Epilogue 幸せは結末にふさわしく、未来はこれから、そうこれから

 あれから、ぼくたちは幸せな結末へと向かっていた。

 ぼく自身は小さいながらも新しい仕事をするベンチャー企業への就職ができた。

 これからどうするんだ、どうなるんだ、どうできる、といった不安より、やっと就活が終わったという開放感のほうが大きかった。

 プログラミング言語を学んできた、ぼくのような人材はもう多くいてぼくだけができる仕事というものをぼくはまだできない。

 でも、不安はなかった。

 それからちょっとして、未来ちゃんが舞台俳優として活躍を始めた。

 ぼくも彼女と一緒に観に行った。

 未来ちゃんの演技は止めと動きのメリハリがよく、見ていて安心できるものだった。

「まだまだ、基本から抜け出ていない」

 と彼女にこぼしていたらしく、不安もあるようだったけど、ギラギラしていた、と彼女は嬉しそうにいっていた。

「未来ちゃんに対するジェラシーって抜けたの?」

 彼女はそれにコクリとうなずいて、それ以上は答えなかった。

 自信がついたように見える。

 同棲するようになって、夜の生活もあるわけだけど、ぼくが寝ついてからカタカタと打鍵する音も聞こえる。

 そんなとき、ぼくはホットミルクを入れてそっと彼女に差し入れる。

「すすんでいる?」

 うん、とうなずく。相づちには苛立ちが見えたけど、かつての自信のなさからくる無気力感は見えなかった。

 それから、もう少しして、ぼくたちに、子供ができた。

 ぼくはその頃、起業していた。

 プログラミングスクールと職業コンサルタントを行っていた。

 かつてのぼくのような死んだ目を見た学生や、未経験からプログラミングで生計を立てようと思っている就活生を相手にしながら、全てを拾い上げることができない無力さも味わった。

 それでもぼくは前へ進んでいる。

 彼女は脚本家や演出の道へと進んだ。

 ぼくと彼女は喧嘩することもある。

 それでも、生まれてきた子供、娘の名前は一致していた。

「明」

 ぼくと彼女のキューピッド。

 ぼくが過去に出会ったあり得ざる名前。

 ぼくたちはいずれこの子に出会いの話をするのだろう。

 この子がぼくのように死を望むこともあるかもしれない。

 あるいは彼女のように死に魅入られた誰かを好きになるかもしれない。

 そんなときは未来に目を向けよう。

 彼女がぼくに話しかけたのは逃避だった。

 逃げたっていいんだ。

 僕たちは逃げていく。

 現実の中で、望んだ未来に逃げていく。

 その姿は進んでいいるように思える日が来たら、きっといい。

「灯さん」

「なに、てつくん?」

「好きです」

「私は、愛しているよ」

 ぼくたちは幸せな結末を目指していく。

 これからも。

 結婚式のアルバムを閉じ、ぼくは愛しい家族に毛布をかけた。

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パパとママのキューピッド ゴトー宗純 @goto01058819

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