~記憶~0
「あー!寝てる~光ちゃん。起きなさーい!」
なんだぁ?人が気持ち良く寝てるってのに。背中に当たってる固いものは?あぁこいつの顎か。
「起きろってばー。今日は卒業論文完成させるんでしょー!私がゲームやってる間にサボって~。こら!こら!」
いてっ、いてっ。今度は頭をポカポカと叩き始める。
パソコンで卒業論文の作成中に寝てしまったらしい。こりゃ起きないと次は背中を噛まれるなぁ。
「は~い。起きましたよ~。おはようございますお姫さま。いてっ!起きたってば!!」
最後の痛恨の一撃をくらって勢いよく振り向く。
「あ、ごめん。最後必殺技出ちゃった。」
いつの間にゲージが貯まってたんだこいつ。しかし無邪気に笑う顔を見て怒る気も失せる。
「んで、ボス倒せたのかよ。」
「倒せないよ~!助けて光ちゃん~。」
俺はコントローラーを奪ってリトライを押す。
「そーそー、そこ!えー!!そんな方法あったのー!?知らなかった。っておい!!」
また頭をバシっと叩かれた。ゲーム内でもボスに叩かれて瀕死になる。
「ってー。お前は俺をどうしたいんだよ!!」
コブでもできてないかと頭を擦りながら睨み付ける。
「攻略法を聞きたかっただけだった。てへっ。光ちゃんは今日ゲーム禁止だったの忘れてたよ。はいパソコンに戻る戻る!」
全く本当にマイペースな奴だ。俺だけ損した気分で腑に落ちない。
「おらぁ!!」
「うきょ!」
ゲームに集中しているこいつの脇が隙だらけだったので渾身の一撃を人差し指に込めて脇腹に振る舞う。
それと同時に画面の中の主人公は地に膝をついた。
「こるぁー!!何しとるんだぁ!えーん、あともうちょっとだったのに。ひどいよ。」
「ごめんごめんちょっと憂さ晴らし。ここ最近パソコンとにらめっこで疲れたからさ。」
現在一月。大学生最後の冬、卒業論文に追われ俺は日々パソコンと格闘している。文章を読むのは得意だが書くのは苦手な俺は尚更苦労していた。 反するこいつはもう終わって後は結果待ちなんて優等生ぶりを発揮している。
「じゃあ気晴らしに外でも行こうか。私たちが最初に会ったあの公園にでも行く?」
「寒がりなお前が珍しいな。まぁこのまま煮詰まってても進展無さそうだし。行くか!」
「その頭じゃ煮詰まってるとか関係なさそうだけどね。」
ベッドにかかっているマフラーを装着した。
「お前の分のマフラーは俺がもらう。しばらく反省しろ!」
「え~!待ってよー!!」
「外寒いから暖かくしていくのよー。」
家を出るとき母の声が響く。
二人「はーい!」
俺たちはいつもと同じ。あの頃から何も変わらないやり取りをしながら家を出た。
安城 三咲 ( あんじょう みさき ) 。こいつに始めて会ったのは中学生の頃。二年に上がるときクラス替えをしてこいつの存在を知った。 昔から基本的に他人には興味がなく、自分と接しない相手のことなどどうでもよかった。しかし三咲は俺のことを知っていて、しつこいぐらいに話しかけてきた。名字順で決められた席はあ~か までが誰もおらずに俺と三咲は隣の席だった。
俺の主観は教室で始めて会っているが三咲の初対面は違ったらしい。どうやら一年の時に公園で会っているのだと言う。まぁその時そんなことは正直どうでもよかった。
毎回喧しく付きまとってくるこいつのことが当時はあまり好きではなかったのを覚えている。
幼い頃身体があまりよくなかった俺は昔から読書が好きで、外で遊んだり部活をしたりなど運動はあまり得意ではなかった。こいつも部活はやっておらず、気づいたら一緒に帰るのが普通になっていた。
しかしそんな時間は長くは続かなかった。三年でも同じクラスでこの日常はずっと続くものだとばかり思っていた。三咲は急に転校することになり俺達は離ればなれになる。その時強がって言った
「これでやっと静かな生活に戻れる。せいせいするよ。」
そんな本意のない言葉を言ってしまったことを後々後悔し続けていた。あいつは「ごめんね。」とだけ言い私の元を去っていったからだ。
高校に進学した俺は排他的な性格が表に出て、最初の頃はずっと一人だった。そんな中話しかけ続けてくれたのが今でも大切な親友の大氏だ。彼はとても思いやりのある人間で周りと分け隔てなく付き合うのがうまかった。そんなあいつは俺に言った。
「なんだかお前は周りと違うんだよなー。すっげー気になる。なぁ!今日一緒に帰ろうぜ!」
それが俺と大氏の仲良くなるきっかけ。人生の中でこんなに図々しい奴に会ったのは二人目だ。そこからは何をするにも二人一緒で、奇跡的に三年間同じクラスだったのも幸運だった。
そして高校の二年生。偶然とは思えないほどの出来事が起こる。
中学の時、携帯電話なんて持ってなかった俺は三咲の引っ越し先の住居は知っていたが手紙なんて煩わしく連絡を取っていなかった。それがある日街でバッタリ会ったのだ。
俺はあの時感じたこと、後悔のこと、寂しかったこと。全てを洗いざらい謝った。
すると三咲は「想いが通じてよかった。」と抱きついてきて、俺はこれが恋なんだと始めて気づいた。 三咲がいなければダメなんだということを知った。
俺はその夜告白した。
「俺はお前がいなきゃダメだった。すごく寂しくて、三咲が俺の前からいなくなっちゃうことが気に入らなくて。でもそれはどうすることもできないって知っていたのに、お前も辛いってこと知っていたのに、俺は強がってばかりいた。本当にごめん。もっと前から気づいていたことを遅くなったけど言わせて。三咲が好きだ。自分ではどうしようもないほどに。」
すると三咲は静かに口を開く。
「私は光ちゃんに嫌われてると思ってた。でも私はあの時からずっと好きで側を離れたくなかったの。一緒の時間を過ごしたかったの。でもお父さんの職場の方に行かなきゃ行けなくなって、私は心が裂けそうだった。離れてもずっと光ちゃんのことが頭から離れなくて。何度も戻ってこようとした。でもあなたのことを想うと側にいない方がいいかな、なんて思って。でもそのあと両親が離婚しちゃって。元々お母さんの実家がこっちにあって別居みたいになってたんだけど。戻れるって聞いたときには何故か嬉しかった。もちろん離婚したのは悲しいけど今でもお父さんとお母さんは大好き。あの二人の関係はあまりよくないけど支えていくつもり。何より光ちゃんに近づけたことが嬉しすぎて。でも会いに行く勇気はなくて。今は神様を信じるよ。こうして光ちゃんに会えて、想いが通じて。私これ以上幸せなことなんてないんじゃないかな。 .... 光ちゃん。私も好き。 .... もう、泣いてもいい?」
二人の止まっていた時間が動き出した。それから今までずっと三咲と一緒にいた。時には三咲の勘違いでやきもちを妬かれ修羅場になりそうなときもあったけどそれはまた別の話。
大氏にももちろん紹介し、三人は特別仲がよかった。
公園にたどり着きベンチに座る。
この公園は三咲の家の近くにある。丘の上からは街が一望できて見晴らしがいい。私はこの場所が好きで小さい頃からここに来てはベンチで読書をしていた。
「んー!やっぱり冬の空気は美味しいねー!でもさー、そろそろマフラー返してよ~。」
実は一つしか持ってきていなかった。俺は自分のマフラーを三咲の首に巻く。
「え!一つしかないの?ドジ~。」
「うるせー。お前がお揃いのなんて買うから、二つ掴んだと思ってたんだよ。」
「全くしょうがないなぁ~光ちゃんは。はい。もっとこっちに来て。」
三咲は一人用のマフラーを無理矢理俺の首にも巻いた。俺は急に恥ずかしくなって言葉が出なくなる。
「可愛いんだ、急に黙っちゃって。」
「うっせーよ。ほっとけ。」
あどけなく笑う三咲を見てドキドキし目線を反らす。
「あーまた反らす~。最初に会った時もそうだったよね。ここに座って本読んでてさー。あの時に一目惚れしちゃったんだよね私。」
「それ覚えてねぇんだよなぁ。」
「なんで覚えてないのよぉ~。でもその時も声かけたらチラッと見ただけですぐ本に戻っちゃって。同じ学校の制服着てたんだから気にしてくれたってよかったのに!」
「だーかーらー!記憶の一部すぎてそのことも覚えてないんだって。お前は地面の石ころの位置とかいちいち覚えてんのかよ。」
すると三咲はムーっと口を膨らませる。
「私は石と同じかい!もー、ひどいよー。 ... でも光ちゃんには他の人にはない何かを感じたの。だからもっと興味が湧いて周りをぐるぐるしてたなー。懐かしいね。」
「あぁクラス替えして始めてお前に会った時か、あのときはうざかったなぁ。」
「いやだから始めて会ったのはここだって。それとうざいってひどいよ。確かに付きまといすぎたけど。」
「ありゃ完全にストーカーだったな。」
「フフフ、じゃあ今はストーカーと付き合ってるわけですか。お主も変わり者だのぉ。」
「あぁ。俺は変わり者だよ。パートナーをストーカーだと勘違いしてたんだからな。目が覚めてよかったよ。こんなに好きな人を見失うところだった。」
三咲の澄んできれいな目に吸い込まれそうになりながら柄にもないことを言ってしまう。
照れているのかこの夕日のせいか三咲の赤面はとても愛くるしく見えた。
「バカ ... 、急にカッコよくなるな。」
キザなセリフが恥ずかしくなり俺はマフラーに顔を埋めて街を見下ろした。
三咲は手を握ってくる。
「光ちゃんと見るここの景色大好き。 ... ずっとこうしていたいね。」
三咲を見ると遠くを見ていた。
「あぁ。そうだな。」
この時はまだこいつの言葉の意味も、どこを見ているのかもわからず、ただ、握られた手を優しく握り返すことしか俺にはできなかった。
そして大学を卒業してからしばらくして俺の人生の中で最も最悪になるであろう出来事が起こる。
一月。大学を卒業してから約一年後、その時は世間体を気にして別にやりたくもない仕事を続けていた。兼ねてからの旅館で働くという夢は夢で終わり、ただ守りたいものがあったから働いていた。そんな仕事の帰り一本の電話が鳴る。相手は三咲。話したいことがあるからとあの時の公園に呼び出された。近々同棲をすることが決まっていたのでそれの確認なのかと何も疑わずに足を進めた。
「どうした?夜に呼び出すなんて珍しいな。」
「うん、ごめんね急に。どうしても伝えたいことがあって。」
いつになく大人しい三咲を見てすぐに何かあると感じた。
「なんだよ。話って。」
三咲は目を合わせようとしない。隣に座ると少し距離を置かれた。
「あの、ね。あの ... 」
「んだよまどろっこしいな。言いたいことがあるんならはっきり言えよ。」
俺は堪らえられなくなって立ち上がりベンチから離れた。
「 ... 別れてほしいの。」
「え?」
振り向くと三咲は斜め下を見続けて目を合わせようとしない。 聞き間違いなのか?
「今何て ... 言ったの ... ?」
動揺して声が震える。ちゃんと聞こえてはいたが当たり前のように聞き返す。
「別れて、って言ったの。」
俺の全機能が停止する。間違いじゃない。これは現実だ。 膝に力が入らなくなる。きっと呼吸することもできていない。
「なん ... で。お前あんなに!俺だって ... お前のことが ... 。」
「好きな人ができたの!私、他に好きな人ができたの。」
意味がわからない。本当に喋っているのは三咲なのか?
「いや、でも ... 。あ!一緒に住むって話は?両親だってあんだけ苦労して説得して ... 。」
「もういいの!全部いいの!!」
俺は今にも泣きそうだ。悲しいとかではなく理解できないことが多過ぎて許容を越えてしまっている。
「よくないよ。なんだよそれ ... 。そんなのおかしいだろ!!!俺は ... 」
「光ちゃんより ... 好きな人ができただけ。それだけなんだよ。」
プツン。 何かが切れる音がした。
喜怒哀楽。全ての感情の波が押し寄せる。それは大きな波ではなくうねる渦潮のような混ぜ合わさる感覚。過去の記憶が頭を巡り、吸い込まれて消えていった。
感情が無くなってしまったみたいに全てのことがどうでもよくなった。三咲ですら人間に見えなくなっていき、視界が醜いものだらけになっていく。
「だから光ちゃん。私は ... 」
「もういい。それ以上喋るな。お前の顔なんて二度と見たくない。」
それだけ言い私は振り返り帰路へと向かう。
「光 ... ちゃん。うっ。私ね、っ。うぅ。」
後ろで三咲の泣く声が聞こえたが無に支配されてしまってそこになんの感情も生まれなかった。
私は人というものが信じられなくなって、仕事を辞めた。こんな世界で生きるくらいなら、死んでしまった方がマシだ。
それから一ヶ月。
俺の生活は堕落しきっていた。なんの活力もなく、ただひたすら天井を見る生活。携帯電話もしばらくは音を鳴らしていたが電池がなくなったからかすぐに静かになった。
もう何もいらない。何も知らない。何も分かりたくない。このまま朽ちていくのが嫌ではない感覚に陥る。
実家暮らしだったため家族が心配してくれる。今思うとそれに甘えていただけなのだろう。悲劇のヒロインを演じている自分に酔いしれていただけなのかもしれない。
それを終わらせるかのように夜中急に部屋の窓を叩く音がした。
「おい!彼方。いるんだろー? ... 」
これは大氏の声だ。しばらくして気配が無くなる。もういいんだよ大氏。俺はこのまま ...
ガッシャーン!
「なにいぃぃぃぃい!!」
窓ガラスが割れた。
「ちわーっす!なんだやっぱいるじゃん。あぁこれお前の親から許可もらったけど今度弁償するから。」
いやいやプライバシーってか普通に犯罪クラスじゃないか?これ。
「んだよそれ。入ってくんなよ。」
大氏は靴を外で脱ぎ部屋に散らばった割れた窓ガラスの破片を気にしながら侵入してきた。私は寝返りをうつ。
「お前こうでもしないと話聞いてくれないだろ。強行突破ってやつだよ。」
私は横になりながら壁を見続けた。
「はぁー。お前聞いてた通り最悪だな。仕事も辞めたんだって?腐ってるって聞いたけどまさかここまでとはな。」
「関係ないだろ。ほっといてくれよ。」
「関係なくねーだろ。昔なら、胸ぐら掴んででも立ち上がらせるけど。俺ももう社会人だしな。まぁとりあえずこっち向けよ。」
大氏の優しさに勝てず向き直って座る。
「よし!お利口さんだ。んで?お前は今何してんだ?悟りでも開くつもりなのか?」
「そんなんじゃない。なんか、生きるのに疲れた。」
「はぁ?俺だって疲れてるよ。色々めんどくさいし。何よりそれは安城に対しての皮肉か?お前はそんな奴だったのか?」
?
なんで三咲が出てくるんだ?俺がこうなっている理由の一つでもあるのに。
「お前何言ってんだよ。もともとこうなったのだって三咲に責任がないわけじゃない。あいつがいきなり別れるなんて言わなければ ... 」
「別れる? ... あーそういうことか。なんか変だと思ってたんだよなー。なるほどなるほど。」
大氏は頷きながら一人で納得しだした。
「いきなり来てわけわかんねーよ。もう三咲と俺は関係ないんだ。俺のこともほっといてくれよ。」
「俺からすれば二人とも大バカだ。もう遅いかもしれないけどこんなんじゃ後悔しか .... 」
ピロリンピロリン♪
大氏の携帯電話が鳴る。大氏は画面を見て俺に構わず慌てた様子で携帯を耳に当てた。
「おう俺だ。 .... え?わかった!今すぐに連れていく。それまで絶対死なせるな!!」
死なせるな?さっきから何言ってるんだこいつは。
「こんなに時間がなかったのかよ ... 。おい彼方!とりあえず一緒に来い!車の中で説明するから。早く!」
俺は訳もわからず大氏に連れ去られた。
キキーっ!バタン!
病院に着いた。俺はがむしゃらに車を出てロビーの入口に急ぐ。
「彼方!三0五号室!!三階だ!」
三0五、三0五! 俺は大氏の言葉通りそこを目指し振り返りもしなかった。
ここに来るまでに全てを聞いた。 三咲の体は病に侵されていた。気づいたときには遅く、また治療はとても難しいこと。
集中治療を受ける為に中学の時に転校したこと。
治療ではなく延命の道を選び俺の住む街に帰ってきたこと。
それから、残された時間を俺と共に生きようとしたこと。
俺はバカだった。そんな素振り気づけばたくさんあった。あいつはずっとありのままだったのに。そして最後には嘘までついて。なんで ... 。真意を聞きたい。本当のことを話してくれていたら。もっと側にいてやれたのに。いつまでも側に居続けたのに。
大氏への電話は三咲の親友の篠崎 佳子 ( しのさき かこ ) からだった。危篤。状態が急変し心配停止状態という知らせだった。
やだ。こんな別れ方やだ!大好きなんだ。この世の全てを敵にまわしても平気なくらい。二人しかいなくたって何も怖くないくらい。なんで、どうして。
何も言わずに ... いなくなったりするなよ!
たどり着いた部屋の中はとても静かで、すすり泣く声だけがしていた。親族や知っている顔ぶれがベッドを囲んでいる。
俺は間に合わなかった。
今日は風が強い。しばらく放置していた前髪が顔にかかったりしてうっとうしい。私は公園に来ている。そう、三咲とよく一緒に来た公園。もう三月の終わりだと言うのに風が冷たい。でも嫌いではない。 夕日もとてもキレイだ。
今では少し、三咲の気持ちも理解できる。あのまま三咲の側に居続けたら私は後を追っていただろう。もし逆の立場なら私も嘘をついて同じ事をしたかもしれない。
あの時三咲がここから見ていた遠くのものはきっと、今の私とこの景色を想像していたに違いない。私はその時この景色を一人で見るなんて思いもしていなかった。 三咲は今の私がこの場所から立ち上がることを願っている。
「おーい!温かいの買ってきたぞ。ココアでいいよな?ほら。」
大氏が買ってきたココアを受けとる。とても温かい。
最近何かと大氏が気にしてくれてよく一緒にいる。今日も大氏の仕事終わりに連絡があり立ち寄ってくれた。それが昔みたいで嬉しかったりする。
「ありがとう。」
「いいっていいって!でもこんな所にいたら風邪ひいちまうぞ。」
「ここが好きなんだ。ちっとも寒くない。それと最近は大氏といれて嬉しいんだ。いつもありがとう。」
大氏は照れ隠しに頭をかく。
「んだよ水くせーな。親友なんだから当たり前だろ?いちいち口に出して言うなよ恥ずかしい。」
私は目線を街に向けたまま微笑む。
「それもありがとう。 ... 大氏。俺もう大丈夫だから。」
「大丈夫ってお前 ... 。俺は全然 ... 」
「大氏。俺は前に進むよ。三咲は俺を好きでいてくれた。信じてくれた。だから俺は自分の夢を諦めない。できることなら全てを叶えたい。俺にはそれをする理由と義務があるんだ。だからもう ... 今日だけにする ... 」
静かに泣いた。
「そっか ... 。そうだな。...忘れんなよ。お前は一人じゃない。俺がついてるからな。」
私は自分の意識とは別に涙腺があるみたいに溢れだす涙を止められなかった。がむしゃらに涙を拭き続ける。
夕日に見つめられ私は大氏の横で泣き続けた。無くなっていた感情が溢れだす。
そこから今に至るまでは本当に時間が過ぎるのは早かった。私は一年を後悔しないようにやりたいこと全てをやった。そして旅館に対する知識も養った。行動を起こすのはこの翌年。そして六月に私は兼ねてからの夢を叶えここにいる。
託された想いを成す為に。大切な人達の為に。
そう。私はここに居続けているのだ。
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