第64話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ゆるふわサブヒロインと一緒にお弁当が食べたい。 その12

 ゆるふわ宏美は、もはや限界に近い状態である。恐怖で、吐き気と寒気で頭痛が痛いゆるふわ宏美なのである。


「ゆるふわ…この状況で、美月に弁当食べさせてもらうにどうすればいいと思う?」

「…知らないですよ~…というか、それは本気でやめてください~…わたしぃ、もう限界ですよ~」


 体面に座る三人に睨まれ、顔が青ざめている宏美に、そう耳打ちして相談する郁人に、口元を押さえてそう言う宏美は、今すぐこの場から逃げ去りたいのである。


「早くお昼を済ませて、急いで教室に戻ろうか…美月…そして、すぐに教室に戻ろう」

「だな…マジで…何でこんなことになってるんだよ…細田…本気で何企んでやがる?」

「わたしぃだって、知らないですよ~!!」


 なぜか、イケメン二人組に睨まれる宏美は、早くこの場から、去りたくて、お弁当を食べながら、そう悲鳴をあげるのである。


「ひろみん!! みんなで一緒にお弁当食べるのいいよね…できれば次回は私が真ん中だよ!!」

「美月さんは、もうおとなしくしていてくださいよ~!! お口にチャックです~!!」


 わたわたと美月の口を封じにかかる宏美に、イケメン二人の怒りの視線が突き刺さるのである。


「貴様…いい加減にしろ…美月から離れろ!!」

「細田…てめぇ!! 美月ちゃんに何しやがる!!」


 宏美はイケメン二人に責められて、美月から素早く離れて縮こまるのである。そして、しばらく、静かな食事が続くのである。


「なぁ…ゆるふわ…この機会に…親睦を深めて、仲良くなったほうがよくないか?」

「何を言ってるんですか~? 無理に決まってますよ~…このメンバーが仲良くなれる未来がわたしぃには見えませんよ~」


 郁人がひそひそと宏美にそう相談してくるのに対して、絶対無理だと思うのである。まず、政宗と浩二が、郁人と宏美を嫌っている現状で、仲良くなれる未来が全く見えてこないゆるふわ宏美なのである。


「仲良くなれれば、美月とも学校で一緒にいられるからな」

「それは…どうなんでしょうかね~…正直、学校ではお二人が仲良くするのは反対ですよ~」

「…まぁ…でも、仲良くなるにこしたことはないだろ?」

「それは、仲良くなれればの話ですよね~?」

「大丈夫だ…ゆるふわ…この重い空気を、お前なら、何とかできるはずだ」


 郁人の発言に無理ですよ~と、必死に否定するゆるふわ宏美である。


「大丈夫だ…あの美月と仲良くなれた、ゆるふわなら…何とかできるはずだ…お前のゆるふわ笑顔で、この重い空気をなんとかできるはずだ」

「なんですか~それ~!? 無理ですよ~…無理~」

「ゆるふわ…俺、美月、ゆるふわ…誰が一番コミュ力高いと思うんだ?」


 そう言われて、黙るゆるふわ宏美である。自分がコミュ力高いとは思わない宏美だが、さすがに、この二人よりはマシだと思う宏美なのである。


「大丈夫だ…コミュ力お化けのゆるふわなら…やれるはずだ…頼んだぞ」

「し、仕方がありませんね~…わたしぃの最強会話デッキで、何とかしてみますね~」


 郁人のヨイショに乗せられるゆるふわ宏美は、渋々、重い空気を放っている三人に話しかける覚悟を決めるのである。


「み、みなさん…き、今日はいい天気ですよね~」


 そうゆるふわ笑顔で言い放つ宏美に、一斉に視線が向けられるのである。すでに、後悔する宏美である。


「ならば、貴様等は、いつも通りに屋上で食べればよかったものを…」

「天気わりぃならともかく…天気いいのになんで食堂だよ…僕達に対する嫌がらせだろーが」


 宏美の発言に、怒り出すイケメン二人に、梨緒がニッコリ笑顔を浮かべて、イケメン二人の方を見るのである。


「別に、私達がどこで食べようと関係ないよねぇ? そもそも、食堂って、お二人のモノじゃないよねぇ?」


 そうニッコリ笑顔で、反論する梨緒を、睨むイケメン二人である。場の空気は更に酷くなったのである。


「ゆるふわ…お前…ど、どうにかしろ」

「わ、わたしぃの責任ですか~!?」

「いや、お前のせいだろ」


 責任の擦り付け合いが、郁人と宏美の間で行われる中、美月だけが、ニッコリ笑顔で、宏美の方を見て、こう言うのである。


「いい天気だよね…今日は、お外で食べてもよかったよね…今度、天気がいい日はお外で食べようよ」


 そんな、美月の発言に、少し感動するゆるふわ宏美である。とにかく、何とかしようと思った宏美は、また、勇気をふり絞り、新たなる会話デッキを披露するのである。


「あ…お、温度ちょうどいいですね~…食堂は空調が効いていていいですよね~」


 ゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑顔を浮かべて、人差し指を立てて、そう言うのである。対面に座る最悪雰囲気の三人から、コイツ何を言っているんだという視線で見られる宏美である。


「い、郁人様…すみません~、わたしぃには無理でした~!!」


 宏美の必死のネタ天気デッキも全く通じないので、諦めて、郁人に助けを求める宏美に、美月が笑顔で、快適だよねと言ってくれるのである。


「ゆるふわ…お前はよくやった…後は、俺に任せろ…俺の会話デッキを披露してやろう」

「い、いくとさまぁ~…いえ、それは、不安なのでやめてください~!!」


 一瞬、郁人のドヤ顔でそういう姿に感動するゆるふわ宏美だが、すぐに不安になって、止めにかかる宏美なのである。


「そういえば、み、みんなは好きな食べ物とか…なんだ?」

「い、郁人様…わたしぃと大差ないですよ~…それ~」


 勢いよく、言い出した割に、しょぼい内容に呆れるゆるふわ宏美に、郁人は、とりあえず、美月を見るのである。首を傾げる美月は、ハッと何かを察して、コクコクと頷くのである。


「私は、ハンバーグが好きだよ!! 郁人もだよね!!」

「あ、ああ…俺は、ハンバーグが好きだな…ゆ、ゆるふわは?」

「わ、わたしぃですか~!? えっと~…そ、そうですね~…ツナサンドとか好きですね~」

「そ、そうなのか…なら、今度、俺が作ってやるよ」

「じゃあ、今度は私が作るよ!! ひろみんに、ツナサンド作ってあげるね」

「い、いえ~!! 遠慮しておきます~!!」


 なぜか、好きな食べ物の話が、宏美にお弁当を作る話になり、一気に対面の三人の空気が取り返しのつかないほど悪化しているのである。三人の殺気に悲鳴を上げるゆるふわ宏美である、。


「は、反応がないな…何が悪かったと思う? ゆるふわ?」

「ほ、本気で言ってるんですか~…もう、早く食べて、教室に帰りましょうよ~」

「まて、まだ、会話デッキは残ってる…なんとか、親睦を深めてみよう」

「もう、やめてくださいよ~!!」

「大丈夫だ…今度こそ、定番の会話デッキで勝負だ…これが、俺の切り札だ」


 郁人がドヤ顔で、超不安なゆるふわ宏美に自信満々に小声で言うと、お弁当を食べながら、郁人と宏美を眺めている美月は、郁人の意図をなんとなく察して、出方をうかがうのである。


「みんな…今日、何かいいことあったか?」


 郁人の切り札に、ゆるふわ宏美は、驚愕の表情を浮かべるのである。あまりにざっくりしすぎな内容に、どうしていいのかわからないゆるふわ宏美である。


「今日は、郁人とひろみんとお昼ご飯を一緒に食べられたことかな」


 美月はすかさず、郁人の会話に乗っかるのである。グッと親指を立てて、やってやったぜとドヤ顔の美月に、内心、慌てるゆるふわ宏美である。恐る恐る、対面に座る三人を見ると、完全に闇落ちしているのである。


「そうだな…俺も美月と食べられてよかったな…ゆるふわはどうだ?」

「こ、ここでわたしぃに話を振るんですか~!? そ、そうですね~…今日は、わたしぃは良いことはなかったと言いますか~…よくない日と言いますか~」


 しどろもどろな宏美に、梨緒がニッコリヤンデレ笑みを浮かべ、政宗が目を見開いて、激昂して、ゆるふわ宏美を見るのである。


「ふ~ん…郁人君にお弁当作ってもらって…良いこと無い日なんだねぇ…そうなんだぁ…ふ~ん…そっかぁ」

「貴様!! 美月と並んでお昼を共にできているという事が、良くないことと言うのか!?」


 二人の強力な圧に、郁人の裾をつかんで、恐怖に震え、涙目なゆるふわ宏美である。頼られた郁人は、何がいけなかったのかと、考え込んでいるのである。状況が悪化しまくる中、美月が、郁人と宏美を見て、私に任せてと胸を叩いてアピールするのである。


 嫌な予感しかしないゆるふわ宏美である。


「やっぱり、盛り上がる話題って言うとあれだよね…恋バナとかだよね」


 美月は、最強のデッキを放つのである。それは、もはや、全てを焼き尽くす、滅びのバーストストリームである。場には何も残らない焦土と化すほどの威力に、恐怖と絶望の表情で怯えるゆるふわ宏美は、ゆっくり、対面の三人を見ると、そこには、ヤンデレ神が降臨していたのである。

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