幕間02 消える灯、灯る心
雨が降る。
ざぁざぁ、と。
終電にのってわたしたちはテツくんの部屋へと向かう。
「また、倒れたりしないだろうな」
「だ、大丈夫、多分」
わたしは自信なくいう。
わたしは病弱だ。それが嫌だった。
灯が差し込んだのは、とある演劇を見てからだった。
綺麗だった。
灯に魅せられた。
体の弱い主人公だったと思う。舞台という区切られた小さなもので、弱さを表現する大きな動きが、わたしには新鮮だった。
納得できた。病におかされながらも、実世界と心情世界を分けて舞台で演出するやり方が面白かった。
それが、わたしの灯だ。
父さんや母さんは反対した。それでもわたしの熱意にほだされて、わたしは足を踏み入れた。
入らなければよかった、という後悔はあった。
熱意や情熱があれば、イコール才能というのは物語の中だけだ。
挫折はある。
比較をする。
絶望に伏す。
才能、というものを見る。
わたしよりも年下で、わたしを好きで、それでいて残酷的なまでにわたしはその子よりも劣っている。
まざまざと見たし、見せつけられた。
嫌いにはなれない。年上の、幾らも差はないけど、見栄だし、負けを、自身の無価値を認めてしまうことが怖かったからかもしれない。
時間が経つにつれて、コンプレックスは解消できなかったけど、二つの道が見えてきた。
わたしの個性を活かすか、昔抱いた理想を積み上げていくか。
まだ、迷っている。
テツくんはいってくれた。
「どっちもやってもいいんじゃないか」
一つに決める必要はない、とテツくんは問題を出した。
「借りたものを返すとする、どのように返す?」
わたしはありがとうっていって返します、と答えた。
「それでもいい、今の君の見方では、それ一つだ。条件を加えてみよう、また借りれるという心情に思われるように借りたものを返す、どうしたらその感情を得られる?」
わたしは、少し考えて、言葉にする。
「貸してくれるように返す、貸してくれた人が欲しい物を加えて返す」
良い答えだ、といわれてわたしは少し嬉しかった。
「じゃあ逆に、二度と貸してくれないように借りたものを返す、どう返す?」
問いにわたしは困惑した。
真逆の価値観だ、テツくんがなにをいいたいかわからなかった。
でも、簡単だ、反感を抱くように物を返すとわたしは答える。
「そうだな、ほら、きみが答えたありがとうといって物を返すの他にも二つ意見が出た」
選択肢が三つになった、とテツくんはいう。
「現実は時間が有限で、行動にも限りがある、その上で二つやるというのはリスクだ」
でも、とテツくんは続ける。
「一つしかしない、というのは依存だ」
ご破産したときに、テツくんは人差し指を折り曲げて全て開く。
「ゼロになったとき、またゼロからイチにシフトするのは有限の時間では大きなロスだ」
一つに決める必要はまったくない、頭をなでてくれた。
「やってみたいことがあるきみも、やりたくないことがあるきみも、好きなことがあるきみも、嫌いなことをやるきみも、全部きみだ。それを一つにしようとするから疲れる」
挑戦したらいい、とテツくんはいってくれた。
「覚えてる、かな」
覚えてないだろう、テツくんに肩を貸しながら部屋に帰ってきた。
テツくんはすぐ寝入った。
わたしはお酒を飲まなかったけど、雰囲気で少し酔っていた。
ユキジさんはテツくんを叱り飛ばしてた。
それでも、テツくんはその中で自分が得られるものを探して、価値を確かめていた。
あの頃のテツくんのように、進むために、戻ったとしても、道を探している。
「わたしは」
必要なのかな、と思ってしまった。
「役に、たっているのかな」
テツくんはソファで眠っていた。その寝顔を見ながら、わたしは無力感をつのらせていた。
携帯がなる。
未来からの指令。
わたしはテツくんを、
「テツくん」
ねぇ、覚えてるかな。
きみにわたしは救われた、きみをわたしは救いたい、でも、
「きみは勝手に救われてる」
ねぇ、テツくん。
「わたしはあなたの必要になれるかな」
雨がやんでいた。
雨がふらないことと晴れることは同じじゃない。
許可を得ない口づけは、不実の味がした。
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