亀裂
嘉阮での事件を切っ掛けに、京の
緊急に開かれた会議の席で、精神的に
「上様をお守りすべく付き従うた青桐殿がかえって火種となり、上様にお怪我させるとは如何なることか!」
「誠に面目次第もない、しかし、青桐とて此度の件は予期せぬところ。宵殿をお守りせねばと避けなんだものを、いわば宵殿がご自分の判断にて割って入ったとお聞きしたが」
「何!? 上様が勝手に庇ったと申すか!」
「……左様」
「何たる無礼! よもや其方ら白爪殿は、
「誰がそのような恐れ多きことを!」
もはや会議とは名ばかり、冷静さを欠いた口論でしかない。何とか橋本を宥めようと落ち着いた物腰で居た酒熾だが、暁光の人柄や白爪の矜恃を疑う言葉には腰を上げた。
「橋本殿、幾ら何でもそのような言動は慎みなされ。其方らの怒りは尤も、しかし幻驢芭殿と我が主白爪家は、永く深き
「……むぅ、左様であった。……先の発言は撤回しよう。深くお詫び申し上げる」
「……」
橋本が頭を下げたので、酒熾もまた一礼した。漸く本題に入れると息をついた酒熾に、橋本は先程より静かな口調で告げた。
「嘉阮での件、青桐殿に非在らざるは我らとて承知しておる。しかし問題は、白爪殿の末端の者が買った私怨で、上様が利き手にお怪我を負われたということじゃ。抑そも、上様は借りた家臣を傷物にして返せば、白爪殿との
「……左様であられたか。私も先の発言を改めよう。青桐をお助け頂き、感謝致します」
両者和解したところで、どちらに非があるわけでもないこの件に、如何に片をつけたものか、という課題に唸る。両者の懸念は、白爪、幻驢芭両家の家臣達、そして民衆の動揺を如何に穏便に鎮めたものか、又、件の童の両親を襲った白爪の末端とは一体何者かであった。
「真にそのような者がおって、まだ生きておるのなら、当人を問い質すのがよろしかろうな」
「忍びの者に探らせよう。一度持ち帰り、上様にお話せねばなるまい」
「うむ。今日においては、真に有意義な席であった。両家が今一度手を携えて、問題解決に向き合う機会となった」
半ば再びの衝突を避けるように、会議は早々にお開きとなった。ともあれ、重臣らの間だけでも蟠りが解けたことは、進展である。
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