終章 素晴らしき家族の家庭 Wonderful Family Home

夫の心電図の波形が大きく乱れ始めた。そして、横一筋に走る直線となった。医療関係者の間では、「ヨコイチ」という。心電図アラームがうるさく、医師が目配せすると看護士が心電図モニターの電源を落とす。

 医師が、夫の瞼を開いてペンライトで瞳孔反射がないことを確認し、胸に聴診器を当てて心音が聞こえないことを確認した。

「よく頑張られました。20時20分、ご臨終です。」

 死亡告知により、人工呼吸器が停止された。個室の病室に静寂が訪れる。

「ママ、パパ死んじゃったの?でも、パパ、何か笑っているように見えるよ。」

 無邪気な娘の言葉に妻が静かに眠る夫の胸に泣き崩れ、居合わせる親戚や医療従事者の涙を誘った。


 在宅勤務が始まって1週間くらいして、夫に異変が生じた。食事をしても味が無いと言うのだ。全身倦怠感や発熱、咳などの症状が出現し妻が慌てて駆け付けた時には、自宅のリビングで朦朧として、オリンピックがどうのこうのとかうわごとを言いながら倒れていた。慌てて、救急車を呼んだ。入院後、新型コロナウイルス感染陽性が判明し、1週間後に息を引き取った。


 本人以外は知る由もないが、「私」はWork From Home(在宅勤務)という現代版籠城の果てに2020年夏、Wonderful Family Home(素晴らしき家族の家庭)を今、楽しんでいる。

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WFHの果てに @8EMON

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