氷の女帝と呼ばれた侯爵令嬢は妹を甘やかしたい
風間 シンヤ
第1話
ファンルシア王国唯一の光属性魔法の使い手リーシャ・アルサンドロス侯爵令嬢は、悪しき存在の嫉妬の魔神に取り憑かれた…………と対峙していた。
「お願い!…………!!正気に戻って!?嫉妬の魔神に負けないで!?」
「ダマレェ〜ーーーーー!!!リーシャァァァァ〜ーーーーー!!オマエサエ!オマエサエイナケレバァァァァ〜ーーーーー!!!」
「くっ……!!?」
嫉妬の魔神に取り憑かれた…………の怨嗟の雄叫びだけで、リーシャは軽く飛ばされてしまう。早く自分が嫉妬の魔神を浄化しなければ…………の命は危ういかもしれない。
「死ネェェェェェェ〜ーーーーー!!!リーシャァァァァ〜ーーーーー!!!!」
「ッ!!!?」
一瞬の判断の遅れが油断を招き、…………の攻撃がリーシャに迫った。これは避ける事が出来ないとリーシャは思わず目を瞑る。
「リーシャ!!!!」
誰かが自分を呼ぶを声がしてリーシャはゆっくり目を開ける。すると、目の前に新雪のような美しい長い銀髪の髪をなびかせた自分の姉、フェリシア・アルサンドロスが立っていた。
リーシャが周りを見回すと辺り一面厚い氷で出来た防壁が出来ていた。恐らくこの氷が…………の攻撃を防いだのだろう。「氷の女帝」の異名を持つ自分の姉の姿に呆然と見惚れていると
「何をボサっとしているの!?早く立ち上がりなさい!!」
「ッ!!!?」
突然の姉ね叱責にリーシャは思わず肩がビクッと跳ね上がる。フェリシアは基本あまり表情を変えず、美人ではあるが吊り目がちなので、氷属性の魔法の使い手というのもあってひと睨みで人を凍てつかせるなんて言われている。そんなフェリシアに叱責されたら誰だってビクつくだろう。例え同じ血が流れている姉妹であったとしても
「いつまでそうしているつもりなの!?あの娘を救えるのはあなただけなのよ!?」
「ッ!!!?」
フェリシアの言葉にリーシャはハッと我にかえる。嫉妬の魔神に取り憑かれた…………を救えるのはファンルシア王国でただ1人の光属性の使い手である自分だけ。リーシャはすぐに立ち上がり嫉妬の魔神の浄化にあたろうとするが…………
「オノレェェェェ〜ーーーーー!?ジャマヲスルナァァァァ〜ーーーーー!!!!?」
嫉妬の魔神に取り憑かれた…………の攻撃は激しく、いくらファンルシア王国で最強の氷属性の魔法の使い手で「氷の女帝」と呼ばれているフェリシアでも、ついには氷の壁を砕かれ…………の攻撃がフェリシアの脇腹に当たってしまう。
「ッ!?かはぁ……!?」
「お姉様!!?」
フェリシアは…………の攻撃を受けて口から血を吐き出す。リーシャはそれを見てすぐにフェリシアに治療魔法をかけようとするが、フェリシアがそれを手で制する。
「あなたは自分の役目に集中なさい!!」
「ですが!?お姉様が!?」
「私の事はいい!!だから!早く!嫉妬の魔神の浄化を!!」
フェリシアの言葉に、リーシャはしばし躊躇したもののすぐに浄化の魔法を唱えはじめる。それを見たフェリシアは再び氷の壁を何重にも張り始める。絶対にリーシャに攻撃を当てないようとするかのように、氷がリーシャの周りを囲う。そして……
「…………今こそ悪しき者を浄化する光を!!!」
リーシャの浄化魔法が発動。…………の周りに無数の光が放たれる。
「グオォォォォ〜ーーーーーーーーーー!!?」
その光が…………に取り憑いた嫉妬の魔神を浄化し、嫉妬の魔神は絶叫をあげ…………の中から完全に消え去った。これで、嫉妬の魔神による脅威はなくなった。が…………
「ふふふ……流石ね……リーシャ……」
「お姉様ッ!!?」
リーシャが完全に嫉妬の魔神を浄化したのを最後まで見届けたフェリシアは、力尽きたようにゆっくりと倒れはじめる。リーシャは慌ててフェリシアを受け止めフェリシアに治癒魔法をかける。が、フェリシアは首を横に振る。
「もう……いいのよ……間に合わないのは……分かっているから……」
「お姉様!?そんな事を仰らないでください!?必ず私が!?」
「本当に……いいの……最後の……最後に……姉らしく……最愛の妹を守れたのだから……」
「お姉様……!?」
この姉妹はあまり仲がいい姉妹に見られていなかった。というのも、フェリシアがリーシャにたいしてやたらと冷たく厳しくしていたので、周りからはフェリシアは妹のリーシャを嫌っていると思われていた。リーシャ自身もそうなんじゃないかと思ったりもした。
「親も……使用人達も……あなたに甘いから……私だけでも厳しくしないと……この娘は貴族社会の闇にやられる……そう……思って……ずっと……だから……せめて……私だけでも厳しくしようと……」
「わ……私の為に……!?」
「けど……私のその厳しさが……あなたを何度も傷つけたわよね……本当に……ごめん……なさい……」
「そんな!?謝らないでください!?お姉様!全ては私の為を想っての事だったのでしょう!!?謝るのは……むしろ……私の方……!?」
リーシャは涙を流してフェリシアに謝罪の言葉を述べる。そんなリーシャを見て、フェリシアはリーシャがこれまで一度も見た事がない穏やかな笑みを浮かべる。
「良かった……最期に……ちゃんと……この事を謝りたかったから……もう……私に……思い残す事……ないわ……」
「ダメ……!?ダメです……!?お姉様ッ!?お姉様ぁ!!?」
リーシャは必死になって治癒魔法をかける。頭の中ではもう手遅れだと分かっている。いくら自分が今目の前にいる姉と同じくファンルシア王国で1番の魔力量と光属性の使い手と呼ばれていても不可能だと……分かっていてもリーシャには懸命に治癒魔法をかけるしか術がなかった。
「リーシャ……私の……妹……あなたはあなたらしく……これからも……健やかに……生きて…………」
フェリシアはそれだけ言い残してついに事切れてしまう。
「いや……嫌……!?お姉様ぁぁぁぁ〜ーーーーーーーーーー!!!!!!?」
フェリシア・アルサンドロス侯爵令嬢。17歳。最愛の妹の為に、心を鬼にして妹に厳しく接して、妹を守る為にその命をかけた。これが、彼女の最期の物語…………
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