埋め合わせてあげる

 りんごは納得できない気持ちで薬局の中を歩いていた。前を歩く由香はメモを片手に、文房具などを買い物かごに放り込んでいる。手伝いの名目で後輩を連れ出しておいて、荷物持ちすらさせないのはいっそ無神経だ。

 由香は無造作にメモをりんごに渡すと、ふらりと棚を覗いていく。りんごはかごの中身とメモを見比べて訝しんだ。もう全部そろっている。

「あんた、結局花火見れたんか?金柄祭りの日」

「見ませんでした。別に興味ありませんでしたし」

「あたしもろくに見てへんねん。あのな、良かったら、今夜一緒にやらへんか?」

 由香が足を止めたので、りんごは黙ってそれにならった。視線の先に袋入りの手持ち花火が陳列されている。

「深夜から台風やろ?あたし近くの親戚の家に泊ることになってん。そんで、他のメンバーも泊ったらどうかって、提案された」

 りんごはやや警戒した。由香は暴露の場面に居合わせていないはずだが、りんごは彼女が自分に気を遣っているのを感じた。そういうお節介を焼いている人間の、独特の間を感じ取っていた。

「誰が来るんですか?」

「とりあえず、美咲と歩夢と満」

「夏帆はつまはじきですか?」

 千鶴を口説き落とせなかったから、次は自分ということだろうか?お節介焼かれたくらいで『仲良し』になるのはごめんだ。

「千鶴と森智里も来ないよ。とにかく、電車組に先に声掛けとるだけ」

 しかし、この約束はあっさり頓挫することになった。はじめに現れた予兆は音だった。表の道路を行き交う自動車の音にしては妙に大きな音が響き、少ししてりんごはそれが雨音であることに気付いた。

「うそ、もう降っとる?」

 由香が握りしめたビニール袋の中には、すでに花火が入ってしまっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る