第3話 峠の裏道

 翌日、宿屋の娘に案内されてふたりの旅人は村を発った。

 相変わらず、マントとマフラーで容姿を隠している。

 そして、このふたりの間には何か取り決めがあるのか、今日は剣士が荷物持ちに変わっていた。


「こちらです……」

「なかなか骨が折れるな」

「あまり声を上げないでください。こちらの気配を悟られます」


 女剣士は率直な感想を述べたが、先を進む娘はそう言って制した。

 ここまでの道のりも、すでに寂れた裏街道だ。整備はほとんど行き届いていなく、街道は雑草が生え、敷石はあちこち雨で流されていて足下が悪かった。

 それが宿屋の娘の案内する裏道はさらにヒドい。出るという山賊を回避する裏道は、獣道に近いだろう。

 まあ裏道なのだから、ますます人が使わないのだから、しっかりと足下が固められているわけでもない。

 先を行く宿屋の娘は、さすが田舎の者といったところか。

 雑草が生い茂る山道をかき分けて進んでいく。その次を元従者……黒髪短髪の女性に、荷物を持っている女剣士。だが、妙に宿屋の娘は小走りに進んでいく。まるでふたりの旅人を突き放そうとしているかのようだ。


「そんなに急がないでくれ……」


 遂には一番後ろを歩く、女剣士がを上げた。連れの短髪の女性が止まる。しかし、宿屋の娘は止まらなかった。


「――どうなっている?」


 口数の少ない短髪の女性も、さすがに不審に思ったようだ。

 彼女は女剣士を気にして止まったのだが、案内しているはずの宿屋の娘はふたりに目もくれず、先に行ってしまった。

 獣道に取り残されたふたりだけ。


「ボク達は騙されたかな?」

「――オレがか?」


 女騎士はさすがにキツイ山道に息切れしているようで、顔を隠しているマフラーを取った。

 短髪の女性もマフラーを外した。


「……キティ。帝都を出るときにこの街道に山賊が出る、なんて聞いたか?」

「いや、オレは聞いてない」


 キティと呼ばれた女剣士は首を横に振る。


「……だとすると、あの宿屋の亭主が言ったことは間違っていたのか。

 ボク達を、何のためにこの道に案内したのか……」


 そうなると、ここに連れ込んだ娘の行動がよく解らない。

 短髪の女性はあごに手を当てて考え込む。


「山賊に脅されているのか、あの宿屋の人たちは!」

「――なんでそうなる?」

「だってそうだろ、ミア?

 こんな山奥に引きずり込む必要はない。オレ達を襲うなら、宿屋で寝ている間に襲えばいいだろ?」


 そう言うと、急にキティは握りこぶしを作り、近くの木に怒りをぶつけた。


「くそッ! 君を危険にさらすなどと!」

「……キティ。自分ばかり背負い込まないでくれ」

「ミア。では、荷物を少し……」

「――それは約束だ」


 くるりと短髪の女性、ミアは背を向けて行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る