幕間01 雨は去り、夜は明け、朝が来る

 ――雨が聞こえる。

 ザーザーと降る雨はかえって静けさを思わせた。

 目を開く。

 開く前から暗いということは見えていた。でも、その事に気づいたのはしばらくしてからだった。

 目に入ったのは見知らぬ天井。これから見慣れていく天井だと、わたしは思い出した。

 かけられていた毛布と、寝かされたベッド。額に湿った感触。

 手を伸ばして濡らしたタオルだということに気がつく。

「テツ、くん」

 看病をしてくれたのだろう。

 これじゃ、あべこべだ、と思う。

 なんのためにわたしは『未来』から来たんだ、と思う。

 わたしにはほしい未来がある。

 だから、テツくんに、パパに近づいた。

 少しボォっとしていたけど、自分の格好がテツくんのジャージを着ていることに気づいた。

 男物だし、身長や体格の差が大きく出ていてぶかぶかだった。

 でも――あったかい。

 不意に鼻腔がくすぐられる。

「テツくんの――匂い」

「――んだよ」

 言葉に心臓が止まるかと思った。声の主を探してテツくんが椅子に座って眠っていた。

 寝言、とわたしはほっと安堵する。

 テツくんの顔を見る。

「あ、無精髭」

 しかめっ面をして眠っている。夢の中でわたしに振り回されているのかも、と思うのは自意識過剰かな。

 でも、わたしが桑島テツを振り回す。

 それは決まっていること。

 それが決めたこと。

 テツくんの顔をふたたび見る。

 あふれる感情がある。

「――スキ」

 言葉にして、わたしは言葉と逆の行動をする。

 軽いものだ、でも、わたしには勇気が必要だったこと。

 愛の証明にはなれない。

 わたしは今のうちにできる行動をする。

 未来の確認。

 携帯端末の確認をする。

 次に取る行動を彼女が提案する。

 すごく、勇気がいる。

 正直、生きているテツくんと一緒に暮らしているだけでも、わたしはすっごいドキドキする。

 プラン通りに行こうとすると、心臓が破裂するんじゃないかって思っちゃう。

 いつの間にか、雨がやんでいることに気がつく。

 テツくんの、パパとの契約を果たそう。

 具体的には料理、と整理と、快適な目覚め。

 パパにタオルを掛けて、わたしは教を始める準備に取り掛かった。

「さー、がんばりますか」

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