ヒートレーサー

―———鳴り響く歓声、熱狂の渦の中心点、俺たちは今、そこに存在している。


俺の名前は、えん 熱意ねつい

今日まで山あり谷ありで、様々な壁が俺を邪魔した。でもその全てを粉々にぶっこわした。全部、あいつに勝つためだ。


今は、レース場の整備場であるピットという場所に居て、あいつと過去のレースを一通り語り終えたとこ。


「そろそろだ、必ず俺が一位でぶっちぎる、絶対に負けない」

「言ってろ、トップレーサーになるのは、この俺、我聞速人がもんはやとだ!」


「いくぜ、熱意!そろそろスタートの時間が近いぜ」

「ああ、速人、決戦だな」



本来は、戦いでのみ用いる詠唱だが、今日だけいいだろう。

「瓦解させろ、障壁を。燃えろ、イグナイト」


聞こえるぜ、熱意、俺も詠唱しとくか、これでイコールコンディション。

「駆けあがれ、その先へ。上り詰めろ、ドライブ」


―———鳴り響くファンファーレ、歓声を上げるオーディエンス

参加者のレーサー全員が、エンジンへ点火を終えた。


「いくぜ、熱意!そろそろスタートだ」

「ああ、速人、全力でぶつかろう」


Aliceは、これまでのレースでは封印してきたが

イコールコンディションなら何も問題ない。


高まってきた、エンジンの大きな音が鳴り、心まで駆動するようだ。


「全力でぶつかろう」

「もう言葉はナシでいこうぜ、レースだ」


しかし、この勝負の決着はつかなかった。


今日は、大切な友人の命日


あいつの大好きな比喩表現を思い出す。


―――「時間は燃料なんだよ。

特に若い頃の燃料は大事にしなきゃな」


―――「今のうちにブーストして加速していけば

ちょっと歳を取ったって人生楽しいはずだ、どんどん自分の心を燃やしていけばいいんだ」


あいつは、華の10代のうちに、燃料を使い切り、心のエンジンごと燃やし尽くした。


少しは、セーブしてほしかったぜ。




「なあ、速人、今日は暑いな、あの日みたいだ」

墓石に、予め汲んだ水をこれでもかと、多量にほおる。


「お前が生きてたら、もっと張り合いのあるレースが出来るのにな」


「泣いてないぜ、これは、汗だからな」


どのタイトルの優勝トロフィーにも黄金のメダルにも、もう価値は感じない。

引退を考えている。


別の分野で俺の心を燃え上がらせる好敵手を探すべきだ。


「必ず見つけてやる」


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