第9話ギャルゲの主人公は、ヤンデレヒロインに好かれるのである。

 気まずい空気のまま、美月と別れた郁人は、自分の教室に入り、自分の席に座る。すでに登校していた男子生徒と女子生徒から、一斉に視線を向けられる。居心地が悪い郁人は、時計を見ると、まだ、ホームルームまでには、少し時間があることに気がついた。


(さっき、美月とは少し、気まずくなったけど、俺の気持ちは伝わったはずだ。少し時間あるし、美月に会いにいくか)


 先ほど別れたばかりなのに、美月に会いたくなった郁人は、そう考えて、席を立とうとしたところに、ニコニコ顔の美少女が、郁人の目の前に現れる。


「フフ、郁人様、どうして逃げたんですか~?」


 ゆるふわ宏美が笑顔のままに、怒気を放っている。かなり、お怒りのようである。しかし、郁人もたじろいではいられない。例のイタズララブレターの事を、追求しなければならないからである。


「…あの、細田さん…とりあえず、イタズラはやめてくれ…さすがに、困るんだが」

「ほむ~、なんのことです~?」


 右手の人差し指を頬にあて、疑問顔を浮かべてる宏美に、郁人はため息をつきながら、スクールバックに無理やり詰め込んだラブレター達を見せる。それをのぞき込む宏美は、ニコニコ顔を浮かべている。


「さすが、郁人様ですよ~、超人気者ですね~。わかりました~。次回以降はプレゼントボックスを設置しますね~、そこに入れてもらうようにしますね~」

「いや、このイタズラをやめてくれないか?」

「イタズラって、なんですか~? よくわからないのですが~」

(このゆるふわ、完全にしらを切ってやがる)


 郁人は、ため息をつく、そこに、自称幼馴染美少女の、三橋 梨緒が登校してくる。そして、真っ先に、清楚よろしくと郁人のところに来る。男子生徒からの、殺気が郁人に向けて放たれる。


「郁人君、宏美ちゃん、おはよう」

「あ…ああ、おはよう」

「おはようですよ~、梨緒ちゃんは、郁人様の幼馴染ですからね~。特別にですね~、郁人様に近づいてもいい許可を出しておきましたよ~」


 そう郁人に向けて、宏美は、ドヤ顔をしながら、ぺったんな胸を張っている。対する郁人は、コイツ何言ってやがる状態である。そして、郁人は自称幼馴染の梨緒のほうを向くと、昔のことを聞いてみようと決意したのである。


「……あの…そういえば、三橋さんは…」

「…梨緒」

「は?」

「昔みたいに、梨緒って呼んでほしいなぁ」


 郁人の全身に寒気が走る。梨緒は笑顔で清楚佇まいだが、彼女から放たれるオーラは、ドス黒いものを感じる。


「あの…みつは…」

「……」

「梨緒」


 梨緒の圧倒的な、オーラに屈して郁人は仕方なく名前で呼ぶ。梨緒は満面な笑みを浮かべる。ちなみに、宏美はニコニコ顔で黙って立っている。郁人は内心で、このゆるふわ、面白がってやがると怒っていた。


「うん。ふふ、懐かしいなぁ、郁人君は、私のことを、そう呼んでくれてたよね」

「あ…えっと…」

「…あれ、郁人君…まさかと思うけど、私のこと覚えてないとか?」


 梨緒から、笑顔が消え、瞳から光が消える。そして、ジッと郁人の方を見ている。その姿に郁人は恐怖を感じた。


(やばい…これは、覚えてないって、言える感じではないな。あれか、ヤンデレってやつか? 俺は、知っている。なんか、ギャルゲーで見たことあるやつだ。まさか、俺刺されるのか? ご…誤魔化すしかないな…生きるために、美月、俺は生きて帰るからな)


「そ、そんなことないぞ…うん、ちゃんと覚えてる…気がするからな」

「本当にぃ? そんなこと言って、実は忘れてるとかぁ?」

「そ…そんなことはないぞ、梨緒」


 郁人は冷や汗が全身から噴き出てくる、必死に誤魔化しにかかる。対する梨緒は名前を呼ばれたことで、上機嫌になったのか、ヤンデレモードから、清楚モードに戻っている。清楚スマイルを浮かべている。郁人は思ったのである。こいつマジでやばい奴だと、とりあえず、今後あまり関わりたくはないと心底思ったのである。


「そうだぁ、郁人君…連絡先交換しない? 宏美ちゃんも交換しないかな?」


 郁人にとって、その一言は地獄に落とすための言葉に聞こえた。


(絶対に、教えたくないんだが、というか、もし、美月に、女子のアドレス登録してることを知られたら…浮気を疑われ、振られるに違いない。やばい、絶対阻止しなければ…)


 完全に朝の件で、美月の彼氏面な郁人は、完全に考えが飛躍してしまっている。ダラダラと、さらに冷や汗を掻き、表情に動揺が浮かぶ。


「そうですね~、郁人様、連絡先交換しましょう~」

「郁人君、交換しようよ」

「あ…スマホもってな…」

「嘘だよね? 私知ってるんだよぉ」


 笑顔で、そう言い放つ梨緒は、ヤンデレモードに入っていた。宏美もニコニコしながら、スマホを押し付けてくる。


「いや、ほら、あれだ…今日はもってきて…」

「ズボンの右ポケットに、入ってるよね? どうして嘘つくの? まさか、私たちと連絡先交換したくないとか? フフ、そんなことないよねぇ?」


 郁人は、梨緒に恐怖する。なぜそんなことがわかるのかと、実際に、郁人はズボンの右ポケットに、スマホを入れているのである。


「郁人様、幼馴染がここまで、お願いしてるんですからね~、連絡先交換しましょうね~」

(お願いじゃなくて、脅迫だろ!?)


 心の中で、ゆるふわ宏美に、郁人はツッコミをいれる。二人は、ニコニコと郁人にスマホを押し付けてくる。郁人は観念して、スマホを差し出すのであった。


「ありがとう。郁人君」

「郁人様、これからのスケジュールなどは、メッセージアプリでお送りしますね~」


 素早く、郁人からスマホを奪い取り、二人は、素早く連絡先を交換する。そして、郁人のもとに返ってきたスマホには、ちゃんと二人の連絡先が登録されていたのであった。


(はぁ~最悪だ・・・美月にも会いに行けなかったし)


 郁人は、上機嫌の梨緒と宏美を、恨みがまっしく眺めながら、肘をつき、ため息をこぼすのであった。

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