始める郁人に、不機嫌に梨緒を睨んでいた美月が、驚くが、すぐさま、郁人の後に続いて、自己紹介をするのである。しかし、郁人と美月は、漫画やアニメとは言わないで、本やテレビと誤魔化している。しかも、完全に、郁人と美月の自己紹介は同じなので、場の雰囲気は悪化するのである。


「わ、わたしぃは、細田宏美ですよ~…い、郁人様のファンクラブ会長兼マネージャーをやっています~…しゅ趣味はとくにないです~…す、好きな食べ物は…ツ、ツナサンドですかね~…せ、正座はさそり座ですね~」


 郁人と美月に、ジッと見られて、意を決して自己紹介するゆるふわ宏美である。対面に座る三人の反応は、冷ややかである。


「ゆるふわ…なんとかなっただろ?」

「これ~…何とかなったって言うんですかね~」


 先ほどの険悪なムードはないが、あからさまに微妙な空気感が漂っているのである。美月は、ひろみんさそり座なんだねと、笑顔で宏美に話しかけている。


 ただ、対面に座る三人の空気は重いのである。しかし、梨緒が重い空気の中、口をひらくのである。


「三橋梨緒です。郁人君の幼馴染で、郁人君のファンクラブのメンバーで、好きなことは、郁人君と一緒にいることかなぁ」


 そう清楚笑みを浮かべて、自己紹介をする梨緒の、自己紹介内容に、美月は、梨緒の事を睨むのである。


「…覇道政宗だ…美月の幼馴染で、美月の親衛隊もしている…美月に変な虫がつかないようにするのが、俺の仕事でもある…好きなことは…美月と一緒にいることだ」


そう、郁人を睨みながら、自己紹介する政宗に、郁人は冷ややかな視線を向けるのである。あわあわする宏美である。


「ちぃ…仕方ねーな…永田浩二…美月ちゃんのファンクラブ会長を務めている…好きなことは……とくにねーな…あと…てめぇ等と仲良くするつもりはないぜ」


 渋々自己紹介をする浩二で、自己紹介は終わるが、場の雰囲気は最悪である。郁人が、宏美に耳打ちをするのである。


「よし…あとは、ゆるふわ…お前に任せた」

「い、いくとさまぁ~!?」


睨み合う美月と梨緒に、政宗は郁人を睨む続け、浩二も、郁人と宏美を睨んでいる状況で、全てを託されたゆるふわ宏美は、絶望の表情で固まるのであった。

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