第49話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲーの主人公の手が握りたい。 その5

 女子生徒達に囲まれている美月を、呆れながら、遠巻きに見ているゆるふわ宏美は、どうしようかと少し考える。美月は、オロオロ、オドオド、ビクビクしながら、涙目なのである。


「ねえ…あなた、夜桜さんよね!?」

「違います! 人違いです!!」


 美月は、必死で、自分は夜桜美月ではありませんと、両手をブンブン振って否定している。


「なんで、あなたがここにいるの!?

「そ…それは…握手会に……」


 一斉に、ギロリと女子生徒達に睨まれる美月の声のボリュームがゼロになるのである。今にも泣きそうな美月は、ハッと、自分を遠巻きに眺めている、ひろみんこと宏美と目が合うのである。


「ひ…ひろみん!! 助けてよ!!」


 美月が、ゆるふわ宏美に気がつくと、女子生徒に囲まれながら、必死で手を振って、宏美に助けを求める美月である。女子生徒達の視線が、ゆるふわ宏美に集まるのである。ビクッとなるゆるふわ宏美は、ニコニコ笑顔を浮かべて、この場を後にしようとする。


「待って!! ひろみん!! 見捨てないでよ!!」


 必死に助けを求める声をあげる美月に、仕方なく、宏美は、女子生徒達に声をかけるのである。


「すみません~…ここはわたしぃに任せてください~」


そう言って、激怒モードの女子生徒達をなだめながら、女子生徒達をかき分けて、美月のところに行くと、宏美に泣きついてくる美月である。さすがの、ゆるふわ宏美も、呆れ顔である。


「あの~…美月さん…こんなところで何してるんですか~?」

「え…私はただ、郁人の握手会に参加したいだけだよ!!」


 ぎろりと一斉に女子生徒達に睨まれる美月と宏美である。ゆるふわ宏美は、乾いた笑みを浮かべる。


「は…はぁ~…と…とりあえず…この人の事は、わたしぃに任せてくださいね~…皆さんは、一列に並んで、待機してくださいね~…問題を起こすと、握手会中止になりますからね~」

「ひろみん~…助かったよ!! 怖かったよ!!」

「いいですから~…ほら、こっちに来てくださいね~」


 そう言って、ゆるふわ宏美は、周りを説得して、美月を連れ出すのである。美月は、ヒック、ヒックとゆるふわ宏美に泣きつくのあった。


 そして、泣きつく美月を、宏美は非常階段の踊り場まで連れ出した。そして、扉を少し開けて、誰もついてきてないことを確認すると、扉を閉める宏美である。


「ありぃがとぉうだよぉ~!! ひろみん~!!」

「や…やめてください~!! 抱き着かないでくださいよ~!!」


 美月は、宏美を抱きしめる。嫌がる宏美は、必死に離れようとするのである。


「…で~…美月さん…あんなところで何してたんですか~?」

「だから、郁人の握手会に参加しようとしてただけだよ」


 とりあえず、美月から、解放された宏美は、美月のせいで乱れた服や髪型を整えながら、そう質問するのである。美月の私何も悪くないよ発言にため息が出るゆるふわ宏美である。


「だいたい…何ですか~? その格好…それ、わたしぃがあげた帽子とサングラスじゃないですか~」

「変装だよ!! ひろみんが、変装した方がいいって言うから、変装したんだけど…何でバレたのかな?」

「バレますよ~!! 当り前じゃないですか~!! どこの学生が制服に、帽子とサングラスなんてつけるんですか~!!」


 本気で、何でバレたのかわからないと、首を傾げて、疑問顔の美月に、呆れて、猛ツッコミするゆるふわ宏美である。


「嘘でしょ!? 私の完璧な作戦が…」


 美月は、驚愕の表情を浮かべて驚いている。帽子とサングラスを取る美月は、両手に持ったそれらを眺めるのである。呆れるゆるふわ宏美は頭を抱えるのである。


「その~…あまり聞きたくないのですが~…その作戦って何ですか~?」

「え!? 郁人と手をつなぎたい作戦の話?」

「あ…もういいですよ~…お話ししなくて大丈夫ですから~…美月さんは、このまま、帰ってくださいね~」

「ええ~!! 嫌だよ…私も郁人の握手会に参加するよ!!」


 なんとなく察した宏美は、ニコニコ笑顔を浮かべて、美月に帰宅をするように説得する。あからさまに不満気な美月は、絶対に郁人の握手会に参加すると駄々をこねるのであった。


「…美月さん…別に美月さんは、この後、郁人様の家でいくらでも握手してもらえばいいじゃないですか~…だいたい、いつも郁人様のお宅にお邪魔してるって言ってたじゃないですか~」

「そうだけど…それができないから、握手会なのよ!! ね…わかるでしょ…ひろみん!!」

「いえ~…全く分かりませんが~」


 美月の謎の理屈に、宏美は首を傾げるのである。かなり、呆れ顔の宏美である。


「それにですね~…郁人様の握手会は…その、ファンクラブ限定なんですよ~…美月さんは、郁人様のファンクラブの会員じゃないですよね~?」

「え…ひろみん…何言ってるの!? 私は、生まれた時から郁人のファンだよ!! 言ってしまえば、郁人のファン1号だよ!!」


 美月は、ドヤ顔で、宏美に詰め寄って、そう言い放つのである。ゆるふわ宏美は呆れ笑顔を浮かべるのである。


「いえ~…そういう事ではなくてですね~…とにかく、ファンクラブ限定なんです~」

「じゃあ…私も、郁人のファンクラブ入るよ!! それなら、問題ないよね」


 フフンといい案でしょと、満面な笑みを浮かべて人差し指を口元にあてる美月である。


「その…美月さんは…ファンクラブには、入れませんよ~…そもそも、美月さんが、郁人様のファンクラブに入ったなんてことになったら~…美月さんのファンクラブの方が黙ってないですよ~」


 呆れる宏美は、必死に美月を説得しにかかるのである。よく考えてくださいね~と、美月に笑顔を浮かべるゆるふわである。


「…大丈夫だよ…黙ってれば…問題ないよ!!」

「そういう事ではなくてですね~…それに、郁人様のファンクラブの掟で、郁人様の自宅周辺に近づいてはいけないという鉄の掟がありましてですね~」

「そうなの!?」

「はい~…つまり、美月さんが、郁人様のファンクラブに入るという事は~…美月さん…自分の家に帰れなくなりますよ~…そして、郁人様のお部屋には遊びに行けなくなってしまいますよ~」

「そ…それは!?」


 ニコニコ笑顔で、美月に両手を広げてそう説明するゆるふわ宏美に、うっとたじろぐ美月である。


「だから、諦めてくださいね~」

「いやだよ!! 郁人と握手したいよ!!」

「美月さん…昨日は、郁人様と手をつなぐの珍しくないって、言ってたじゃないですか~」

「それと、これとは、話が別なんだよ!! 私は、郁人と握手したいのよ!!」

「いいから、諦めてください~!!」

「いやだよ!! いや、いや、いやー!!」

「駄々をこねないでください~!!」


 いやいやと駄々をこねる美月を必死に説得するゆるふわ宏美である。この二人のやり取りは、結局、郁人の握手会の終わりまで続いたのであった。

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