第4話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、やはり幼馴染に好かれる。

 入学式の説明を受けて、体育館に移動する郁人は、完全に男子生徒に嫌われていた。舌打ちされ、殺意の視線を送られる。ものすごく居心地が悪い。ちなみに男子生徒と女子生徒別れて、列が作られて体育館に向かっているため、郁人は完全に孤立していた。


 そして、同じく美月も、完全に女子生徒に嫌われていた。彼女もまた、同じように体育館に列を組んで向かっている最中、嫌味を言われ、陰口をたたかれる。完全に同性に嫌われてしまったのであった。美月も一年ぼっちを覚悟するのであった。


 そして、入学式は何事もなく終わり、教室に帰ると郁人は、自分の席に真っ先に向かう。席に着くと、先ほどの美少女が声をかけてくる。男子生徒からは、殺気を向けられる。女子生徒からも不満の声が出ている。


「その、郁人君……さっきは少ししかお話しできなかったけど、本当に久しぶりだね」


「あ……えっと」


 郁人は、この美少女のことを全く思い出せなかったため、なんて返していいか考えていたが、すかさず、宏美が間に割って入ってくる。いつも通りのにこにこ笑顔である。


「ダメですよ~。抜け駆けはいけませんよ~」


「あ……ごめんね。その、私たち、その幼馴染で」


(え? 俺と君幼馴染なのか? 全く記憶にないんだが)


 今の美少女の発言に郁人は困惑する。全く記憶にないのである。そもそも、郁人の幼馴染といえば美月である。思考の海にダイブしている郁人は放置され、宏美と美少女は会話を続ける。


「そうなんですね~、では、特別に会話を許可しますよ~」


「ありがとう。えっと?」


「わたしぃ細田 宏美ですよ~。郁人様のファンクラブ会長兼マネージャーをしています~」


「あ……うん。えっと、よ……よくわかんないけど、私は、三橋 梨緒……よろしくね」


 梨緒と名乗った自称幼馴染は、宏美の意味不明な自己紹介に困惑ながらも返事をかえす。小声で、ファンクラブって、マネージャーって、と疑問を口にしていた。郁人も正直、意味不明だった。


 郁人は、自称幼馴染の自己紹介を聞いても、全く思い出せなかった。しかし、覚えてないというのも失礼だろう。しかも、相手は美少女である。ここで、嫌われれば、このよくわからん女子生徒たちの、嫌がらせも加速するかもしれないと考えた。


 梨緒はチラチラと郁人の方を見ている。その視線に気が付いている郁人だが、まだ考えがまとまっていないため、どう対応していいかわからない。


「で、細田さんは、結局何がしたいんだ?」


「宏美でいいですよ~。何と言われましても、そのままで、今後の郁人様の学園でのアイドル活動のお手伝いですよ~」


「えっと、郁人君は、その、アイドルなの?」


「いや、アイドルになったつもりないんだが?」


「大丈夫ですよ~。わたしぃに、全てお任せですよ~」


 郁人と美緒は、完全に頭が?モードだ。宏美はニコニコ満面の笑みを浮かべている。郁人は宏美が、朝の事件の主犯だと確信した。


「すまないが、揶揄うのはやめてくれないか?」


「え~? 揶揄ってなんかないですよ~」


「はぁ~、別にイケメンでもない俺が、アイドルなんてできるわけないだろ?」


 そんな郁人の発言を受けて、二人は驚愕の表情を浮かべて郁人を見る。


「あ……あの、郁人君は、イ、イケメンだよ」


 美緒は、顔を真っ赤にしながらそう言い放つ。そして、言った後にハッとなって、顔を伏せる。完全に顔がゆでだこ状態である。そんな美緒に対して、この子は、お世辞をこんなに必死に言ってくれて、いい子だな,とか考える郁人であった。


「大丈夫ですよ~。郁人様は普通にしていればいいですからね~」


 いつの間にか、ニコニコ顔に戻っている宏美は、残念な胸を張りながらそんなことを言いている。郁人は、何が大丈夫なんだと疑問を浮かべている。




「あ、郁人君は、その、ほ……放課後とか暇かな? よかったら、その……」

「あ……だめですよ~。郁人様は、放課後は、ファンへの感謝の握手会がありますからね~」


「え? そ、そうなんだ」


「いや、握手会なんてしないからな。後、俺は放課後予定がある」


 幼馴染の美月と一緒に帰る約束をしている。郁人的には美月が最優先なのである。だが、宏美はニコニコしながら、逃がしませんよ~とか言っている。郁人は正直、恐怖を覚えた。美緒もゴクリと喉を鳴らしている。


 とりあえず、美緒の件は有耶無耶にできた。しかし、放課後の謎の握手会とやらに参加する気はない郁人は、全て終わり次第、真っ先に逃走することを決意した。


 そんな郁人を微笑みながら眺める美緒は、心の中で決意していた。絶対に郁人君に、この思いを伝えると、あの時、伝えられなかった気持ちを、今度は絶対に伝えたい。それだけ美緒は、郁人のことを思っていた。郁人の中で、自分がどれだけ小さな存在でも、美緒にとって郁人は大切な存在なのだから。








 そんな、自称幼馴染の美緒が決意を固める中、幼馴染の美月はというと、彼女も彼女で、クラスでトラブルが発生していた。またもや教室に戻り、席に着くなり、男子生徒に囲まれてしまったのである。


 だが、そんな包囲を突破して、美月に話しかけてくる人物が現れる。それは先ほどのイケメンである。男子生徒の殺気を受けても、イケメンスマイルを浮かべている。


「さっきは、あんまり話せなかったけど、美月、本当に久しぶりだね」


 そう、美月に馴れ馴れしく話しかけてくる。その様子に男子生徒が、イケメンだからって、一人占めするなよと更に不満が上がる。イケメンは周りを見渡すと両手を広げて説明しだす。


「俺は、美月の幼馴染だから、普通に話しかけてるだけなんだけど」


「は?」


 美月は、イケメンのその発言に素の声が出てしまう。というか、美月の中では、このイケメンも、普通に周りと同じく他人であった。美月の幼馴染は郁人である。全く記憶にない美月は困惑する。


「ほら、イケメン抜け駆けはだめだぜ。美月ちゃんは、みんなのアイドルだからな。イケメンでも特別扱はしないぜ」


「さっきも言ったが、俺は美月の幼馴染なんだ。だから、別段話しても構わないだろう?」


「そうなのか? わりぃな。そういうことなら、いいぜ」


 なぜか、イケメンとの間に割って入ってきた浩二も、自称幼馴染の幼馴染発言を真に受けて勝手に許可をだしている。


(え? どういう状況なの? なんで、この人こんなに仕切ってるの?)


 完全に混乱する美月は、一つの仮説にたどり着いた。これ、この二人が主導で私を揶揄ってるのだと、ムッとする美月は、不機嫌な顔で二人を睨む。だが、二人はそんな美月をスルーして会話を続ける。


「僕は、永田 浩二って言うから、よろしくな」


「俺は、覇道 政宗だ。美月とは幼馴染だ」


(この人私の幼馴染って強調してるけど、私覚えてないんだけど、全く記憶にないんだけど?)


 美月はムッとしたまま少し考える。正直、このイケメンたちに話しかけられ、揶揄われているせいで、女子生徒達から、完全に嫌われ始めている。このままでは、中学暗黒時代の再来である。ぼっちは正直もう嫌な美月なのである。深呼吸をして、ムッとしていた心を抑え込む、そして、美月は作り笑顔を浮かべる。


「あの、私を揶揄うのはやめてもらってもいいですか?」


「え? 揶揄ってないけどな~? 美月ちゃん男子生徒の間で既に有名人だよ。学園のアイドルって」


「は? アイドル? 私が? なんでよ?」


 浩二のその発言のせいで、美月の作り笑顔は消え去り、巣が出てしまう。完全に美月の怒りゲージは上がってしまった。再度ムッとしてしまう美月であった。そんな美月をやはり二人は完全スルーして会話を進める。


「美月は昔から、可愛かったから、モテるのは仕方ないな」


「それは、そうだろうぜ。完全無欠の美少女って感じだし、美月ちゃん」


 美月のイライラゲージは更に上がる。完全に激おこである。ムッとした表情から、ムカッとした表情にランクアップしている。しかし、ここで怒鳴ってしまっては、この二人は更に調子に乗って、揶揄ってくると思った美月は、冷静になって対応することにした。


「私、そんなに言われるほど可愛くはないと思うけど」


「いやいや、美月ちゃんは、超可愛いって、間違いなく学園のトップ取れるから、全て任せておけって、僕が君のアイドル生活を、ファンクラブ兼マネージャーとしてサポートしてやるぜ」


「美月はアイドルなのか? まぁ、美月なら似合っているな」


(いやいや、この二人何言ってるの? 正直全く意味が理解できないんだけど?)


 もはや、二人が何を言っているのか理解できない美月だった。だが、ここで諦めては、一年間このクラスで、この二人に揶揄われることになる。なんとしても、阻止しないといけないと思う美月は、二人と口論することを決意する。


「よくわかんないんだけど、私はアイドルとかやらないから、似合ってもないし、ていうかよくわかんないし」


「大丈夫だって、僕に任せておけばいいよ。それに事実上、もう学園で超絶美少女登場って、話題にもなってるぜ」


「いや、だから、私は・・・・・・」


「美月なら、大丈夫だ。俺も応援するから」


 美月は頭を抱える。美月の表情は、完全にムカッから、イライラにランクしていたが、そんな美月を無視して、二人は話を進める。


「あ、そうだ。美月、放課後は、空いているか? よければ一緒にどこかいかないか? 積もる話もあるしな」


「おいおい、ダメに決まってるだろう、美月ちゃんは、放課後もお話し会しないといけないからよ。美月ちゃんと話したいって、男子生徒が多くて困るぜ」


 美月は二人の傍若無人の振る舞いに、更なる怒りが込み上げてきた。拳を握り締めて、怒りを抑える。落ち着け、落ち着け私と自分に言い聞かせる。


「ごめんなさい。私、放課後は予定があるから」


「なんの予定? 俺でよければ付き合うよ」


「美月ちゃん。ダメだって、少しでいいから、時間作ってくれ」


「予定あるって言ってるでしょ」


 美月はついに怒った。もはや我慢の限界だ。だが、さすがに怒鳴るわけにもいかないため、強めの口調での反論となった。しかし、二人にはやっぱり全く効果がなかった。


「大丈夫だ。一緒に付き合うからな」


「そうそう、少しだけ時間作ってくれれば、それでいいぜ」


「だから、予定あるって言いてるでしょ!」


 ついに、美月は机を両手でバンバン叩きながら怒鳴ってしまう。もはや、我慢の限界であった。バンバン机を叩き、怒りを示す美月を微笑ましく見つめるイケメン二人は、やはり美月をスルーして会話をしだす。


「美月は、本当に可愛いな」


「美月ちゃんの台パン可愛いぜ」


 政宗は、相変わらずのイケメンスマイルでそんなことを言っている。浩二もまた、微笑ましく美月を見ている。美月は、そんな二人を驚愕の表情で見る。もはや、何を言っても無駄だと悟った美月は、放課後この二人から逃げるしかないと悟ったのであった。

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