第48話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲーの主人公の手が握りたい。 その4
美月は、酷く落ち込んでいた。一限目の後の休み時間に、自分の席に座り、一人落ち込む美月なのである。そして、昨日も、今日も結局郁人と手をつなぐことはできなかった美月は、非常に郁人と手をつなぎたい欲求に駆られるのである。
そもそも、郁人とは、よく手をつないでいたので、別に美月にとっては、郁人と手をつなぐという事は、珍しいことではないのだが、意識すると手がつなぎたくなるのが、美月なのである。
(郁人の手を握りたい…郁人の手に触れたい…ああ…どうしよう…どうすればいいのよ)
美月は、頭を抱えて考え込むのである。もう、行動するしかないと思った美月は、両手で机を叩き勢いよく立ち上がる。郁人達の教室に向かおうとする美月の前にやはり立塞がるのは、浩二と政宗であった。
「美月ちゃん…もうすぐ次の授業始まるぜ…どこに行く気なんだ?」
「ああ…美月…用事なら、俺が行ってあげるよ」
やはり、立塞がるかと嫌悪感を示す美月に、全く動じないイケメン二人である。
「わ、私ちょっと…1組に用事が…」
「…わかった…なら、俺が行こう」
「ああ…美月ちゃん…あのクラスはダメだぜ」
「…その…お友達に用事があるのよ」
「そうか…じゃあ、悪いが来てもらうのはどうだろうか?」
「そうだぜ…美月ちゃん…この後、呼べばいいんじゃねーの?」
イケメン二人の自分勝手な発言に、イライラする美月である。正直、怒鳴りつけたい美月だが、どうせ、スルーされるので、無視して、教室を出ようとするが、スッと立塞がる政宗と浩二である。
「…どいてくれないかな?」
「美月…1組には、行かせられない…君のためなんだ」
「そうだぜ…美月ちゃんを危ない目にあわせる訳にはいかないぜ」
やはり、1組には行けない美月なのである。正直、美月は強行突破してもいいと思っているが、大親友のひろみんこと、宏美に、とりあえず、この二人に対しては穏便に対応するようにと言われているので、おとなしくしている美月なのである。
しかし、手をつなぎたい衝動に駆られる美月は、今すぐに郁人と手がつなぎたかった。しかし、よく考えると、結局恥ずかしくて、手が握れないという状況になるのではと思い直す美月である。
そんな、美月はあることを思い出すのである。
(そういえば…郁人…放課後…握手会するって言ってたよね…握手会ってことは、自然に手をつなげるよ!! これは、郁人と手をつなぐチャンスだよ!!)
美月は、ナイスアイディアを思いついたと、自分の席に戻り、満足げに座るのである。そんな美月の突然の変わりように、疑問顔を浮かべるイケメン二人だった。
放課後、郁人は、ため息をつき、やつれた表情を浮かべて、椅子に座っている。ニコニコ笑顔のゆるふわ宏美と、清楚笑顔の梨緒に連行されて、ファンクラブの部室に連れてこられた郁人なのである。
「はぁ~…全く…なんでそんなに楽しそうなんだ…お前達は…」
楽しそうな梨緒と宏美を、恨めしい表情で見つめて、そうぼそりと文句を言う郁人である。郁人の両サイドに待機する梨緒と宏美は、満面な笑みを浮かべている。
「あ…郁人君…先に私と握手…いいかなぁ? フフ、運営のお手伝いの特権だよねぇ」
ニコニコ嬉しそうな笑顔を浮かべて両手を差し出してくる梨緒に、仕方なく、右手を差し出す郁人である。
「俺なんかと握手して…嬉しいか?」
「うん!! 嬉しい…フフフ、郁人君…今から来る子たちも、みんな嬉しいと思うなぁ」
郁人の右手を両手で握って、そう清楚笑顔で言う梨緒に、疑問顔な郁人である。ゆるふわ宏美も、にやにやしている。正直、ゆるふわの笑みに、怒りが込み上げる郁人である。
(ゆるふわには…後で、復讐するか…どうしてやろうか)
郁人の手を放す梨緒は、少し寂しそうな表情を浮かべる。
「では、わたしぃは、外の列を整理してきますね~…開始時間になったら戻ってきますね~」
そう言って、ゆるふわ宏美は、部室から出て行くのである。
「はぁ~…列ができるほど来ないだろ」
「ええ~…郁人君のファンクラブ凄い人数なんだよぉ…フフフ、驚くと思うなぁ」
口に人差し指を当て、イタズラっ子のような悪い微笑みを浮かべる梨緒である。郁人は、両腕を組んで、呆れた表情を浮かべる。
(いやいや…それはないだろ…確かに…美月に、俺はモテると言われたが…モテるにしても、限度というものがあるだろ)
郁人は、どうせ、来たとしても、いつものクラスメンバーだろうと思っていた。しかし、そんな郁人の考えは、甘かったと言わざるを得ないのであった。
現在、放課後、授業が終わり、美月は、教室を出て帰宅するところであった。美月の両サイドには、政宗と浩二がイケメン笑顔で居るのである。三人で校門に向かっているのである。
美月は、郁人の握手会に参加する事に決めたのだが、邪魔な二人をどう撒くかを考えていた。また美月は、女子生徒達に嫌われているので、あまり目立つわけにはいかなかった。そこで、大親友のひろみんこと、ゆるふわ宏美にもらった、変装道具の帽子とサングラスを思い出したのである。
幸い、何かあればと、カバンに忍ばせていたのである。そして、美月は、完璧な作戦を思いついたのであった。
(フフフ、まず、帰るふりして、校門を出るでしょ…そして、前に教えてもらった抜け道から、変装して、校内に戻る…そして、郁人の握手会に参加する…完璧な作戦だよ!!)
あまりな、完璧な作戦ぶりに、笑みがこぼれる美月である。そんな美月に、疑問顔を浮かべるイケメン二人である。
そして、校門につくと、美月は満面な笑みを浮かべる。
「じゃあ、私は用事あるから…ここで…また明日ね」
「あ…ああ…もう少し、一緒にいないか? 美月?」
「いやいや…美月ちゃんも用事あるなら仕方ないぜ…政宗」
そう、確かに、浩二は、学校内での干渉は凄いが、基本的には、学校外での干渉はしてこないのである。美月は、そのことを知っていたため、校門から、外に出てしまえば、二人を撒けると考えたのである。
「そうか…じゃあ…美月…また明日」
「うん…また明日ね」
上機嫌な美月に、にこやかな笑みのイケメン二人である。美月は、この場から走り去り、例の抜け道に向かうのであった。
そして、帽子をかぶり、サングラスをつける美月である。正直、制服に帽子で、サングラスは物凄く違和感のあるファッションである。正直、かなり目立つのであるが、美月は全く気にしていなかった。
(よし…これで、郁人の握手会の場所に向かえば問題ないよね)
抜け道から、校内に戻り、ルンルンで郁人の握手会に向かう美月だった。
ゆるふわ宏美は、対応に大忙しだった。想像以上の人数が来たためである。列もかなり長くなってしまったため、下手をすると先生などに怒られる可能性もあるのである。
「お…おい…ゆるふわ…全く終わりが見えないんだが…」
ひたすら、握手する郁人は、宏美に愚痴をこぼすのであった。しかし、ゆるふわ宏美はニコニコ笑顔で、握手しろと郁人に視線で訴える。
「郁人君…はい…次の子来たよぉ」
梨緒が、新しい女子生徒を連れてくる。どうやら、上級生のようだ。宏美が数を読み間違えていたのは、まさか、上級生がここまで来るとは思っていなかったからであった。正直、ファンクラブの人数はかなりの数だが、実際に握手会まで来る生徒の数はそう多くはないだろうと思っていた宏美なのである。
正直、郁人の事を甘く見ていたゆるふわ宏美だったが、梨緒だけが、ドヤ顔である。
「ね…郁人君…郁人君は、物凄く…人気者なんだからねぇ」
郁人と宏美は、返す言葉が出ないのである。そんなやり取りをしていると、何やら廊下が騒がしいことに気がつく、ゆるふわである。
「何か問題でもあったんですかね~? わたしぃ、様子見てきますね~…梨緒さん、ここお願いしてもいいですか~?」
「任せて…フフフ、郁人君の魅力がみんなに伝わって、私は嬉しいよぉ」
にこやか清楚笑みで、胸を叩いてドヤ顔の梨緒である。郁人は、不安になるが、宏美は、ゆるふわ笑顔を浮かべて、部室から出て、外の様子を見に行くのである。
「じゃあ、郁人君…次の子連れてくるねぇ」
「…あ…ああ」
疲れた表情で、返事をかえす郁人であった。
そして、ゆるふわ宏美は、騒ぎの元凶である列の後方に向かうと、そこには、女子生徒達に囲まれている帽子とサングラスをつけて美月がいたのであった。サングラス越しでもわかる涙目な美月に、ため息をこぼすゆるふわ宏美であった。
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