はじまりの音#2

「音色よ、冷静になるのじゃ」

「いえ、風鳴師範、ここは私にやらせてください」


「ううん、待機じゃ」

「嫌だ」


「高嶺、すまない」


雷道が、音色の神経が集中する部分にサッと手刀を入れ、微弱な雷撃で気絶させようとする。


「博士、師範、あいつを討ち取れなかったら恨みますから...。」

音色は、消えかけの意識の中で、それだけ言葉を振り絞り、昏倒する。


「頼んだぞ、ヴォイス」

「ありがとうございます、博士」


ヴォイスが精神世界を展開し、音楽記号で保護障壁ほごしょうへきを発現する。

音色は、ヴォイスの子守唄の中でまどろみにつく。


「さて雷道、わしは全力で距離を詰める」

風鳴の流派の真打、業物、愛用する太刀の計三本を季節は、発現する。背面と腰にそれぞれ一本装備。これで、居合も繰り出せるか。


「じいちゃん、夕霧のコピーを使わせてくれ」

「切り裂けよ、矛盾を。ゆくぞ、待月」


季節の精神世界が、周囲1mmに薄く展開される。

「姫、斬撃の際に一瞬のみ、私も夕霧を振りますゆえ」

「頼むぞ、待月」


「季節、バックアップは、任せてくれ、持てる精神リソースをこの戦いに賭ける」

「穿つぞ、クエイク、アース!」


風に翻る白衣を纏うその姿、左右に二体のAliceが現れる。

雷道の半径10mには、荒々しい雷鳴と嵐が吹き荒れる。



「あははっ!さっきの少女と戦えるのを楽しみにしていたのだがね」

「パッチワーク、今日で完全に屠るぞ」


天才的な医者で研究者でありながら、人の命火を消すのが趣味のマッドサイエンティスト。あいつの肉体は、今までに言葉巧みに騙して、ホルマリン漬けにしてきた患者の肉体を、パッチワークして出来ている。


そうツギハギしているのだ。

「吐き気がするな」


高嶺音色たかねねいろ

ある日、彼女の父親と母親は、交通事故に遭った。

しかし正しい医療を受けることが出来たために、一命を取り留めた。


そこで終われば良かった。

しかし、主治医は、不幸にもまだ現役時代のパッチワークだった。


「追加で手術を行う必要があります」


そう親族に、説明を粛々と行うパッチワークは、内心どう思いながら、喋っていたのだろう。


高嶺朱音あかねと高嶺蒼士そうしは、後日パッチワークの手術室にて、看護師に発見される。

内臓を全て抜き取られ、元の身体の形を留めていなかった。


音色は、孤児みなしごとなり、雷道が運営する施設へと引き取られた。

両親を失った音色は、絶望のなか言葉すら喋ることを拒絶する。


唯一。絵心の絵画だけは、音色を癒した。


ツギハギした声帯で、歌うように、詠唱しやがる。

「アクティベーション~~~!」


パッチワークの複製品が、ぞろぞろと土から現れる。


あいつの精神リソースは、殺した人間たちの残照を用いているために、精神エネルギーが枯渇しない。


何度も逃げられた。

そもそもパッチワークの本体と接敵が出来ていない。


季節は、舞い踊るように、三つの刀を駆使して、パッチワークに流れている鮮血を雨のように、戦場に降らせる。


雷道は、風のワンダーで、季節を支援しつつ、雷撃でパッチワークの肉体を焼いていく。



人間の形をして、騙った存在を、有象無象を、雷道と季節は、全て土へ還す。


この戦いを終わらせるには、パッチワーク本体を、あぶりだす強力な罹患者が必要だ。


「不甲斐ない、今回も音色の両親の仇は、取れないのじゃよ」

季節は、そう言いながら、大粒の涙を流す。


「パッチワークが、縛った魂は、天国へ行ったさ。無駄じゃない」


ヴォイスの子守唄の中で

健やかに眠る音色の寝顔だけが、季節と雷道の救いだった。


雷道の発現する雨雲が、慰めの雨をシトシトと降らす。

血で、汚れきった戦場を浄化していき、また日常へと帰る。



「帰るぞ、ぼくらの家に」


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「師範!今日は、どんな訓練を?」

「頑張り過ぎじゃ、そら、お米でも食え」


「ご飯が訓練ですね!」

「そうじゃよ、ふふっ」


よく笑うようになったな

わしは、嬉しいよ


音色とヴォイスには

健やかに歌を歌っていてほしいものじゃな。





















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