ひとりごと りんごちゃんディナー

 家に帰ると、夕食はお子様ランチだった。オムライス、ウインナー、コーンスープ、カレイのバターソテー。全部私の子供の頃からの好物だ。

「今日、なんかお祝い?」

「何の話?」

 母はいつもの調子を崩さずに準備を続けた。だから私はそれ以上追求することはしないで、母を手伝って食器を並べた。母が理由を説明しないことに決めたのなら、そういうことなのだ。

 湯気を立てていた皿達も配膳が終わる頃にはちょうど良い温度になっていた。ウインナーをかじると、母親が「塩加減どう?」と聞いてきた。私はいつも通りの声を出して「美味しいよ、ありがとう」と答えた。

 小学生の頃の遠足で、夏帆がカニのウインナーをくれた。彼女は『りんごちゃん、ウインナー好きだから』と言った。実際ウインナーは大好物で、夏帆の行為は善意からくるもので、それなのにその時の私は、とんでもなく悲しい気持ちになった。

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