第46話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲーの主人公の手が握りたい。 その2

 あの後、必死の言い訳を並べて、その場を何とかやり過ごして、自分のクラスに戻った宏美だが、結局放課後に、駅前の喫茶店で、美月の相談を受けることになったのである。


 これは、クラスに戻った宏美が、そのことを郁人に話すと、そうか、ぜひ、美月の親友として、相談にのってあげてくれと、微笑みを浮かべて言われた宏美は、完全に断るという選択肢を奪われたのであった。


 そして、放課後、駅前の喫茶店で、珈琲を注文して、向かい合って座っている美月と宏美である。ゆるふわ宏美は、苦笑いでやつれた表情を浮かべている。美月は満面な笑みを浮かべている。


「でね…ひろみん…相談なんだけどね」

「はい~…と言うかですね~…通話とかじゃダメなんですか~?」

「ダメだよ…お友達と喫茶店で恋愛相談って…憧れてたんだよね」


 満面な笑みで、宏美にそう言う美月に、呆れ果て、疲れた表情を浮かべる宏美である。


「それで~…美月さん…相談って、何ですか~?」

「ねえ…ひろみん…恋人同士になって…まず…何をすればいいのかな?」

「は…はぁ~…え!? なんですか~!? それ~!?」


 唐突にそう美月に深刻そうな表情で言われて、少し身構えた宏美は、脱力するのである。


「ひろみん!! 私にとっては重大な問題なんだよ!!」

「そ…そうなんですね~…あの~…美月さん…正直に言って…わたしぃでは、相談に乗るのは難しいかと~…そもそも、あまり、恋人らしくされるのは、わたしぃとしては困ると言いますか~」


 正直、宏美の立場としては、郁人と美月が外などの公の場でイチャイチャされるのは、郁人のファンクラブ会長であり、マネージャーという立場の宏美にとっては、避けてもらいたいのである。


「ひろみん…私達の事…応援してくれるって言ったよね?」

「…そ、そんな事言いましたかね~…あ、あれですね~…まずは、手をつなぐとこから、初めて見てはどうですか~?」


 必死に、宏美は、なんとかそれらしいことを述べるのである。しかし、手をつなぐという発想が出るあたり、意外と純情なゆるふわなのである。美月は、少し考え込むのである。


「う~ん…でも、郁人とは、いつも手をつないでるよ…今更な気もするんだけど?」

「あ…あれですよ~…ほら…あの~…こ、恋人つなぎというやつですよ~」


 小首を傾げて疑問顔の美月に、あわあわして、とりあえず、何とかアドバイスを絞り出す宏美である。


「…恋人つなぎって、あの指を絡ませるのだよね? 手をつなぐときは、いつもあれだよ」

「そ…そうなんですか~!? え…それって…付き合う前からですか~!?」

「そうだよ…というか…幼稚園の時からかも…ていうか…思うと…普通の手つなぎの方があんまりやったことないかも」


 考え込んで、衝撃発言をする美月に、ゆるふわ苦笑いを浮かべ、ドン引きなゆるふわ宏美である。


「そ…そうなんですね~…では、このお話は終わりという事でいいんじゃないですか~」


 珈琲を飲みながら、もうどうでもよくなった宏美は、話を終らせにかかるのである。そんな中、先ほどまで上機嫌だった美月が、無表情で微動だにせずに、テーブルの上をジーっと見つめているのである。ゆるふわ宏美は、首を傾げながら、珈琲を飲むのである。


(ちょっと待って…よく考えると…最近…郁人と手…つないでないかも…待って…最後に手をつないだのって…あれ…いつだっけ?)


 美月は、考える。物凄く考えるのである。さっきまでうるさかった美月が急に黙るので、宏美が疑問顔を浮かべる。


(…よく考えると…最後って…高校の入学式の朝かな…ということは…恋人同士になってから、まだ、手をつないだことないよ!!)


 美月は、衝撃的な事実に気がついてしまうのである。顔がみるみる青ざめる美月である。


「み…美月さん…どうかされたんですか~!?」

「ねえ…ひろみん…ふ、普通…こ、恋人同士の時と…その…ただの幼馴染の時って…どっちが、仲いいと思う?」

「はぁ~…え!? どういう質問なんですか~? それ~? よくわかりませんが~…恋人同士じゃないですか~?」


 急に顔を青ざめて、唐突に変な質問をしてくる美月に、ますます、不安になる宏美である。


「そうだよね…普通…そうだよね…ひ…ひろみん」

「なんですか~?」

「恋人同士になった時より…幼馴染の時の方が恋人っぽい感じだった場合って…どうすればいいかな?」


 美月の衝撃的な質問に、飲んでいた珈琲が喉に引っかかって咽るゆるふわ宏美である。ゴホッっとなってしまうのである。


「うっ…ゲホッ…あ…あの…どういうことか~…わたしぃ…ちょっと理解できませんね~」

「だって、高校に入って恋人同士になったはずなのに……よく考えるとね…中学までは、クラス別でも、絶対廊下でお話しして、朝も帰りも一緒に帰って、基本どこ行くにも手をつないで、それに…距離感ももっと、くっついていた気がするの!! 最近少し距離があるんだよ!! どう思うひろみん!!」


 美月に早口でそうまくしたてられるゆるふわ宏美は、たじたじである。


「そ…そう言われてもですね~…では、やはり、手をつなぐとこから始めてみてはどうですか~?」


 美月の意味不明な質問に、答えきれない宏美は、何とかそう言って話を終らせにかかるのだった。そもそも、ただの幼馴染なのに仲が良すぎだったのではと思うゆるふわ宏美なのである。


「…なるほど…まずは…初心に帰るべきってことだよね!?」

「え…ええ…そうですよ~」

「わかったよ…ひろみん…私…頑張ってみるね!!」


 珈琲を一気に飲み干して、気合を入れる美月に、ため息をこぼして、やれやれとなる宏美なのであった。

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