第13話乙女ゲーのヒロインは、放課後幼馴染と一緒に帰れない。

 美月は、絶望の昼休みを終えて、午後の授業を受ける。結局、最後まで、休み時間に郁人に会うことができなかった美月は、疲れきった状態で放課後を迎える。


 ホームルームが終わり、郁人と帰ろうと思った美月に、やはり、このヤンデレ政宗&強面浩二コンビが声をかけてくるのである。美月は、激昂状態に突入寸前の状態である。


「美月、一緒に帰らないか?」

「美月ちゃん、今日、男子で、交流会やる予定なんだよ。美月ちゃんも参加よろしく」

「……私は、今日まっすぐ家に帰るから」


 そう、冷たく言い放つ美月は、スクールバックを持って、帰宅しようとする。美月は、今日一日で完全に理解したのである。この二人は相手にしてはいけないと、相手にすると、調子に乗って揶揄ってくると思っているのである。


「美月、じゃあ、帰ろうか」

「美月ちゃん…少しでいいから、時間作ってくれよ」

「……」


 美月は、冷たい眼差しでイケメン二人を睨む。そして、無言で教室から廊下に出る。そう、逃げたり、怒ったり、相手にするから、面白がって、揶揄ってきていると判断した美月は、無視することにしたのである。


 しかし、二人は、美月の後をついてくる。美月は無視、無視と、心の中で唱える。郁人を見つけたら、郁人の所に行って、一緒に帰ろうと考えていた。


 しかし、美月のこの考えは甘かったと、言わざるを得ない状況になるのであった。


 最初は、完全に無視していた美月だったが、下駄箱にたどり着くまでに、十数人の男子生徒を引き連れて歩いている状態になってしまっていた。そう、無視し続けた結果が、なぜか、みんなで、交流会をするために、近くのファミレスに行くことになっていた。


 さすがに、まずいと思った美月だったが、無視を決め込むことにした。無言で、靴を履き替えて、校舎から外にでる。男子生徒達も、美月の後を追う。政宗に至ってはイケメンスマイルで、美月の隣を歩いている。


(…まずいことになったよ。も、もし、こんなところを郁人に見られたら……でも、今から、何か言っても無駄だし…うん、やっぱり、逃げよう。校門を出たら、全力でダッシュして、家に帰宅しよう)


 しかし、数十人の男子生徒を引き連れて、校門に向かう美月の姿は、とても目立っていた。女子生徒達からは、嫌悪と憎悪の声があがっている。


(ほ、本当に、私が何をやったていうのよ! なんで、こんなに、私が嫌われないといけないのよ)


「美月、さっきから、一言も喋ってないが…気分でも悪いのか?」

「美月ちゃん? 大丈夫? 保健室いくか?」


 そう心配そうに、美月に声をかけてくる政宗と浩二を、ひと睨みすると、すぐに正面の校門を見据える。


(二人が、私のことを揶揄うからだよね。イジメるからだよね。何、心配してるふりなんてしてるのよ)


 美月は、穏やかな心に激しい怒りを覚える。そう、校門まで着いたら、美月は全てを解放する気でいるのだ。


 そして、校門にたどり着くと、美月は、今の今まで溜めていた静かな怒りを爆発させると綺麗なフォームで全力ダッシュする。美月は、あっという間に、政宗たちを置き去りに走り去る。美月についてきていた人達が一斉に呆気にとられる。


「美月? どこに行くんだ?」

「美月ちゃん!! これから、交流会やるんだって!!」


 美月は、後方から、政宗や浩二の声が聞こえてきたが無視した。全力で家を目指してダッシュする美月であった。






 美月は、家まで走って帰ってきた。息も絶え絶えである。そして、郁人を置いて帰ってきたことを思い出して、郁人にスマホで連絡をいれようと思ったが、郁人から、先に帰っていてくれという連絡が入っていた。


(クラスの交流会か何かかな?)


 そう思った美月は、郁人に家に帰宅した旨を伝えると、郁人も、あと少しで家に帰るとと返事が返ってくる。


(そっか、もうすぐ帰って来るなら、今日は、郁人の家に遊びに行ってもいいよね。今日は、いろいろあって、郁人とあんまり、一緒にいられなかったしね)


 美月は、上機嫌になって、自分の家に入っていく。すると、玄関に複数の靴があることで、美月は、今日は、旅行から両親が帰って来ることを思い出した。靴があることから、もう帰宅しているのだろうと察したのである。


「ただいま…お母さん、お父さん、帰ってるの?」


 美月は、そう言いながら、洗面所で手洗いをする。すぐに、リビングに向かうと、ソファーに相変わらず、制服のまま、寝転がってテレビを見てる美悠と、ダイニングテーブルに座っている父と母の姿があった。


 美月の、父親の名前は、夜桜 公人で、出版社のお偉いさんである。母親の名前は、夜桜 美里で、イラストレーターである。二人は仕事上から、よく旅行に行くのである。実際は、取材旅行など言って、ほとんど夫婦旅行である。


「美悠……また、制服のまま横になって、着替えてきなさい」

「お姉ちゃん、おかえり~、お母さんたちの旅行のお土産あるよぉ」


 そう、お土産の激甘そうなチョコレートを食べながら、美悠は美月に手を振っている。美月はため息が出る。


「ああ……美月…お帰り」

「美月ちゃん……おかえりなさい」

「ただいま……お母さんたちも、お帰りなさい。旅行楽しかった?」


 そう美月は、両親に言うと、両親の旅行の自慢話が始まってしまった。美悠が、あからさまに嫌な顔をしている。美月に、お姉ちゃん、何でその話題振ったのと非難の顔を向けている。


 美月は苦笑いして、私、着替えてくるからと、リビングから逃げ去る。


「あ、お姉ちゃん!! 逃げないでよ!!」

「それでな……イエローストーン国立公園に行ったんだが」

「バッファローなんかも、いたりしたわ」


 美悠は、一人残されて、両親の旅行の話に無理やり付き合わされてしまったのである。


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