偉大な男
俺は、所詮道化でしかない
この寂れてしまったサーカスも
昔は、夢のような空間だった
夜な夜な開かれるショー
観客の笑顔を咲かせ続けた僕の父親は
もう逝ってしまった
家業を継ごうと、必死に演技をした
だがこのザマだ
開の血筋を、あのパレードを僕は自分の代で
途絶えさせてしまう
―——鳴りやまない拍手、絶えない笑顔
幼い頃、一人の観客として特等席に居た自分
未来は、父と同じショーマンしか考えられなかった
父を笑顔にするのが、秘めた夢になった
「志してくれた、それだけでもう十分だ」
死に際、僕にくれた言葉
見せられたのはしがない自作マジック
「俺には無い発想だ」
「最後に聞いてくれないか」
「ああ、なんでも聞くよ、遠慮しないで」
制御の効かない身体を起こし、振り絞るように
僕へ向けて、声を出してくれる父は、何かを伝えたいようだ。
「ショーに明け暮れてすまない、もっと愛してやれれば」
「そのショーで、僕は育ったんだ、十分すぎるよ」
その時、父は、普通はショーの最後にだけ覗かせる笑顔を
僕にだけ特別に披露してくれた。
―—―演戯の原点、大切な記憶で思い出で代えのきかない想い
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