第12話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、一緒にお昼ご飯が食べられない。

 郁人は、全力で走って逃げたが、最終的に、女子生徒達にも追いかけられて、包囲されて、結果的に、宏美に捕まってしまう。宏美は、協力してくれた女子生徒達に写真を渡している。郁人は、その写真をのぞき込むと、自分が写っていることに気がついた。


「……その、写真はなんだ?」

「皆さんに協力してもらった謝礼でお配りしてますよ~。実際は、ファンクラブ会員限定で販売予定だったものですよ~」


 郁人は、そんなモノ貰っても、うれしくないだろっと内心で思っていた。しかし、郁人の疑問はそこではなかった。


「じゃなくて、いや、それも疑問なんだが、それ、どうしたんだ?」

「協力者の名前は、言えませんよ~、ただ、とても~、とうさ……撮影が、とても上手な協力者の方から、いただいたものですよ~」

「おい! 今盗撮って言いかけただろ!?」

「なんのことですか~? そんなことよりですね~。郁人様お昼行きますよ~。屋上で皆さん待っていますからね~」


 宏美に、引っ張られて、屋上に連れていかれる郁人は、抵抗しようかと思ったが、また、女子生徒達に追いかけられるのは、勘弁してほしいと思ったため、素直に従うことにした。


屋上につくと、数人の女子生徒達と、梨緒が待っていた。屋上に、テーブルとイスがセットさている。そこだけ見ると、どこかの金持ちのティータイムよろしくのセットである。しかも、一つのテーブルに、8人座れるようになっている。そして、テーブルは三つあった。


 もうすでに、席は二つしか空いていない。つまり、梨緒の隣の席二つである。宏美はニコニコ空いている席に誘導する。郁人は仕方なく、梨緒の隣の席に座る。ただ、座っただけなのに、女子生徒達の歓声が沸き起こる。梨緒も、満面な清楚笑顔を浮かべている。


(なんだこれ? どういう状況だ?)


 郁人は完全に混乱している。そんな郁人を女子生徒達は凝視していた。そして、宏美も、郁人の隣の席に座ると、手を叩き、郁人にニコニコスマイルを浮かべる。


「では、郁人様……いただきますの挨拶をお願いしますよ~」

「え? あ、はぁ、いただきます」


 よくわからずに、そういう郁人に、みんな手を合わせていただきますと同時に言うと、お弁当を取り出し、それぞれお弁当を食べだす。もはや、郁人もよくわからないまま、美月お手製の手作り弁当を取り出す。


(俺は、いったい、ここで何をしているんだ? あ、美月の弁当……俺の好物が入ってる。ああ~、美月もこれ、好きなんだよな。だから、俺は、初日がよかったのにな)


 郁人の弁当には、ミニハンバーグが入っていた。郁人も美月もハンバーグが大好物であった。郁人は、明日の弁当は、何をメインにするのかを考えていた。もはや、現実逃避である。


「郁人君、そのお弁当すごいね」


 梨緒の何気ない一言が、郁人を現実に引き戻す。そして、なぜか、梨緒に弁当を褒められたことが、うれしくてたまらない郁人である。自分が褒められたごとく、上機嫌になる。


「そうだろうな。美月の料理は世界一だからな」


 しかし、その一言で場が静まり返る。郁人は、自分何かやっちゃいましたか? 状態である。困惑する郁人に、梨緒はヤンデレモードに入っている。


(……あからさまに、この自称幼馴染の機嫌が悪くなった……そういえば幼馴染って、言ってたし、ということは、そうか!! 美月とも幼馴染だろう。俺と美月は、ずっと、一緒にいたわけだしな。美月のことは禁句だったか)


 しまったと思った郁人は、何かいい言い訳がないかと考える。もはや、何も思いつかない郁人は、梨緒の弁当を見る。そして、これしかないと思いつく。


「あ……り、梨緒の弁当もおいしそうだな」

「え? 本当に? えへへ、頑張って、作ったんだぁ」


 一気に上機嫌になる梨緒だった。そして、宏美が郁人の脇を肘でつく。なんだと、宏美の方を見ると、宏美が耳打ちしてくる。


「郁人様、ほかの方の弁当も手作りですよ~、ほめてあげてくださいね~」


 そう小声で言い終え、ウィンクをするゆるふわ宏美に、あからさまに、嫌な顔をする郁人だったが、確かに場の空気が悪くなっていることを感じ仕方なく従うのだった。


「その、君の弁当もおいしそうだな」

「あ、ありがとうございます! ああ、超幸せだわ」

(え? こんなことで?)

「……そのお弁当も……いいな」

「郁人様…ああ、私……もう死んでもいい」

「いや、死なないでくれ」


 郁人は、次から次に褒めていく、女子生徒達は、みんな大喜びである。いくつか、それ本当に自分で食べられるのというのもあったが、なんとか褒め切った郁人であった。


 郁人は、ため息をつきながら、美月お手製の手作り弁当を食べる。郁人の心の中で、なんで、自分はこんなことをしているのかと自問自答している。


(俺は、こんなところで、何をしているんだ? ていうか、美月怒ってるだろうな。マジで美月に嫌われたらどうしよう……せっかく、美月に好きって言ってもらえたのに、ああ、マジで俺は、なにやってるんだ)


 郁人は、死んだ目で、美月のいない昼を過ごすことになってしまった。






 美月も、郁人同様に、浩二に捕まってしまった。美月は男子生徒達に追いかけまわされ、さすがに、体力馬鹿の男子生徒達相手に、逃げ切ることができなかった。そして、男子生徒達に囲まれたまま、食堂に向かうことになってしまう。


 それは、完全に傍から見ると、美月が男子生徒を従えているように見えた。そのため、女子生徒達から、不満の声があがるのである。美月の耳にもその声は聞こえていた。


(え? 私が悪いの? 私は悪くないよね?)


 美月は完全に、混乱していた。もはや涙目である。そんな中、男子生徒たちは上機嫌である。


 そして。食堂につくと、食堂の一角を、男子生徒たちが占拠していた。美月は、そこの真ん中に誘導される。美月的には、絶対に行きたくなかったが、周りの空気が、それを許さない。仕方なく、そこに向かうと、政宗がすでに、座っていた。


「美月……遅かったね。何かあったのかい?」

(なんで、私が来ること前提なのよ! 大体、何があったて、あんたたちに拉致されたんでしょ!! 警察に突き出すわよ!!)


 内心で怒りまくってる美月だが、決して声には出せなかった。なんだかんだで、小心者の美月なのである。仕方なく、美月はイヤイヤ、政宗の隣に座る。その光景を見て、満足そうな浩二も、美月の隣に座る。


「じゃあ、みんな席につけー!! 美月ちゃん来たし、昼飯にすっぞ!!」

「そうだね。さぁ、食べようか? 美月」

「あ…その前に、美月ちゃん……いただきますの合図頼むぜ」


 そう笑いながら言う浩二を、睨む美月は、ため息をつきながら、手を合わせる。


「……いただきます」


 そして、一斉に食事が始まる。もはや、美月は思うのである。宗教か何かかと、美月は絶望しながら、自分の手作り弁当を食べだす。郁人のために、作ったミニハンバーグを食べながら、自分は何しているのか考えている。


(私、こんなところで、よくわからないままに、何で、お弁当食べてるんだろう? ああ、ハンバーグおいしいよ。郁人、気に入ってくれたかな?)


 もはや、美月は、自分の好物を食べているとは、思えない表情をしている。そんな中、周りはニコニコで、美月ちゃん可愛いなぁ、などと言いながらご飯を食べている。


「美月……美月の弁当おいしそうだね……手作りかな?」


 そう、政宗に話しかけられる美月は、その一言で、今日の出来事を思い出す。結局、夜眠れなくて、でも、頑張って、朝早く、準備して、郁人に喜んでもらうために、料理していた自分が走馬灯のごとく頭を駆け巡る。


「そうだよ。頑張って、作ったんだよ。本当に…頑張って」

「そうなのか? さすが、美月だね。とてもおいしそうだ」

「マジで、美月ちゃんの弁当うまそうだぜ。これを食える奴はうらやましいぜ」


 政宗や浩二が、美月の弁当を褒める。すると、次から、次に男子生徒達が、美月の弁当を称賛する。美月は少し機嫌がよくなる。ここまで、褒められては、悪い気はしない美月なのである。


「そ……そうかな? えへへ、じゃあ、郁人も喜んでくれてるよね」


 美月は、喜びのあまり、郁人のことを考えて、そう発言すると、周りの空気が重くなる。美月は、上機嫌のあまり、その空気の変化に気がついてなかった。


「郁人の、好物を沢山入れたんだよね。まぁ、郁人の好物って、基本的に私と一緒だから、私の好物でもあるんだよね」


 美月は上機嫌に、そう語る。美月は郁人のことになると、饒舌になってしまうのである。完全に周りの空気が死んでいる。政宗もヤンデレオーラを放っている。さすがの浩二も苦笑いになっている。


「美月……今、郁人とか言わなかったか?」


 その政宗の、ヤンデレボイスで美月は、ハッとなる。現実に戻ってきた美月は、周りの空気がやばいことに気がつく、政宗は、すでに、闇落ちしている。察しがいい美月は(自称)空気が読めるのである。


(あ…そういえば、この人、自称幼馴染だったわね。私の幼馴染を自称するってことは、郁人とも幼馴染なわけで、もしかして、郁人と仲が悪いとか? ま、まずいよ。郁人には迷惑かけたくないよ……あ、でも、郁人に守ってもらうのも、それは、それで…ありよね)


 美月は、現実逃避している。そんな中で、浩二がニコニコ笑顔に戻る。


「とりあえず、飯食おうぜ!! 美月ちゃんは、ハンバーグ好きなんだな」

「え? ええ? まぁ、そうね」


 そう浩二が、誤魔化しにかかる。美月は呆気にとられたが、とりあえず返事をかえす。その後、浩二が小言で美月に言うのであった。


「とりあえず、朝宮の話題は避けた方がいいぜ」


 美月は、その時少し疑問に思ったが、とりあえず、頷いておくのだった。そして、美月はお弁当を食べる。


(郁人と一緒に食べたかったよ)


 美月は、そう思いながら、黙々と自分の手作り弁当を食べるのであった。その姿は、とても哀愁漂っていたのである。

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