第6話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、再度アピールを試みる。

 美月は、自分の部屋に戻ると、すぐに制服から、私服に着替えて、身だしなみを整える。郁人の家に遊びに行く準備をするのである。そして、準備ができると、部屋から出て、階段を降りて、リビングに入る。


「じゃあ、美悠、行ってくるね」

「ほぉ~い」


 美月の方を見向きもしない美悠は、ソファーに寝転がって、テレビ眺めながら、手だけ振っている。そんな、美悠のだらしない態度に、美月はため息がでる。


「美悠、家だからって、だらしなくしない。後、着替えなさいって言ったでしょ」

「あ~、うん、わかったから、ほら、お姉ちゃん早くいかないと、お兄ちゃん待ってるよ」


 美悠は、対姉への対策攻撃、兄が待っている作戦を決行する。その作戦は、美月には効果は抜群だ。美月は、しぶしぶ、玄関に向かって、家を出ていく。


「はぁ~、お姉ちゃんの完璧主義も、勘弁してほしいよ。だいたい、私だって、お兄ちゃんの家に遊びに行きたいのを、我慢してるんだからね」


 そうぼそりと、姉の美月がいなくなった、リビングでつぶやく美悠だった。






「お邪魔します」


 美月は、合鍵で郁人の家に入ると、一言そう言って、上がり込む。ちなみに、郁人も美月の家の合鍵を持っている。ちなみに、二人がなぜ、合鍵を持っているかという話は、また別の機会に語られるだろう。


「こんにちは、雅人君」

「あ、姉貴、こ、こんにちは」


 美月は、リビングの床で、寝転がってゲームをしていた雅人に挨拶する。雅人は顔を赤くして、急いで、ゲームを辞めて、立ち上がって美月に挨拶をかえす。


「ふふ、雅人君、ちゃんと制服着替えた方がいいよ。じゃあね」

「あ、はい」


 そう美月は、笑いながら雅人に言うと、階段を上がって、郁人の部屋に向かう。雅人は、そんな美月の姿を見つめる。


「姉貴は、兄貴しか見てないもんな・・・・・・仕方ないよな」


 雅人は、もう少し自分と会話してほしいと思った。だけど、美月は、兄の郁人に会いに来ていることを理解している。だから、雅人は嫉妬するのである。リビングであえてゲームをするのである。






 コンコンと郁人の部屋にノック音が響く。郁人は、すでに私服に着替え終わっていた。


「入っていいぞ」

「お邪魔するね」


 そう美月が郁人の部屋の扉を開けて、入って来る。そして、真っ先に、ベットに腰を下ろす。美月の特等席である。テーブルには、すでに飲み物のお茶が用意されていた。ちなみに、ペアマグカップである。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 二人の間に沈黙が訪れる。普段なら、別になんとも思わないが、さっきほどの出来事を二人は思い出していた。そう、朝のアピールは意味がなかったことを、ここで、挽回しようと考えているのである。


 そのためか、気まずい沈黙となってしまっている。


(ここは、さりげなく、アピールしていこう。さりげなく、本棚から、あらかじめ買っておいた幼馴染モノのラノベを読み始め、さりげなく美月にアピールをする。完璧な作戦だ)

(そういえば、郁人の本棚に、幼馴染モノのラブコメ漫画を並べて置いたことがあったよね。郁人に、読んでもらうために置いておいたけど、今ここで私が、読んでいれば、さりげないアピールになるんじゃないかな)


 ちなみに、二人とも、実はオタクであったりする。ちなみに隠れオタクである。家族にも二人は隠しているつもりである。実際はバレバレなのだが、二人は、完璧に隠し通せてると思っている。


 郁人は、ベッドを背もたれにして床に座って、幼馴染モノのラノベを読み始め、美月は、ベッドにうつ伏せに寝転がって、幼馴染モノのラブコメ漫画を読み始める。チラチラとお互いを見ては、本に視線を戻すという行動を繰り返す。


(美月が、こっちをチラチラ見ている。これは、俺が読んでいる作品が幼馴染モノと気が付いて、意識しているに違いない。やはり、俺の作戦は完璧だ)

(郁人が・・・・・・私の方をチラチラ見てる。私の読んでる作品が幼馴染モノとわかって、意識してるんだよね。やった、やった。私、やったよ。完璧すぎる作戦だよ)


 二人は心の中で、勝利を確信した。しかし、完全に自分のことしか頭になく、相手が何を読んでいるかなど、お互いにわかっていない。完全に空回りである。


「そういえば、クラス別々になってしまったな」

「そうだね・・・・・・その、さ、寂しい・・・・・・かな?」


 美月は、郁人に寂しいと言いたがったが、照れてしまった結果、郁人にキラーパスをしてしまう。対する郁人は、内心ドキッとした。しかし、ここは男を見せる時がきたと覚悟を決める。


「俺は、美月と一緒じゃないと寂しい・・・・・・と思う」

(しまった。日和ってしまった)

「・・・・・・その、私も、さ、寂しい・・・・・・かな」

(う~、恥ずかしくて、寂しいから、一緒のクラスがよかったの一言が言えないよ)


 二人はお互い顔を背けて、顔を赤くする。内心恥ずかしさで、心臓バクバクである。お互いやはり、根本的にはヘタレなのである。そもそも、ヘタレで、奥手じゃなければ、とっくにこの二人は恋人関係だっただろう。


(ここで、言えばいいんだ。一緒にいたいと・・・・・・ずっと、一緒にいてくれって)

(私、頑張って、言わないと、一緒にいたいよって、ずっと一緒にいてほしいって)


 郁人は、とりあえず、ラノベを読んでるふりをしつつ、美月の方をうかがうと、美月と目が合う。お互いハッとなり、サッと目を逸らす。郁人は、クールを装っている。さりげなく、さりげなくと心の中で繰り返し、自己暗示をかける。


「美月、クラスは別になったけど、休み時間とかは、その、い、一緒にいないか?」

(え? 郁人が、一緒にいたいって、言った。ずっと一緒にいたいって)


 美月は、郁人の方を見つめる。完全に、郁人の発言が、美月には、誇張して伝わっている。そして、郁人はラノベに集中しているように、美月からは見えていた。ちなみに郁人は、内心、心臓バクバクの超緊張状態である。


「その、私も、郁人と、ずっと、一緒にいたいな」

(え? 美月が、俺とずっと、一緒にいたいって言った? これは、つまり、愛の告白なのか? 美月は俺のことが、好きってことだな)


 美月の、誇張された発言を、さらに誇張して受け取る郁人、完全に、誇張伝言ゲームであった。


「その・・・・・・美月、いつまでも、一緒にいような」

「う、うん。一緒にいようね」


 二人して、顔を真っ赤にしてそう言い合う。二人は内心でガッツポーズをする。これは完全に両想いであると確信したのである。そして、二人は、黙々と本を読むのであった。

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