第10話乙女ゲーのヒロインは、やはりヤンデレに好かれるのである。

 美月は、教室に入ると、すでに教室にいた生徒から、視線を向けられる。その視線に対して、ビックっと小動物のような反応を示してしまう美月だが、恐る恐る自分の席に向かう。視線を下に向けて、着席して、スクールバックからスマホを取り出して、時間を見る。


(まだ、ホームルームまでは、時間があるし、と、とりあえず、郁人に会いに行こうかな…さっきは、少し気まずくなったけど、私の気持ちは伝わったよね。郁人も私に会いたいはずだしね)


 スクールバックの中にスマホしまって、美月は、郁人のところに向かうため、席を立とうとすると、隣に強面の浩二が立っている。驚く美月だが、すぐに顔が険しくなる。


「美月ちゃん…どうして、逃げたんだ?」

「え? どうしても、こうしても、普通、逃げるでしょ」


 正直、言って今すぐにでも逃げ出したい美月である。そんな美月に、少し考え込む浩二だが、何度か、首を縦に振った後に、手をたたくと、なぜか一人納得した様子である。


「美月ちゃんは、照れ屋なのかー理解、理解…次からは気を付けるぜ」

「は?」


 美月は、コイツ何言ってんのよという意思を表情に示して、浩二を見るが、この強面には全く通じない。ニコニコ強面スマイルを浮かべている。


「はぁ、あのね…永田君だっけ? お願いだから、イタズラはやめてほしんだけど」

「イタズラ? なんのことかわかんねーけど?」


 美月の、その発言に、また考え込む、浩二は、心当たりありませんって態度をしている。


(この強面野郎・・・完全にしらを切ってるよ)


 美月は、無言で浩二を睨みながら、スクールバックの中の大量のラブレターを見せつける。それに対して、なぜか、ものすごく歓心している浩二である。


「わかった…こういうイタズラは、今後しないでよね」

「イタズラ? よくわかんねーけど、よし、美月ちゃん、じゃあ、美月ちゃん宛の、プレゼントボックスを、今日中には設置しとくぜ」

「はい? 今なんて言ったのよ?」

「だから、プレゼントボックスを設置しとくぜって話だけど?」

「なんでそうなるのよ!! イタズラするのやめてって言ってるでしょ!!」


 美月は、怒りのあまり、机をバンバン叩いて、浩二にそう言い放つも、浩二は疑問顔を浮かべた後に、親指を立てて、美月にドヤ顔している。


「まぁ、美月ちゃん、僕に、全て任せておけば大丈夫だぜ」

「人の話を聞きなさいよ!!」


 美月は、浩二に怒りまくっているが、全く浩二は意にも返してなかった。そんな中、一人のイケメンが登校してくる。教室の女子達の視線が、そのイケメンに注がれる。そして、イケメンは、真直ぐに美月の所に、イケメンウォークで向かってくる。


「おはよう、美月」


 そうイケメンスマイルで美月に挨拶してくるのは、自称幼馴染の政宗である。その行動に対して、女子から嫉妬の視線と声が上がる。美月の怒りはかき消されて、視線を逸らして、窓の外を見る。


「おう、おはようさん、政宗…お前は、美月ちゃんの幼馴染ってことで、特別に、特別にだな、美月ちゃんとのイベント以外での接触をOKにしておいたぜ」

「おはよう、浩二…そうか、ありがとう…助かるよ」


 浩二は、美月と政宗に、ドヤ顔でやってやったぜ、感謝しろよアピールをしている。素直に感謝する政宗に対して、美月は、内心イラっとした。誰が頼んだのよっと思ったからである。


 美月は、ため息をついて、この二人を無視して、郁人の所に向かおうと席を立つと、二人に呼び止められる。


「美月? どこかに用事でもあるのか?」

「美月ちゃん、どこか用があるなら、ついていくぜ」


 美月は、無言で二人を見る。完全についてくる気満々である。さすがに、郁人の所に連れて行くわけにはいかないので、美月は丁寧にお断りすることにした。


「あの、ついてこないでもらえないかな?」

「いや、ついていくぜ。遠慮はいらないぜ」

「ああ、美月のためだ。どこでも、ついていくさ」


 美月は頭を抱える。ダメだこいつら話が通じないと心底思ったのである。無言で席に座り直す美月は、深呼吸をする、内なる怒りを抑えているのである。


「なんだ? 美月…用事はいいのか?」


 そうイケメンスマイルを浮かべている政宗に、美月は怒りの視線を向ける。


「えっと、覇道君だっけ」

「美月、政宗って、昔みたいに呼んでくれないか? 君と俺の仲だろ?」

「…覇道君」


 美月は、意地でも覇道君呼び行こうと思ったが、政宗は、急に美月の机を右手で台パンして、ジッと美月を見つめるてくる。美月は小動物のようにビックリして縮こまる。政宗の瞳の光は消えている。先ほどのイケメンオーラではなく、ドス黒いオーラに美月は、恐怖のあまり、小刻みに震えてる。


(え? 何? こいつ、やばい奴なの? え? これって、あれだよね。ヤンデレって、奴だよね? よく乙女ゲーで出てくる奴だよね。え? 嘘だよね? 私、死ぬの? こ…怖いんだけど…郁人、助けてー!!)


 美月は、恐怖のあまり、完全にテンパている。政宗はそんな美月にヤンデレイケメンスマイルを浮かべている。


「美月…君には、政宗って呼んでもらいたいんだ…呼んでくれるね?」

「…えっと、それは…」

「呼んでくれるよね?」

「え…はい…ぜ、善処しますね」


 美月は、あまりの政宗のヤンデレオーラに屈してしまった。さすがに恐怖心にはあらがえなかった。しかし、美月は、はぐらかすことには成功したと思っている。今後、名前を呼ばなければいいだけだと思っているのである。勝利を確信していた美月に、政宗は笑顔を浮かべて追撃してくる。


「じゃあ、今、ここで、名前で呼んでくれないか?」

「え?」

「呼んでくれるよね? 美月」

「……ま、政宗君」


 美月の完全敗北である。悔しさから、美月はふるふる震えている。いつか、復讐してやると、復讐心を芽生えさせる美月だった。そして、ニコニコと、その様子を笑いながら見守っている浩二にも、美月は怒りを覚えて、二人とも、絶対許さないと、復讐を決意していた。


「懐かしいな…昔は、美月は、俺の事そう呼んでくれていたよな」

「え…あ…そうなの」


 全く記憶にない美月は、きょとんとしている。その様子に、ヤンデレイケメンは、ヤンデレイケメンスマイルを浮かべだす。完全に政宗の瞳は死んでいる。美月は、恐怖のあまり、冷や汗がでてくる。


「もしかして、美月は、俺のこと…おぼえてないとか? そんなこと…ないよな」

(…ごめん、全く覚えてない…でも、今それを言ったら、私、殺されるかもしれないよ! 乙女ゲーで見たもん。バットエンドで見たもん! 郁人、大丈夫、私は必ず生きて、郁人のところに帰るからね)


 イケメンヤンデレスマイルの政宗に、美月は満面の作り笑顔をするものの、顔が少し引きつっている。


「そ…そんなわけない・・・うん、ま、ま、政宗君、ひ、久しぶりだよね」


 あまりにも名前で呼びたくない美月は、つまりまくったが、何とかスムーズに誤魔化せたと思っている。チラチラ顔色を窺う美月に、政宗は、いつものイケメンスマイルに戻っていた。


「ああ、美月、久しぶりだね」

「ハハハ、お前ら仲いいなー!! 流石は幼馴染だ。うらやましーぜ!」

(は? どこがよ? 今のが仲良く見えるなら、眼科でも行った方がいいわよ!!)


 美月は内心で、雅人にツッコムが、そんな美月のツッコミなどわかるわけもなく。笑顔を浮かべている。完全に疲れ切っている美月に、二人はさらに追い打ちをかける。


「そうだ・・・美月、連絡先交換しないか?」

「あ・・・確かに、今後の美月ちゃんのスケジュール調整しないといけねーし、交換しとかないとだな」


 二人のその発言に、目を見開いて、驚愕の表情を浮かべる美月は、まさに今から、死刑台に上らされるがごとく絶望している。


「えっと…私スマホもってな…」

「美月ちゃん、さっきスマホいじってたじゃねーか」


 顔をサッと二人から背ける美月は、冷や汗がとまらない状態である。政宗はまたしても、ヤンデレイケメンスマイルを浮かべている。


「美月…美月はもしかして、俺達とは、連絡先交換したくないとか? そんなことないよな?」


 全く持って、その通りだよと思った美月だが、ヤンデレの前に何も言えなくなっていた。


(ダメだよ。ダメ、絶対ダメだよね。よく考えるのよ私…もしも、私のスマホに、男子のアドレスが登録されてるところを郁人に見られたら…う、浮気!! やばいよ! 郁人に浮気と思われるのは絶対ダメよ。郁人に振られたら生きていけないよ!)


 完全に、美月は、先ほどの出来事をきっかけに、郁人の彼女面をしている。ヤンデレオーラを放っている政宗に威圧されながらも、必死に戦う決意をして、美月は、政宗の方に向いて、作り笑顔を浮かべる。


「あ…私…スマホは、その…あれよ…そう、ゲーム専用機なのよ」


 美月は、もはや、何も言い訳が思いつかないため、適当なこと言い始めた。美月は完全にテンパている。乾いた笑みを浮かべる美月をじっと見つめるヤンデレイケメンは、ニコリと笑みを浮かべる。


「じゃあ、とりあえず、連絡先交換しようか?」

「そうだな、美月ちゃんスマホだして」

「ちょっと、私の話聞きなさいよね!」


 美月のことを無視して、二人は、スマホを取り出して、美月に差し出してくる。完全にたじろぐ美月に、二人は、グイグイとスマホを渡そうとしてくる。


「わ…私は…」

「美月…本当に俺達と連絡先交換したくないとか…言わないよな」

「そうだぜ、こんなに、幼馴染がお願いしてるんだし、今後のためにも交換しとこうぜ」


 もはや、ヤンデレオーラと傍若無人の振る舞いに、完全敗北する美月は、心を無にして、スクールバックから、スマホを取り出して、二人と連絡先を交換する。そして、二人の連絡先が登録されたスマホの画面を、無心で眺める美月の表情は完全に死んでいた。


「じゃあ、美月ちゃん…今後の活動内容やスケジュールは、メッセージアプリで送っから」

「美月、ありがとう……今度昔の話をしよう」


 呪い殺しそうな目で、イケメン二人を睨みつける美月を、完全にスルーして二人は、喜んでいる。


(はぁ~、結局、郁人に会いに行けなかったし……連絡先知られるし、最悪だよ。早く郁人に会いたいよ)


 美月は、窓の外を眺めながら、郁人のことを考えて、とりあえず、心を落ち着かせようとするのだった。

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