第35話 借金返済計画?☆
※
ゼンは、旅団の4人と別れ、ゴウセル商会への道を行く。
2年半、という微妙な年月の流れは、何も変わった所はなかったり、店そのものが別の店に変わっていたりと、変わるものもあれば変わらない物もある、と何処にでもある不変の法則をゼンに感じさせるのだった。
そしてーーー閑散として、以前の賑やかさが嘘の様なゴウセル商会の店舗、そこで少し疲れた顔をして店番をしていたのは、ゼンのよく知る顔の一人だった。
「……ライナーさん、こんにちは」
少し迷ってからかけた声は、そんなありふれた言葉だった。
「……ゼン!街中に、『流水』の弟子がフェルズに来た、との噂が流れていましたが、やはり君だったんですね。……ゼン?」
ゼンが、最初声をかけた時と違い、不審げな顔をして自分を見ているので、ライナーは、自分は何か彼の気にさわる事でもしただろうか、と困惑していると、
「ライナーさん、エルフだったんですね。しかも、スカウト……?」
ライナーはギョっとした顔をして、少し距離を取ったゼンを見る。
「あー……、分かりました。今、商会関係の話で、乗っ取りがどうとか聞いてたので、ついそれに関連付けて考えてしまったんですが、ライナーさん、そんな話よりずっと前からいたんだから、そっか、ギルマス関連なんですね?」
しばし思案の後、ゼンは大体の予想を整理し、力を抜く。
ライナーは、とてつもなく大きな溜息をつき、その場の椅子に崩れ落ちた。
「……察しがいいのは凄く助かります。『流水』の剣士に、隠し事なんて出来ませんね」
疲れた笑いを見せる、ライナーのその言葉はほぼ肯定だ。
「俺は、あなたがゴウセルを裏切っていた、とかでないなら関知しませんよ。で、ゴウセルは、上の執務室ですか?」
「会長は、ここの所の心労がたたって、倒れてしまいそうだったので、今日は屋敷に戻って休んでもらっています」
「……そうですか。じゃあ、もうお店閉めて、一緒に帰りませんか?色々と、例の件に対応してもらうの、ライナーさんになりそうですし、他にも、ゴウセルと一緒に、素材の売買とかで聞いてもらう事になると思うので」
ライナーは、もう誰も来そうもない店の様子を見て頷く。
やっていても妙な嫌がらせや妨害行為等もあって、客が寄り付かなくなっていたのだ。
「分かりました。一通り鍵をかけて来るので、しばしお待ちを……」
それから二人は屋敷までの道すがら、適当に野菜を買い込んだりしていた。
「今日は俺が夕飯作りますので、楽しみにしてて下さい」
「君は、料理が出来るように?」
「料理、のみだけじゃなく、もう何でもやってますね。師匠が、まるで何もしない人だったので……。どうせ自分で食べる物を自分で作るなら、美味い方がいいに決まってるじゃないですか。
でも、途中からは、同行者が何人か増えて、料理とか他の作業も分担出来るようになったんですけど、ね」
「ああ、そう言えば、『流水』には、複数の従者がいるとか、話を聞きましたけど、ゼンの他にも弟子を取ったんですか?」
「いえ、弟子は、俺一人ですね。同行者は、魔術師の人が一人と、後は……俺の、従者……になるのかな?」
「君の?」
「そこら辺も、家で話しますよ。
ギルマスも夜、こちらに来ると言ってましたから、色々一緒に聞いてもらった方が、効率がいいし……。あ、でも、1週間は秘密とか言われてたかな?うっかり、忘れてた……」
ゼンが明らかに失敗した、ヤバイと顔をしかめている。
「秘密?ラザンの指示ですか?」
「いえ、途中から同行して来た魔術師の『隠者パラケス』とか言ってました。オレはパラケス爺さんって呼んでますけど」
「東の『隠者パラケス』!あの、西の『賢者ホーエンハイム』と並び称される、魔術の最高峰の一人。
人間嫌いで、余り人に騒がれる事を嫌う彼は、放浪の旅に出て、魔術の実験や研究を人知れず行い、めったに人里には来ない、と聞きましたが……」
「ああ、やっぱり有名人なんですね。俺は当然だけど、師匠も知らなくて、なんだこの爺さんは、とか最初凄く邪険にしてたんですよね」
と、軽くカラカラ笑って済ます。知らない、と言う事は恐ろしい……。
「1週間経ったら見れる様になると、時限式のメモリーキューブを預かっているので、これをギルマスに渡して、中の内容が見れる様になったら改めて話しますね」
「成程。ところで、西風旅団の皆さんはお呼びしなくていいんですか?」
「あちらは、迷宮(ダンジョン)探索の話の方が、もう少し一段落してから、かな、と。今日ちょっと話はしたんで、余り一辺に色々話すと、混乱させてしまいそうで」
「……そうですか。なんだか君は、落ち着いた雰囲気で、大人びてきましたね」
「えぇ!?そんな事言われたの、初めてですよ。背も期待した様には伸びてないんですから」
「内面的に、ですよ。エルフには、余り外側の変化は気にならないんです。やっぱり、修行やら何やらで苦労が多かったみたいですね」
「それは、否定出来ないですね。師匠が、色々無理を言い、無茶をさせる人だったから」
上が無理無茶を言う人、という共通項が出来たせいか、これまでになく意気投合するゼンとライナーだった……。
※
ゴウセルは、ひどい疲労のせいで、いつもよりずっと深い眠りについていた。
夢すら見ず、深い回復の為の眠りは、空腹を刺激するいい匂いによって途切れた。
「……腹、へったな。ライナーが何か作ってるのか?もしかしたらレフライアが……いや、ないな」
残念ながらレフライアはそういうタイプではない。
病気だ怪我、という時は、山盛り回復薬(ポーション)を買い込んで見舞いに来る。彼女ならそうする。
それが悪いとか良いとかではなく、それがレフライアなのだ。
(何か少し賑やかだな。客なら、ライナーが起こしに来てもいい気がするが……)
ゴウセルはボーっとしながら、もう暗くなりかけている部屋のベッドの上で上体を起こす。
(灯かりをつけるか……)
まるでタイミングを見計らった様に、部屋に魔道灯の光がともり、部屋を明るくする。
「ああ、やっぱり起きてた。ゴウセル、もう夕食が出来てるから、早く来なよ」
灯かりをつけて、部屋を覗いたゼンが、上体を起こしたゴウセルを見てそう言うと、そのまますぐに戻って行った。
「うん、分かった、ゼン……え、ゼン?ゼンなのか?」
慌てて起きると、とりあえず急いで服を着替えたゴウセルが、屋敷の食卓へ行くと、そこにはもうレフライアとライナーがいて、ゼンが運ぶ料理に目を輝かせていた。
「おはよう、ゴウセル。呆けてないで、早く席につきなさい」
レフライアが、これ以上ない、と言う位にに上機嫌でゴウセルに呼びかける。この所、婚約解消のせいで、いつも仏頂面か、悲しそうな顔しか見せてくれなかったのに……。
「会長、これは、凄いですよ、言葉にならない位に……」
何が?と聞きたかったが、食卓の上を見てすぐ分かった。
どこの料理長(シェフ)が作ったんだ、と聞きたくなる位に色々凝った料理が所せましと並んでいる。
「はい、このポトフでおしまい。後、サラダも出すから待ってて」
鍋で煮られたポトフは、適当量で深皿の器に盛られ、それぞれの席に配られる。
最後に大きなサラダが飾り付けられた皿が食卓の中央に置かれる。
パンは中央に籠に入っている物が置かれ、これは流石に市販品の様だ。
ともかくも、レフライアが手招きする隣りの席に座る。
ゴウセルの家の食卓は、時に大勢の客を招く時もあるので大きな丸いテーブルが設置してある。十人ぐらいは楽勝だろう。
その並びに、ゼン、ゴウセル、レフライア、ライナーの順に4人は席についた。
「じゃあ、食事を……」
ゼンが食べよう、と言い出しかけた所で、ゴウセルは待ったをかけた。
「いや、待て、その前に、これだけは先に言わせてくれ」
「なに?」
「おかえり、ゼン。よく無事で帰って来てくれた。俺は、それだけでも嬉しいよ」
「……ありがとう、ただいま、その、ゴウセル……義父さん……」
その場が思いっきり暖かな雰囲気でなごむのであった。
※
「もう久しぶりにお腹いっぱいだ……」
このところ食欲がなく、食の細かったゴウセルが今日は食べ過ぎる位に食べてしまったのは、しばらく会っていなかったゼンの手料理だったから、だけでなく、その料理がお世辞抜きで本当に素晴らしく美味かったからだった。
前菜で出されたコーンスープは濃厚で、何杯でもおかわりしたくなる程美味く、肉汁に胡椒を絡めて作られたソースのかけられた、一口大で食べやすい大きさに切られたサイコロステーキは、サンド・バジリスクという、砂漠のみ生息する石化能力を持つのとは別の種の、トカゲ型の魔獣の肉だ。
砂漠の魔物は、過酷な砂漠での生息を可能とする為に、体中に栄養分をため込んでいて、それで余計に美味しいのだと言う。これもまた絶妙な味!
他にも、香辛料をふんだんに使われた、複雑で深みのある味の、ソーセージや旬の野菜を長い時間煮込んだポトフ、ゼンがオリジナルで作ったという酸味の効いたドレッシングのかけられたサラダ、他、デザートに、綺麗に切り揃えて出された果実も、甘味が濃く、美味だった。
「うちの子は、料理修行に出ていたのか……」
と、ゴウセルが思わずこぼしてしまう位だ。
「ある街で、師匠が近くの迷宮(ダンジョン)にこもった時、街でも有名な料理人がいてね、どうせだから、短期間そこに無理に頼み込んで弟子入りしたんだ。
師匠の分と自分の分。作って食べるのだから、美味しい物作れる様になりたくてさ。
……街出る時、跡を継いでくれ、とか言われて、なんでか師匠と決闘騒ぎにまでなったのには驚いたよ……」
ゴウセルやレフライアにも、ラザンが何もしない人だったので、食事を始め、全てのお世話をゼンがする様になった事はもう説明済みだった。
「何と言うか、いかにもあの男らしい、ぐうたら亭主ぶりね……」
レフライアはラザンにさんざん悩まされたクチなので彼にはやたら辛辣だった。
「……じゃあ、お腹もくちたみたいだし、改めて。ゴウセル、あの話って、まだ有効だと考えていいのかな?」
ゼンが、皆の様子が落ち着いた事を見計らって切り出した。
「……あの話って、なんだ?」
「俺の、養子の話」
「!それって、お前……」
ゴウセルが顔を上げ、ゼンを見ると、ゼンは穏やかに微笑んでいる。
「うん。つつしんで、お受けしたい、と思います」
ゼンは少しはにかみながら頷く。
「なんだって急にまた?」
「全然急じゃないよ、この2年半、考える時間はいくらでもあったからね」
昔を思うゼンの表情は、微妙に複雑だ。
「あの頃も、嫌だった訳じゃないんだ。ただ、色々まだ子供でって、今も子供だけどさ。
戸惑っていて、どうしていいか分からなかっただけなんだ。でも今はちゃんと、様々な事に、向き合えてる、と思うんだ。だから……」
ゼンはゴウセルの目を、まっすぐ見て言った。
「ゴウセルの子供にならせて下さい」
「ああ、ああ、勿論だ!勿論だとも……」
ゴウセルは我知らず、男泣きに泣く。レフライアが良かったわね、と彼の肩を後ろから抱き、慰めている。
「で、その、借金がどうのって話だけど、とりあえず、色々高価な素材はあるけど……」
ゼンはそれらを全て惜しみなく提供するつもりだ。
「しかし、それはお前とラザンが死闘の末に得た大切な財産だろ?」
いくら義息子になったとは言え、それは甘えが過ぎるのでは、とゴウセルは考える。
「ゴウセルは最初に言ってたじゃないか。『優秀な冒険者にコネと作って、素材を売ってもらう、その先行投資だ』って。それが今帰って来てるだけだよ。
それに、『父親の危機に、お金を惜しむ子はいない』。ゴウセル風に言うならね」
「……分かった、お前が提供してくれる素材諸々、決して無駄にはしない!」
そうと決まれば、それらをどう売買して、有効利用するか、なのだが……。
「あの商会が、その売買の妨害をする事は予想出来ますね。
こちらも売り手に心当たりはありますが、王都の方で背負わされた借金の額が膨大で、それを用意出来るだけの大商人に、奴等の息がかかっている事は間違いないかと」
ライナーも、その返済計画等は前もって色々考えていた様だ。
「ですが、王都で定期的に行われているオークション、あれで、特に高値がつきそうな物を出せば、さすがにあれだけ公的なイベントの妨害するのは、例え貴族や王族であったとしても不可能でしょう」
オークションは時に、とんでもない金額が動く、まさに大金となる素材売買の絶好の機会だ。
「なら、特にこれが目玉かな?」
ゼンがポーチから出したのは、長さだけで5メートル強ははありそうな、大きく長く、見事な柄無しの大剣の様に見える、膨大な力を感じさせる角の素材だった。
「これは、獣王国で、俺が卒業試験って言われて倒した、”剣狼(ソードウルフ)”のボスの角です」
「剣狼(ソードウルフ)って、Aランクオーバーの魔獣、”あの”剣狼(ソードウルフ)?」
上位迷宮の階層ボス(上位迷宮から十階ごとに出る様になるボス)の、一番強い、かなり厄介な部類に入るボスだ。
最終階層にいる最後のボスの手前に出る、つまり上位迷宮で2番目に強いボス魔獣。
レフライア自身、迷宮でかなり手こずった覚えがある。
「群れのボスだったんですよ。配下の4匹は、師匠が引き受けてくれたんだけど、ボスは俺一人で……凄い強くて、正直言って死にかけました……」
「群れ単位なら、Sランクオーバーの、伝説の魔獣です。国が滅んでもおかしくない程の戦力じゃないですか」
ライナーが青ざめた顔で言う。それは最早動く特大級の災害だ。
「実際、俺と師匠が戦う前に、村や街をいくつか潰された、と聞いてますよ」
「確かこれよね。獣王国から、熱烈な感謝状が来ていたの……」
ギルドマスター宛てに感謝状はたくさん来ていたが、その中でも獣王国からの物は、向こうの苦境とそれを救ってくれた『流水』への感謝の言葉に溢れ、手紙と言うよりも、すでに一冊の本の様な分量になっていた。
「そのまま獣王のいる王都まで行ってたら、国が滅んでた?獣王自身が戦ったかもしれないが、勝てる保証はなかっただろうなぁ……」
ゴウセルが溜息とともに言う。
国を背負う獣王自身が、A級超えの戦士ではあるが、その近衛はB級程度だ。
王都に攻められでもしたら、勝てるか?勝ったとしても、民や王都にどれ程の被害が出ていた事か、想像するだに恐ろしい。
「『流水』がなした戦いの中でも、災害級の被害の根源を討伐せしめた功績は大きいですから、一番有名で、華々しい戦果そのものです。
その素材なら、どんな高値がつくか、想像もつかないですね……」
ライナーが感嘆のため息をつく。真実、どれだけ法外な値がつくか分からないのだ。
「ちょっと待って。あの事件って、確か半年位前じゃなかった?」
「そうですね。それ位です」
「それが卒業試験なのに、何でその後すぐに、ゼン君は、フェルズに戻って来なかったの?」
聞かれたゼンは何故かひどく微妙な表情をしている。
「あの、ですね。出発前に師匠が、気づいてしまった、と言うか、余計な事言う爺さんに気づかされた事があるんです」
「何を?」
「俺がいなくなったら、師匠にご飯作る人がいなくなる事。別に、街とかで買い込んだりすればいいと思うんですが、もう師匠、変に舌が肥えてしまっていて……」
「「「………」」」
「『俺の美味いメシは、これからどうするんだ?』って足にとりすがって来て、仕方なく、その専属料理人、みたいな従者を作って一から料理とかを教え込むのに半年……」
誰もが、ゼンの修行機関の2年半の、『半』という中途半端な年月は何なのか、と疑問に思っていた答えがこれだった……。
「なんであいつは、私の予想通りの行動を、寸分たがわず実行してるのよ!」
レフライアの怒りは至極妥当だった。どっとはらい。
(中略)
「これを王都でのオークションにかけるか。俺が自ら行くしかないだろうな」
商人として、超一流の素材の売買に張り切るゴウセルだが、ライナーから待ったがかかる。
「いえ、会長はこちらに残って下さい。私が行きますよ。王都は今、奴等の手が一番伸びているところです。そんなところに行ったら、暗殺でもされかねないです」
「むう……。しかし、だな……」
「それに、せっかくゼンが帰って来たんですよ。しばらく親子水入らずでの生活を楽しんで下さい」
それもまた、魅力的な提案だ。
「じゃあ、ライナーさんにはこれを預けます」
「このポーチは、会長のあげた物ではないですね?」
「パラケス爺さんから貰った物です。機能を強化してもらった俺のと、同じ機能の物です。
ちょっと桁の違う恐ろしい性能になってますよ。商会の大量運搬とかに使うといいかもですね。
後、高く売れそうな素材も適当にいれてあります。
旅団に使いそうな物は抜かしてあるので、全部売ってもいいですよ」
ゼンはもう素材の仕分けを済ませていた様だ。
「では、早速、早馬を手配しましょう。王都までは遠いですからね」
ライナーがここから王都までの日数や、馬の事を考える。自分一人なら馬車は不要だ。
「……そうだ、いい事思いついた。飛竜で送ってもらいましょう」
ゼンがいかにもいい事思いついた、な顔をする。
「もしかして、ゼンを送って来た飛竜ですか?」
「はい、1日観光してからサリスタに戻ると言っていたので、悪いですが、王都まで依頼してしまいましょう。明日、午前中ケインさんならまだいるでしょうし」
「飛竜はギルドの屋上で預かっているし、大丈夫よ。泊っている宿も把握してるわ」
レフライアの保証付きだ。
「決まりですね」
※
(レフライアとの密談)
「えー、ゴウセルに、目が治った事、言っちゃ、駄目なの?」
「いえ、目の事自体はいいんですが、言えないのは、治したリャンカの事なんです」
「そもそもあの子はなんなの?」
「それは、これに情報が入っている、と爺さんが言ってました。その時一緒に話しますよ」
ゼンはその紫のメモリー・キューブをレフライアに渡した。
「東の『隠者パラケス』ね。随分面白おかしい一行になっていたのね。ラザンとの旅は」
「別に面白おかしくは……多分、ないですよ」
レフライアはふっと溜息をつく。
「1週間経ったら、このメモリー・キューブの情報が開示され、ゼン君も、全ての秘密を赤裸々に語ってくれるのね?」
「……いえ、『全て』じゃないですよ。レフライアさんは、いらん事聞きそうな、危ない予感しますから」
「お義母さん、と呼びなさい」
「これ、結構心理的抵抗あるんですよ……。レフライア義母さん……」
「はい、よろしい。1週間後、楽しみに待ってるわ」
満面の笑みを浮かべるレフライア義母さんです。
※
(ライナーとの密談)
ライナーとゼンが物陰でコッソリっと話す。
「早めに王都に行けますから、あの商会の詐欺の証拠探しなどもしてみます。仲間のスカウトも、依頼して商会の内偵を進めているのですが、中々尻尾を掴ませなくて……」
「詐欺犯罪の証拠がつかめたら、元々の借金もなくなりますね」
「それどころか、向こうのローゼン王国内にある商会は取り潰し国外退去、慰謝料迷惑料も取れるでしょうね。直接犯罪に関わった者は捕まり、国外にある大元とは完全取引停止になるでしょうし」
「そっか。詐欺だから、その証拠さえ掴めたら、向こうは犯罪者で捕まっておしまいだ」
「ええ。それでも、万が一もありますから、保険にオークションで資金調達しておく事は、無駄にはならないでしょう」
「ふむ……」
「ゼンには、フェルズの方をお願いします。店はもう閉めていて構わないでしょうが、どうも嫌がらせや妨害の為に雇われた連中がいる様なんです」
「へぇ」
「中でも会長がショックを受けたのは、スラム出の雇った子供達が、全員一斉に配達する売り物を持ち逃げして……。
彼等にそんな知恵ある筈がないので、その雇われた連中が、子供達にも何か働きかけたんだと思われるんです……」
ライナーは、スラム関連の話をゼンにしたくなかったが、自分がいなくなった時、何か仕掛けて来る可能性を捨てきれないのだ。
「……分かりました。そちらは、俺が責任を持って”全部キチンとかたずけます”」
ゼンは何か不穏な顔をして笑っていた……。
※
ゼンは、泊るにあたって自分にあてがわれた部屋にきた。
ベッドに座り、部屋の様子をうかがう。
一通りの家具が揃っていて、掃除までちゃんとしてある。
まさかゴウセルは、自分が旅立つ前からこの部屋を用意して、その維持までずっと……?
目頭が熱くなるのを我慢して、ゼンは命じた。
<ガエイ、出てくれ>
ゼンの目の前の空間から、にじみ出るように人影が現れる。
ゼンより少し長身の、黒髪の少年がいた。片膝をつき、ゼンに向かってこうべを垂れる。
「……御身の御前に、主(あるじ)殿」
「みんな、どうしてもあるじ、だの、敬称だのやめてくれないんだよなぁ……」
ゼンは従魔達への数少ない不満をこぼす。
「……どうかご命令を」
「俺が話していた、ライナーという名のスカウト、分かるな?あの人の影に潜み、その調査に協力しろ。今は一応、気づかれない様にな。証拠固め、というのかな」
「……そちらが上手くいかない場合は、どの様に?」
「ん~~。まあ、結果は関係ない。その、商会の上の奴らは、死なない程度に、痛めつけろ。遠慮しなくていい」
「……リャンカも同行するのですか?」
リャンカは治癒担当だ。致命の傷すら瞬時に治せるスキルがある。
「リャンカは残ってもらう。そいつらにだって、雇ってる治癒術士ぐらいいるだろう。……もしいなかったら、多少の加減もやむを得ない、かな」
ゴウセルを害しようとした存在だ。正直、死のうとどうなろうと構わないが。
「終わったら、俺の中に戻って……。いや、王都観光とかして来てもいいよ?」
「いえ、我が身は主(あるじ)殿の影なれば……」
「これはやっぱり、元の魔獣、幻獣の時の性格なのかな。ガエイは真面目一辺倒で、控えめ。リャンカは結構前に出るタイプだし。別に、俺と似た性格になる訳じゃない、のか」
「ご命令なら、変える様、善処しますが?……」
「いや、単なる感想だよ。持って生まれた性格を変えろ、なんて身勝手な事言う様な暴君じゃないつもりだ。
それじゃあ、王都の方は任せた。合法、非合法、両面でうまく行くのが理想的だね。
終ったら念話で知らせてくれれば、すぐに回収する。」
「御意……」
そして、黒髪の少年の姿は、彼の足元の自分の影へと沈み、消える。元の幻獣・影狼(シャドウウルフ)の固有能力、影移動だ。
元々実体のない幻獣・影狼(シャドウウルフ)は、物の影に潜み、影から影へ空間転移出来るスキルを持つ、実体をもたない幻獣だ。それも、従魔になる前の話だが。
「なんか、世直しの組織ごっこしてるみたいで、嫌なんだけどなぁ……」
余り自分の都合で従魔達に命令して好き勝手に動かしたくないのだが、彼等の喜びは、主(あるじ)、つまりは自分に仕え、役立つのが生きがいなのだ。
(今回は我慢して、みんなに合わせるかぁ……)
と、7人の従魔をその身に抱えるゼンは、そっと思うのであった。
*******
オマケ
ゴ「俺は、俺は幸せ者だぁ~~!」
レ「うんうん、良かったわね」(これで再婚約、優良義息子付きよ!)
ラ「ええ、そうですね、良かったですね……」(いいはいいのだが、複雑微妙)
ゼ「私を、夜の暗闇で包め~」(こういうノリのが好きみたいなのが困るなぁ……)
ガ「はは~~」
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