風の鳴る土地で

―――ある田舎の閉じられた空間の小話


ずっと孤独だったわしに唯一与えられた安息の場所

ここは、わしだけの閉鎖的な世界

周りを見渡せば、田んぼが広がっていて、稲穂がゆらゆらと揺れている。


稲がさらさらと揺れ、微かに感じられる稲穂同士の擦れる音が、無音の風に、音を併せ持たせてくれている。


「そよ風がとても心地良いのぉ、ふー」

とても甘い溜息のような吐息が漏れて、それほどまでにこの世界は美しく、居心地が良い。


「さて、お米の状態を確認するかの」

お米の稲がたくさん成っている、更に目を凝らして状態を確認する。


毎度のことだが細かい変化がある、それを絶対に見逃したくはない。稲穂を少し持ち、抜くつもりのない弱い力で、稲穂の根本を鷲掴みにする。


「うん、しっかりと泥に根を張っている、いいお米ちゃんじゃの」


精神世界と現実世界は、完全に別離している。ここは、季節の精神世界。


「うむ、次は、鍛錬を積むとするかの」

その時、確かに季節の周りの空間に、異質な何かが現れる。


誰も聞き取ることの出来ない声量で、何か呟くと彼女は、自身の心のイメージから紅蓮の炎を僅かに帯びている刀を呼び出した、手元の柄の部分には、何かが仕込まれているように見える。


「なあ、案山子達、今日も相手を頼むよ、わしを殺すつもりでな」


すると田んぼの泥にグッサリと差し込まれていた案山子達が、身体を泥から引き抜き、季節の周辺に躍り出る。まるで、好ましい人と遊ぶのを心待ちにしている無邪気な子供のように。


「カカカカカカカカカカカッ?」

(呼んだ?暇でしょうがありません、遊ぼう遊ぼうよ)


「そうじゃよ、呼んだぞ、テンション上がりすぎじゃ」

季節は、この異様な呻き声がした後、少し片足を後ろに動かし、後ずさる。


「切り裂けよ、矛盾を。ゆくぞ、待月」(.............)


ここで刀の炎の部分のイメージを取り消し、次に、腰の火薬の粉が詰まった巾着袋の紐を緩めつつ、案山子と距離を取る、案山子達は暴れながら季節を追いかける。


「さあ、おいでおいで」

巾着袋の紐を更に緩めサラサラと火薬を巾着袋から空間へ流し出す。その後、案山子と距離を取るように、しかし、離れすぎない程度に再び、高速で少しずつ駆け、スピードを徐々に上げていく。


身体が走行により、揺れると、火薬がさらに流れ出し、巾着袋の重みが少しずつ減っているのがわかる。


「よし、火薬は撒き終えたのぉ、次のステップじゃのぉ」

すると季節は、十分に助走をつけ自分の駆けられる最高の速度であることを確認。


刀を地面に突き立て、刀の先端で地面を力強く押し、瞬間、身体は軽やかに空中へ舞い上がる。


空気にただよう"火薬の粉塵の中心点"と"案山子の集団の中心点"を同時に満たすのは。


刀を即座に背面の鞘に納めつつ、仕込んでいた銃を両手で構える。


「見えて、そこじゃな!」

狙いをつけながら、取り出した仕込銃のトリガーを引き、放たれた弾丸が一直線に狙った場所に突き進んでいく。


 季節は、着ている着物の袖山の部分を口と鼻の中間あたりに当てて、衝撃に備える。

撃ち出された弾丸が、火薬の粉塵の中を貫き、空気と共に漂う火薬に着火するとほぼ同時に大きな爆烈音が鳴り響く。


恐ろしい異形の案山子達はあっけなく爆散した。


季節は、着地に成功し、そっと束ねている自身の髪の毛に触る。

「ふーむ、もうここで修行するのも飽きたのぉ」

「お見事です、姫よ」

武術的な、戦闘知識にしか目がない待月が、間髪入れずに話しかけてくる。


「ありがとな、して待月よ、毎度のことなのだがその呼び方どうにかならんかの?」

「あなた様が幼き頃は、よく喜んでいました、変更するつもりはありませぬ」


どうしたものかと、思案し、悩み始める季節だった。




















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