ひとりごと 主のない書斎

 どこか遠くで豆腐屋の吹く笛が聞こえた。私は、軽く咳き込みながら無人の書斎に一歩踏み出した。古い一軒家にあるこの書斎に、主はいない。正確には主は私にとって曽祖父だか高祖父だかにあたる人物で、とうの昔に雲の上だ。

 この書斎に忍び込むのは今日が初めてではない。私は目に止まった本を手にとった。建築物の写真集のようなものらしい。表紙には洋館の写真が大きくあしらわれている。この本の持ち主はこういう建物を眺めるのが好きなのだろうか?それとも旅行好き?仕事に必要だからこの本を買ったのかもしれないし、たまたま人にもらっただけなのかもしれない。

 一年前、私は書斎の主にプレゼントを送った。彼の好きそうな、時代小説だ。

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