第63話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ゆるふわサブヒロインと一緒にお弁当が食べたい。 その11

 冷や汗ダラダラで、スカートを握り締めて、顔を伏せるゆるふわ宏美である。その隣で、呑気に弁当を食べる郁人と美月である。


「宏美ちゃん? どうして黙るのかなぁ?」


 宏美の事をジッと見つめながら、そう言って圧を放つ梨緒に、恐怖でカタカタ震える宏美は、チラリと郁人の方を見て、助けを求める視線を送ると、その視線に気がついたのか、郁人がジッと宏美の事を見続ける梨緒をチラリと見て、諦めた表情をするのである。


(いくとさまぁ~、諦めないでくださいよ~!! 助けてくださいよ~!!)


 郁人の諦めの表情に、必死で助けを求める視線を横目で送るゆるふわ宏美に、視線を逸らす郁人である。


「ひ、ろ、み、ちゃんのお弁当って…宏美ちゃんが作ったのかなぁ?」


 ジーっと宏美を見続ける梨緒の圧倒的な圧に、ゆるふわ宏美の震えは、ガタガタにランクアップしている。必死に、郁人に視線で助けを求めるのである。


「…仕方ない…ゆるふわの弁当は…俺が作った…ちょっとした事のお礼だ…ま、まぁ、あれだ…弁当何て、一個作るのも、二個作るのも、そんなに大変じゃないからな」


 郁人は、助け舟を出したつもりで、そう言うが、ゆるふわ宏美にとっては、死刑宣告である。何てこと言うんですか~と言わんばかりの表情で驚いて郁人の事を見ているゆるふわ宏美である。


「やっぱり、そうなんだねぇ…郁人君と宏美ちゃん…本当に仲がいいよねぇ…宏美ちゃん…このことは、きちんと、ファンクラブのみんなに…説明してもらうねぇ」


 もう、宏美のライフはゼロである。あまりの恐怖で魂が口から飛び出てしまっているゆるふわ宏美に、助けてやったと言わんばかりのドヤ顔の郁人なのである。


「ひろみん…郁人のお弁当美味しいよね」


 美月の満面な笑みで言う一言で、梨緒の機嫌が最高に悪くなるのである。もはや、死体蹴り状態である。


「み、美月さん!! それ、今言うんですか~!! 空気読んでくださいよ~!!」


 宏美の非難の声に、お弁当を食べながら、首を傾げる美月なのである。


「そ、そっかぁ…夜桜さんも…宏美ちゃんと同じお弁当なんだねぇ」

「うん、郁人のお手製お弁当だよ」


 ぎこちない梨緒に、ニッコリ笑顔の美月である。宏美は、緊張から、冷や汗がダラダラである。そんな中、食堂の日替わりランチを持って、戻って来る政宗と浩二である。最高に不機嫌なイケメン二人である。


「なぜ、俺が、貴様等と昼飯を食べなければならないんだ」

「じゃあ、どこか別の所で食べればいいと思うなぁ」

「なんだと!? 貴様…美月が、ここで食べるなら、ここで食べるしかないだろ」

「ふ~ん…そうなんだぁ」


 最高に不機嫌な政宗に対して、美月の発言で機嫌の悪い梨緒がそう政宗の独り言に毒を吐くのである。睨み合う二人に、場の空気は最悪である。その中、美月だけが、幸せそうにお弁当を食べながら、ひろみん、美味しいよね…郁人、料理上手だよねと呑気に話しているのである。


「…仕方ねーだろ…さっさと食べて、教室に戻ろうぜ…政宗」


 そう言って、浩二は政宗をなだめて、ゆるふわ宏美の前で梨緒の隣の席に座るのである。食堂の雰囲気は最悪である。この6人テーブルに現在、学園の1年でトップスリーと言われ人気の男女が揃っているのである。


「仕方ないか…早く食べるとするか」

「そうだねぇ…早く食べて、他の場所に行ってくれると嬉しいなぁ」

「それは、こちらのセリフだ…貴様等、弁当なら、食堂で食べる必要ないだろ」

「じゃあ、夜桜さんもだねぇ…夜桜さんも食堂で食べなくてもいいよねぇ」


 浩二を挟んで、言い合う梨緒と政宗に、さすがの浩二も、居心地が悪そうである。バチバチの場の雰囲気を感じ取る生徒達は、6人から、恐怖を感じて距離を取るのである。


「ゆるふわ…何とかなったな」

「これ~、何とかなったって言うんですか~!?」

「後、ゆるふわ…俺と席替わらないか…このままだと、美月にお弁当食べさせてもらえないんだが…」

「それは、本気で諦めてくださいよ~」


 郁人と宏美は小声で会話するのである。場の雰囲気が最悪の中、郁人の発言に呆れるゆるふわ宏美は、本気でこの場から逃げたいのである。


「あ…ひろみん、やっぱり、席替わらない?」


 美月の発言で、やはり、場の空気は悪くなるのである。そもそも、みんなこの席順には納得いってないのである。


「ならば、美月…こっちに来ないか…そっちの席は、嫌だろう?」

「それはいいぜ…三橋が、向こうに行けばいいだろ?」

「そっかぁ…じゃあ、それでもいいよぉ」


 いきなり、団結しだす三人に、美月が露骨に嫌な顔をするのである。


「え…嫌だけど…それなら、ひろみんの隣がいいよ」

「み、美月さん!! 空気読んでくださいよ~!!」

「ま、まぁ、仕方ないな…席順はこのままでいいな…なぁ、ゆるふわ」

「郁人様も、困ったらわたしぃに話振るの本気でやめてくださいよ~」


 美月の発言で、視線が鋭くなる梨緒、政宗、浩二に、タジタジな郁人と宏美である。一人美月だけが呑気に、郁人の隣がいいけど、ひろみんの隣でもいいよと言っているのである。


「宏美ちゃん…夜桜さんとも仲がいいよねぇ…これは…きちんと、後で尋問しないといけないかなぁ」


 怖い独り言をぼそりと言う梨緒に、恐怖で、震えだすゆるふわ宏美である。


「あ…ひろみん…今度は、私がひろみんにお弁当作ってあげるね…フフ、郁人には負けるかもだけど、私も料理には、自信あるよ」

「いや…美月の方が、料理上手いだろ…よかったな、ゆるふわ…美月の弁当は最高だぞ」

「な、な、なにを言ってるんですか~!! これ以上わたしぃを困らせないでくださいよ~!!」


 美月と郁人の発言で、梨緒と政宗の瞳の光が消えて、闇落ちするのである。間に挟まれている浩二が、物凄く居心地が悪そうにしているのである。


「弁当…だと!?」

「お弁当…お弁当…お弁当」


 ぼそりとそう呟く政宗と梨緒に、ガタガタ震える宏美と浩二である。そんな中、郁人と美月はお互いを褒め合っていて、二人の世界に旅立っているのである。


(だ、誰かこの状況どうにかしてくださいよ~!!)


 ゆるふわ宏美は、心の中で絶叫するのである。

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