第50話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲーの主人公の手が握りたい。 その6

 郁人は、全く終わりが見えない握手会に疲れ果てていた。梨緒が次から、次に連れてくる女子生徒と握手をする郁人は、早く終わってくれと祈りながら握手するのであった。


「もう、約束の終わる時間じゃないのか?」

「まだ、女の子たち並んでるから…もう少し頑張ろ、郁人君」

「……ていうか…ゆるふわ…どこに行ったんだ」

「はいはい、宏美ちゃんの事は置いといて、頑張って握手してこうねぇ…郁人君」


 清楚笑顔を浮かべて、握手しなさいと圧を放ってくる梨緒に、郁人は、仕方なく従うのであった。そして、結局、最後まで、ゆるふわ宏美が戻ることはなく、梨緒に、列が終わるまで、握手会を続けさせられた郁人は、ぐったりしていた。


「フフフ、郁人君…お疲れ様…郁人君のおかげでみんな嬉しそうだったよぉ」

「そうか…それはよかったな」


 清楚笑みを浮かべて、缶のお茶を、郁人に渡す梨緒である。郁人は、疲れ果てた表情を浮かべて、それを受け取る。


「ねぇ…郁人君は人気者なんだよぉ…フフフ、私の言った通りだったでしょ」

「……」


 郁人は、疑惑の目を梨緒に向けるのであった。梨緒は意外と女子生徒達の人望があることをここ数日の付き合いだが、理解した郁人は、やはり、梨緒が裏から手を回しているんじゃないのかと疑うのである。


「もぉ~…郁人君は、どうして、そう自分に自信がないのかなぁ…まぁ、そこも郁人君のいい所だよねぇ」


 梨緒に、心の中が読まれた気がして、郁人は居心地が悪くなるのである。まっすぐに郁人の事を見つめる梨緒の瞳から、視線を逸らす郁人は、手の中にはる缶のお茶を見つめる。


 その時、ズボンのポケットに入れていたスマホが振動していることに気がついた郁人は、スマホを取り出して、画面を見ると、ゆるふわから通話がかかってきていたのである。


「…おい…ゆるふわ…お前今どこにいるだ?」

「今、とても大変なことになっていまして~…郁人様…握手会はどうなりましたか~?」

「なんとか、終わった…もう二度とやらんからな」

「それは困りますよ~!! あ…ちょっと…待ってください~…あ…郁人様…今から、お一人で、非常階段の踊り場まで来れませんかね~?」


 なんだか、慌ただしいゆるふわ宏美に、疑問顔になるが、郁人は、ニコニコ清楚スマイルの梨緒と目が合う。正直、清楚笑顔に恐怖を感じる郁人であった。


「いや…今、り、梨緒がいるから…無理だ」

「そこをなんとかお願いします~!! これは、美月さんのためでもあるんですよ~…あ…美月さん…いいから、待ってください~!! とりあえず、落ち着いてください~!! お願いです~!! 郁人様…何とかお一人で来てください~!!」

「そ、そうは言ってもな…ちょっと…待て」


 郁人は、美月もそこにいるのかと考えて、何とかしてみるかと考える。チラリと梨緒の方を見る郁人に、清楚笑みを浮かべる梨緒である。


「あ…り、梨緒…す、すまないが…ゆるふわに呼ばれてな…少し行ってきてもいいか?」

「じゃあ、私もついていくねぇ」


 梨緒は清楚笑みを浮かべながら、うっすら瞳を開いて、郁人を見つめるのである。郁人は、何かを察して、梨緒に背を向けて、スマホで宏美と、小声で会話を再開する。


「すまない…無理だ」

「郁人様、諦めないでください~!! あ…美月さん!! ダメですよ~!! 落ち着いてくださいね~!! 郁人様、このままでは、大事件が起きますよ~!! なんとか、ここまで来てください~」

「そもそも、どういう状況なんだ? 何がおきてるんだ?」

「こちらに、来ていただければ、すぐにわかりますから~!!」


 まったく、要領が得ない会話に、郁人はため息が出る。しかし、美月もそこにいるとなると、行くしかないと思う郁人であるが、チラリと梨緒の方を見るが、梨緒は、ニコニコ笑顔で薄めでこちらを見ているのであった。郁人は、背筋が凍る。


「…あ…ゆるふわ…俺にだけ話があるらしくてだな」

「うん…大丈夫…宏美ちゃんは私が説得するからぁ…行くなら、一緒に行こうねぇ」

「……そ、そうか」


 再度、梨緒に背を向けて、小声で宏美と会話をしようとする郁人に、ニコニコ笑顔の梨緒である。背中から、圧倒的な圧を感じる郁人である。


「ゆるふわ…無理だ」

「諦めないでください~!! なんとか、強行突破できませんか~!?」

「…まぁ…撒くことはできると思うが…ゆるふわ…お前…その後の責任…取ってくれるんだな?」

「……なんとか~…穏便にこっちに来てください~…美月さん!! いいから、わたしぃに任せてください~!! おとなしくしていてくださいよ~!!」


 何やら、騒がしい宏美に、美月の奴何してるんだと疑問の郁人である。早く、宏美の元に向かいたくなった郁人だが、再度、梨緒の方を見ると、微動だにせず、先ほどと全く同じ笑みを浮かべている。完全にホラーである。


「…あ…す、少しだけ…少しだけ…ゆるふわと二人で話があってだな」

「郁人君…本当に…二人だけかなぁ?」


 ヤンデレボイスでそう梨緒に言われる郁人は、冷や汗がダラダラである。察しが良すぎる梨緒に恐怖を感じる郁人である。


「さ…さぁ…俺は、ゆるふわに呼ばれただけだしな」

「そっかぁ…じゃあ…郁人君…一回、宏美ちゃんとの通話切ってもらってもいいかなぁ?」

「な…なんでだ?」

「フフフ…私が、直接お話しするからだよぉ」


 ヤンデレ笑みでそう言い放つ梨緒である。郁人は、天井を見上げて、スマホを耳にあてる。


「ゆるふわ……グットラック」

「え!? 何ですか~!? いくとさ……」


 何かを言いかけるゆるふわ宏美を無視して、通話を切る郁人である。梨緒は、ニッコリ笑顔で、自分のスマホを取り出して、耳元にもっていく。表情はにっこり笑顔である。






 宏美は、必死に郁人の所に、向かおうとする美月を押さえていた。そんな中で、郁人に助けを求めたのだが、通話を切られてしまう。


「郁人様!? あ…通話切られました~」

「ひろみん!! やっぱり、直接、郁人の所に行こうよ!! そして、郁人に握手してもらうんだよ!!」

「だから、それはダメですって~!! わたしぃが何とかしてあげますから~…落ち着いてくださいね~」


 必死に、美月の腕を両手で捕まえて、行かせまいとするゆるふわ宏美である。意外と小さいが力はあるゆるふわである。


「あ…着信ですね~…郁人様からですかね~?」


 電波が悪くて切れてしまったのかと思ったゆるふわ宏美だった。そして、スマホの画面に着信、梨緒と表示されていた。その画面を見て、ゆるふわは思ったのである。


(グットラックじゃないですよ~!! いくとさまぁ~!!)


 必死で、美月を捕まえて、恐る恐る通話に出るゆるふわ宏美であった。

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