第7話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、やはりアピールに失敗してる。

 美月の帰る時間になると、二人は、無言で立ち上がり、美月の帰り支度をする。郁人は、飲み物などを片付ける。そして、二人で、郁人の部屋を出る。


「あ……美月、明日の学校で、その…休み時間のたびに、会いに行くからな」

「う、うん。私も会いに行くね。その…ろ、廊下で話そうね」

「そ、そうだな。まぁ、あれだ、スマホで連絡するから」

「う、うん。私も、連絡するね」


 郁人は、頬を掻きながら、美月は顔を伏せて、二人揃って照れながら、そんな会話する。そして、無言で、郁人は美月を見送りについていく。二人で、玄関に向かうと、リビングでまだ、ゲームをしていた雅人を見つける。


「お前、まだ、着替えてなかったのか?」

「兄貴……姉貴帰るのか?」

「うん。またね。雅人君」

「あ…はい。また」


 そう、美月に照れながら、挨拶をする雅人に、手を振って挨拶をかえす美月は、そのまま玄関に向かった。郁人も後をついていく。


「じゃあ、またね」

「送ってくぞ。美月」

「え? いいよ……そこまでだし」

「いや、危ないから、送ってく、そこまでだしな」


 そう言って、美月を送っていく郁人は、隣の美月の家の前まで、彼女を送る。郁人に挨拶とお礼をして、美月は家に帰る。郁人が、美月を送っていくのは、日課でもある。ちなみに、二人は家の前で長話しすぎて、家の前での長話を、両両親に禁止されているのである。


「ただいま」


 そう言って、美月は自分の家に入って、手洗いを済ませて、リビングに向かう。相も変わらず、美悠は制服のまま、寝転がって、テレビを見ていた。


「美悠、まだ、着替えてないのね。ちゃんと、着替えなさいって言ったでしょ」

「あ、お姉ちゃん。お帰り~」


 美悠は、そんな姉の説教を完全に聞き流していた。いつもなら、完全に美悠が着替えるまで、美月の小言は終わらないのだが、そのまま上機嫌で、夕食の準備に取り掛かる美月だった。そんな姉を、不審に思った美悠は、ソファから起き上がる。


「お、お姉ちゃん? なにかあったの?」

「ふふ~ん。気になるの? 気になるよね」


 美月の、異様な上機嫌モードに、少しイラっとしたが、美月と郁人の関係は、美悠にとっても気になるところであった。


「あのね、あのね。郁人にずっと一緒にいようって言われたの」

「……あ、そう」


 美悠は、ソファに寝転がりなおす。完全にこの話題に興味をなくしていた。ため息をつきながら、テレビを見始める。


「ちょっと、美悠、ちゃんと聞いて!」

「あ~、聞いてる、聞いてる。あ…そういえば、お母さんたち帰ってくるの明日だっけ?」

「露骨に、話題変えないでよ…明日の夕方には、旅行から帰って来るらしいよ」

「わかった~」

「ちょっと、美悠…話を終らせないで、ちゃんと聞いて、郁人が…クラスが別になって、寂しいって言ってくれて、でね、休み時間のたびに、一緒に会おうって、廊下で話そうって、約束したんだよ」


 完全に、話題を終らせにかかっていた美悠を、無視して、そうまくし立てる美月は、完全に料理どころじゃなかった。美悠の方に詰め寄っている。美悠は、はぁ~とため息をついて、仕方なく美月の方を向いて、露骨にめんどくさそうな表情をする。


「はぁ~、お姉ちゃん。今日どうしたの?」

「なんで、そんな残念な子見る目で見るのよ? だって、郁人が、ずっと一緒にいようって言ってくれたのよ! これって、もう実質プロポーズだよね? いや、プロポーズだよ!」

「そう、よかったね~、じゃあ、お姉ちゃん、ご飯作って、私、お腹すいたし」


 掴みかかって、そうまくし立ててくる姉の美月を、振り払い着替えのために、美悠は、部屋に向かおうとする、美月は素早く美悠の腕をつかむ、そこには絶対に逃がさないという意思が込められていた。


「どうして、そんなに興味持ってくれないのよ!」

「だって、それって、結局、中学の時と変わらないでしょ」

「え? どういうこと?」


 美悠の一言に、美月は、驚愕の表情を浮かべる。美悠は、思うのである。いつもは、完璧な姉も、兄のことになるとなぜ、こんなにポンコツになるのだろうと、美悠は、完全に呆れモードで姉の美月を見ている。


「あのね。お姉ちゃん。よく思い出して、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、しょっちゅう、それはもう、私も知ってるくらいに、お互い一緒にいようって、それは、もう、何回も言い合ってるでしょ」

「え? そ…そんなこと…あ!」


 美月は、目を見開く、そう驚愕の真実(本人だけ)に気がついてしまう。みるみる、表情が死んでいく、そこに美悠は、追い打ちをかける。


「それに、中学の頃も、休み時間のたびに、廊下で話してたでしょ? 普段と変わらないじゃん」

「た…確か…え? じゃあ、あれ、郁人は普段通りだったってこと?」

「よくわかんないけど、そうなんじゃない」


 放心状態の美月の腕を払いのけて、美悠は、自分の部屋に着替えに向かう。そして、リビングには、嘘でしょ、そんなことあるわけ、いや、明日頑張れば、と美月の独り言が響いていた。






 郁人は、美月を送って、自分の家に帰ってくる。そして、夕食の準備に取り掛かろうと、リビングに向かう。そこで、まだ、寝転がってゲームをしてる雅人を見つける。


「はぁ~、明日には、父さん達、出張から帰って来るからな」

「あ…そうだっけ」

「まったく、あんまり、だらしなくするなよ」


 そう言い放ち、郁人は、キッチンに向かう。雅人は、兄のその行動に疑問を抱いた。なぜなら、必ず、着替えに行くまで、郁人の小言は終わらないからである。


「あ……兄貴…なにかあったのか?」

「なんだ? 雅人? お前も、夕飯の準備手伝ってくれるのか?」

「いや、俺料理できねーし…って、いやそういう事じゃなくて、兄貴、今日、機嫌よくないか? なんかいいことあったのかよ?」


 雅人は、思ったのである。ついに兄貴と姉貴の関係に進展があったのではと、内心では超焦る雅人である。かなり、食い気味で郁人に訊ねる。


「まぁな。さっき、美月にずっと一緒にいようって言われてな」

「は? そんだけ」

「いや、そして、クラス別れたから、休み時間のたびに、会って話そうって、約束してな」

「あ…そう」


 完全に話題の興味を失った雅人は、キッチンから出ていこうとする。その行動を不審に思った郁人は、雅人の腕を捕まえて引き留める。


「どうしたんだ? さっきまで、あんなに食い気味で聞いてきたのに?」

「いや、別に…なんでもねーよ」

「いや、なくはないだろ?」


 雅人は、心底めんどくさいという表情で、兄を見ている。ため息をつく雅人は、完全に呆れている。完璧な兄貴は、なぜか姉貴の事となるとポンコツ化するのかと内心思っていた。


「兄貴、今日どうしたんだよ? それって、いつもの事じゃねーか。そもそも、中学の頃と変わってないだろ?」

「いや、違うだろ? 美月がずっと一緒にいたいって言ってたんだ。そして、俺も、美月にずっと一緒にいたいって言った。これは告白だと思うんだが…」

「兄貴……よく思い出してみろって、姉貴が兄貴に、一緒にいたいって、しょちゅう言ってるだろ。兄貴も、姉貴によく言ってるだろ」

「なん…だと!?」


 郁人は、それを聞いて、驚愕の表情で衝撃を受けている。そこに更に、雅人の追撃が襲う。


「あとさぁ、休み時間のたびに、会って話すのも中学の頃から、してるだろ? 急にそんなことで、よろこんで、本当にどうしたんだ…兄貴」

「そう言われると…そんな気もする」

「じゃあ、俺、着替えてくるから、ご飯できたら呼んでくれ」

「待て、雅人…じゃあ、美月の発言って、美月にしてみれば普段通りってことか?」

「いや、しらねーけど、そうなんじゃねーの?」


 そう食い気味に訪ねてきた郁人に、雅人はそう言い放ち、兄の腕を払いのけて、キッチンから出て行くと、自分の部屋に向かう。一人キッチンに残された郁人は、しばらく呆然と立ち尽くすのであった。

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