第2話

 う〜ん……なんだろう……やたらと身体が鉛みたいに重い……私は……

 あぁ……そうだわ……思い出した……私フェリシア・アルサンドロスは妹のリーシャを守って死んだんだったわ……最愛だった妹を最後は守って死ねたんだから私にしては上出来よね……



 思い返せば私は本当に良い姉ではなかったわね。私の一つ下に産まれた本当に天使かというような愛らしさを持った可愛い可愛い可愛い……(以下省略)リーシャ。金髪のフワフワ癖っ毛のある髪型も、若干幼い感じのする顔立ちも本物の天使かと思うぐらい可愛いらしかったわ。まぁ、リーシャは自分の幼い顔立ちをかなり気にしていたようだけど……

 そんな愛らしいリーシャは両親はもちろん使用人達もリーシャを可愛がっていたわ。もちろん。私もすこぶる可愛がりたくて仕方なかった……のだけど……私の顔立ちはリーシャとは正反対。目がやたらと吊り上がっていて、普通に真顔でいるだけなのに皆からは怒っていると誤解されるし、笑ったら私専属メイドのマーガレットに


「お嬢様の笑顔は極悪人が何か悪い事閃いた顔をしてますねぇ〜」


と、若干専属としてその言い方はどうなのかと思うような事を言われてしまった為、私は幼い頃から表情を変えないように努めてきた。まぁ、それでも始終不機嫌だと勘違いされてしまったのだけど……

 そんな私が妹に近づいたら妹を怯えさせてしまうかもしれない。そう思った私はなるべく妹とは距離を置くようにしたわ。あんな天使なリーシャに近づいたら自分を抑えられる自信なんてないわ。絶対に妹に極悪人と言われた笑みを向けてしまう……それだけは避けたかった。


 そして……リーシャが国からの魔力検査を受けたあの日、リーシャが光属性持ちだという事が判明した。両親や使用人一同みんな喜んだ。私もやっぱり妹は常々天使だとは思っていたけど、本当に天使だったのねと実感した。

 けど、そこで私はふとある事に思い至った。この娘はファンルシア王国で唯一の光属性魔法の使い手になった。そうなればこの娘に近づいてくる者は増える事だろう。

 現に私もリーシャが魔力検査を受けたこの日より一年前に私も魔力検査を受け、氷属性使いで魔力量も王国で一二を争う程だと分かり、様々な人が私に近づいてきた。まぁ、と言っても私の場合この顔立ちのせいで皆不機嫌にさせたと勘違いして去っていってしまったのだけど……

 けど、リーシャはこの天使のような可愛らしさだから誰もが彼女に近づいてくるだろう。私だってこんな顔に産まれてこなかったら可愛いがりたいし、撫で撫でしまくりたい。そして、その近づいてくる者全てがこの娘にとって善であるとは限らない。むしろ悪意の方が多いだろう。それが貴族社会という闇なのだから……

 ならば、誰かがリーシャに貴族社会を生きる為に厳しく教育するべきだろう。そして、それが出来るのは私しかいないと思った。そういう事は両親がやるべきなのだろうけど、両親はやはりリーシャに甘いところがあるし、使用人もそれは同様だ。それに、両親も使用人もリーシャに厳しく接してリーシャに嫌われたくないという気持ちもあるのだろう。それは、私もよく分かる。私だって本当は嫌われ役なんてやりたくない。だが、誰かがやらねばならないなら、1番リーシャの好感度が低い(自分で言ってて悲しい……)私がやるしかないだろう。そう思って私はリーシャに厳しく接する事にした。


 正直、リーシャに怯えられ辛そうな顔をされるのは何度も胸が痛んだのだけど、これもリーシャの為だと思って頑張って厳しくやってきた。リーシャは素直で可愛い可愛い可愛い……(以下省略)天使だったから、私の教育を素直に受けてくれて、立派などこに出しても恥ずかしくない淑女になった。正直、社交デビューのドレスを着たリーシャは天使から女神に生まれ変わったと今でも思っている。

 けど、残念ながらやっぱりリーシャはすごく心優しい性格の為、人の悪意を見抜く力だけはどうにも出来なかった。こればかりは本人の性格上難しいから仕方なかったかもしれないわね。

 ただ、私がリーシャに厳しく接している事もあってか、リーシャを疎ましく思ってる者達が私もリーシャを疎ましく感じていると勘違いして、私を利用する為に近づいてきた。私はこれを利用しない手はないと思い、近づいてくる輩を根こそぎ氷責めの刑に処したわ。


 こうして、リーシャが穏やかに過ごし、私は裏でリーシャを潰そうと考えてる者達を徹底的に氷漬けにする。これが私が姉としてリーシャを守れる唯一の方法……そう確信した。


 のだけど……まさか…………が……リーシャが1番の親友だと思っていたあの娘がまさか嫉妬の魔神に憑かれていたなんて……予想してなかった……

 けど、その嫉妬の魔神も浄化されたわ。私はちゃんとリーシャを姉として守る事が出来た。これからも悪意から彼女を守ってあげられないけれど、リーシャはもう強い娘だもの……もう……私がいなくても大丈夫よね……






「……姉様!?目を開けてください!お姉様!?」


「えっ!?」


ふいに懐かしくも愛おしい妹のリーシャの声がして私は目を覚ます。すると……


「ッ!?良かった!お姉様!目を覚ましたんですね!」


「えっ……リーシャ……?」


私はまだ目を開けて愛しの妹の姿を確認した時、まだ私は夢の中にいるんじゃないかと思ってしまった。


 何故なら、目の前にいるリーシャは私が死んだ時の16歳の姿ではなく、10歳の幼いあの時の姿だったのだから…………


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