第4話 ナリくんのこと
たぶん誤解があると思うので、まずナリくんのことから話そうと思います。
ナリくんは決して明るいキャラクターではありません。小学校三年生のようにあおをからかうけれど、ひとりも友達はいません。
孤独で生きることを望んだのに、あおが壊してしまった最後の被害者です。
ナリくんはいつもパソコンに向き合って仕事をして、パソコンだけが唯一の友達でした。あおは人の孤独を見抜く才能があります。孤独な人はあおを裏切らないから好きです。友達という言葉で身動きが取れない人はいずれあおを裏切る。だから友達が多い人や誰かとかかわることを生活の一部としている人は苦手です。
ナリくんがあおに顔を見せてくれるまでには時間がかかりませんでした。なぜならあおを待ち望んでいたことをあおがナリくんに伝えて互いが運命だということへの理解に導いてあげたからです。幾度となく「どうしてわかるんですか?」と派手に驚いたことをあおは強調するように理解へと導きました。自分の発言ほど説得力を帯びることはないとあおはよく知っているからです。
ナリくんとあおはデートもしないし約束もしません。ただ会えばそのままおうちに行って寝るだけです。そんな関係をナリくんは不安そうにしているけれど、あおが笑っていればナリくんは納得してくれます。あおの幸せがナリくんの生きる意味なので、そこはもうナリくんも引き返せないと覚悟しているようでした。いろんなサービスであおはかわいがってもらうけれど、ナリくんは心配しません。あおの本当の顔を自分だけが与えられているとわかっているからです。あおの本当の顔は目をつぶらなければ見えません。密林を飛ぶ蝶々だと人はあおを形容します。でも、本当のあおの顔は抱きしめる大樹なのです。あおが抱きしめる人を探すために蝶々に姿を変えて飛び回っていることを誰も知らないようでした。あおは大樹です。すべての悲しみと苦しみと孤独の永遠の憩いなる大樹です。美しく移り気を性質とした狩人泣かせの獲物ではないのです。ナリくんはあおの顔をはじめて見たとき泣いてしまいました。求めていたものはこれだと微笑んだナリくんの子供みたいな顔を見たとき、あおは言いました。
「ナリくん、愛してる。あおのはずっと片思いしてたから、ナリくんに。夢がかなったの。ありがとう」
ナリくんは男らしい鋭い目線で世間を警戒しているから、時として男らしさという虚像をナリくんに着せては失望していったことでしょう。でもあおはわかっていたんです。だから好きになったのです。ナリくんは孤独な瞳で自分の格好悪さを隠していたから。抱かれることを、子どもに戻ることをナリくんは渇望していたのです。それが孤独の正体であり、世間に背を向けて一人で生きていくと覚悟した理由だったから。愛しているわ、ナリくん、ずっとずっと。
愛を教えてあげる。
もって生まれた大将のパワーを思い出させるにはまず北の大将なるあおが愛してあげないといけないのです。新月も、エンさんもまた同じことです。
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