第45話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲーの主人公の手が握りたい。 その1

 郁人と美月が付き合いだして、数日が経ったある日の出来事である。美月は、授業中に真剣に考えていた。


 大好きな幼馴染の郁人と両想いで、付き合いだした事はよかったのだが、美月は思うのである。付き合いだしたのはいいけど、結局、特に何も変わらない日常が続いているのである。


 相変わらず、朝は、途中までしか、郁人と一緒にいられずに、学校につくと、勝手にファンクラブを作って、迷惑行為を繰り広げる永田浩二や、自称幼馴染で、美月の騎士気取りの覇道政宗などに邪魔されて、大好きな郁人や、大親友のヒロミンこと、宏美のいる教室には行けず、放課後も、結局、郁人とは一緒に帰れない日々である。


(おかしいよね…なんか…中学生の時の方が、郁人と一緒に居た気がするんだけど…)


 そう全くと言っていいほど、恋人同士という実感がわかない美月なのである。一緒に居るのは放課後の郁人の部屋だが、結局いつも通りの日々である。


(う~ん…恋人同士になったんだがら…恋人らしいことしないとだよね…う~ん、恋人らしいこと…恋人らしいこと…あ…こういう時こそ、お友達の出番だよね)


 美月は、郁人の友達であり、自分にとっては、大親友となったひろみんこと、ゆるふわ宏美の事を思い出すのである。


 授業が終わり、休み時間に、ゆるふわ宏美にスマホで連絡する美月である。大問題発生、至急7組教室まで来て欲しいと送る美月である。


 そして、やはり、政宗と浩二が美月の所に、イケメンウォークでやってくるのである。


「来たわね…諸悪の根源達…私は、今から大事な用事があるから…邪魔しないでよ!」


 美月は、敵意むき出しで、そう、やってきたイケメン二人を睨みつけるのである。そんな美月に、爽やかイケメンスマイルの政宗と、強面スマイルの浩二である。


「用事なら、僕達も付き合うぜ…なぁ、政宗」

「ああ…勿論だ…美月…美月は可愛いから…一人にするのは心配なんだ」


 あの、郁人と付き合い始めて以降、政宗と浩二は、何かと美月を守ると言って、傍から離れないのである。トイレまでついてくるので、本当に困り果てている美月なのである。


 美月は、ジト目でイケメン二人を見ているが、イケメン二人は全く気にしていない。そして、そんなやり取りを、7組教室の扉から、こっそり様子を窺っているゆるふわ宏美が居た。


「あ…ひろみん!! 来てくれたんだね!!」


 美月は、そんな宏美を見つけて、手を振るのである。そして、イケメン二人も含めて、7組全員がゆるふわ宏美に注目するのである。宏美はギョっとなって、失礼しました~っと言って、この場を後にしようとするが、美月が素早く回り込んで、ゆるふわ宏美を捕まえるのである。


「み…美月さん…放してください~…わたしぃ…まだ死にたくありませんよ~!!」


 逃げようとするゆるふわ宏美に抱き着く美月である。美月は満面の笑みである。そんな美月と宏美を、睨みつける政宗と浩二である。


「何をしに来たんだ?」


 政宗が、敵意むき出しで、宏美に詰め寄るのである。美月に抱き着かれて、身動きが取れないゆるふわ宏美は、ニコニコ笑顔を浮かべるのである。


「何をしに来たと言われましても~…何をしに来たんですかね~?」


 正直、ゆるふわ宏美は、美月から連絡が来て、そのことを郁人に報告したら、無理やり、美月のところに向かわされた宏美である。そのため、よく状況がわかってないのである。


「ひろみん…こいつらの事は無視しても大丈夫だよ…私、大親友のひろみんに相談があるんだよ」

「ちょっと待ってくださいね~…美月さん…いつわたしぃ達…大親友になったんですか~!?」

「えへへ~、いつも、私の事助けてくれるひろみんは大親友だよ」


 ギューッとちっちゃい宏美を抱きしめる美月に、全力で嫌がるゆるふわ宏美である。そんな光景を嫉妬と殺意の視線で見ている政宗である。


「貴様…美月をたぶらかす気か!! さすがは、あの、性根の腐った朝宮の女だ…やり口が汚い」

「そうだぜ…細田…お前の手口はわかってるんだ…最近、美月ちゃんにまとわりつきやがって…どうせ、朝宮の指示なんだろ…チッ…朝宮のためなら何でもする…クソ女が」

「な、なんですか~!? やっぱり、お二人が、その噂広めてるんですね~!! 本当にやめてくださいよ~!! わたしぃと郁人様が、梨緒さんに殺されたらどうするんですか~!!」


 ゆるふわ宏美に、軽蔑の視線で罵声をあびせるイケメン二人に、猛抗議するゆるふわ宏美である。正直、美月の件といい最近は、問題が山積みなゆるふわ宏美なのである。


「…ひろみん…親友の私をほったらかして、そんな人たちの相手しなくていいよ…それに、郁人は、ひろみんとは友達で…私は大親友…つまり、ひろみんとの関係は私の方が上なんだからね!!」


 ドヤ顔で、イケメン二人にそう言い放つ美月である。その一言に、激しく怒り、ギロリとゆるふわ宏美を睨みつけるイケメン二人である。


「ちょ…勘弁してくださいよ~!! わたしぃが何か悪いことしたんですか~!! そ、それにですね~…永田さん…覇道さん…わたしぃもお二人と同じく…美月さんを守りたいの親衛隊のお仲間じゃないですか~…わたしぃお二人の仲間ですよ~…仲良くしましょうよ~」

「信用できない」

「ああ…信用できないぜ」


 必死に無害をアピールするが、美月に抱きつかれている宏美に説得力が感じられないイケメン二人である。


「と…とにかくですね~…わたしぃは、美月さんに呼ばれたから、仕方なく来たんですよ~」

「えへへ~…ひろみんは私が呼んだらすぐに来てくれるもんね」

「……ええ~…そうですね~…そうしないと~…郁人様はアイドル活動しないって脅すんですから~…仕方なく、ですけどね~」


 嬉しそうにギューッと宏美を抱きしめる美月に、遠い目で、されるがままになっている宏美である。


「…美月が呼んだなら…仕方ないが…あまり、調子に乗るな…性悪」

「ああ…僕達の目があるうちは…好きにはさせないぜ」


 敵意むき出しのイケメン二人に、苦笑いのゆるふわ笑顔を浮かべる宏美である。正直、早く、1組に帰りたいゆるふわであった。


「でね…ひろみん…私…ひろみんを呼んだのは、大切な相談があるからだよ」

「はぁ~…わたしぃにですか~?」

「うん…ひろみんに恋愛相談があるんだよ!!」


 美月の爆弾発言のせいで、7組教室が静かになる。宏美は、ダラダラと冷や汗を流す。政宗と浩二は、目を見開き呆然としている。


 一人、美月だけが、ゆるふわ宏美をギューッと抱きしめてニコニコ笑顔を浮かべるのだった。

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