第4話 誰かのいる生活

 当然だが、ぼくは明を自分の娘だとは思っていない。

 認知してくれといわれても認めない往生際の悪いロメオではないんだが。

 だが、ロメオの立場ではないとすると、ロメオになる前の異性同士の関係になる。

 前の彼女と別れてだいぶ立つし、そっち方面の誘惑を明に対して抱いていることになる。

 その前に飯か、とぼくはいう。

 その前ということはその後に明を襲うといっているようなものだ。そう気がついて自制心が働く。

「じゃ、わたし作るよパパ」

 これである、明はキビキビと動き出し、冷蔵庫はどこと指示を仰いだ。

 パパと呼ばれるのは男としては複雑だ。

 ぼくのイメージでは普通に家庭を持っていて娘からいわれるパパと、見知らぬ女の子からセックス目的金銭目的でいわれるパパの二種類がある。

 セックスに関していえばぼくとて男だし、老人のように枯れているわけじゃない。

 パパという発言以外は明は結構好みだ。

 女性の属性をきれいと可愛いで一つの軸とすれば、明はきれいであって少し可愛いによっている。

 顔の作りも柔らかそうでいてシュッとしてシャープだ。

 明が思っている関係からしたら不純だが、恋愛や性交渉をする相手としては抱きしめたら壊れてしまいそうで、怖かった。

 明は冷蔵庫を開けて使えそうなものを探している。しかし、見つからないだろう。

「パパ、自炊とかしてないの」

「未来のぼくがどうとかは知らないけど、基本的に外食だぞ」

「だーめなんだー、栄養偏るよ?」

「未来は食事はどうなんだ? SFみたいな完全食とか、命を殺さないで生きられる神様気取りができるようになってるのか?」

 流石にできないよ、と明はいう。

 過去への遡行はできても今でもできそうな食料改善ができないというのは難度の認識が違うのか。

「お酒とパン、キムチくらいしかないじゃん」

「朝はトースト、夜は日本酒とキムチって食生活だ」

 お米食べようよ、と明はいう。

「パパ、買い出しに行こ?」

 と、ぼくはそろそろ切り出すことにした。

「明、ぼくが君をいつまでもおいていくと思ってるのか?」

 可愛い女の子であるけど、真とすれば未来の娘、偽とすればなにか思惑のある得体のしれない相手、となる。

 真を信じられないし、偽に寄り、事実であれば怖くはある。

 ただ、言葉が強く出られないのは、明がどういう立場であるにせよ、ぼくを助けた人物だ、ということだ。

 明の行動は客観的に見て不可解だ、理解が及ばない。

 善意ではある。善意であるなら全てを許容できるわけではないが、少しは許せる。

 だが、それはそうとして、明がいつまで一緒にいるのか、というのは不安材料だ。

 衣食住はそうだし、関係性がどう転ぶにせよ灯という興味が湧いた異性もいる。

 明はにこやかにいう。

「パパが出ていけっていったら、出ていくよ」

 それは、ぼくはいう。

「それはずるいぞ」

「わたしだって女の子だもん、女の子は可愛いっていう嘘を着ているんだよ?」

 ママはそういってたよ、明はいう。

 演劇畑の人間であるのならそういう感性にも説得力はある。

 ぼくが憮然としていると、明は困ったような笑顔を浮かべて、こういう。

「わたしを信じられないなら、家政婦さんとでも思ってよ、契約期間はパパの仕事が決まったら」

 未来でまた会お? 献身的な笑顔にぼくは、困る。

 困っている顔なんて見せられず、ぼくは携帯電話をいじって、買い物への同行を認めた。

 さしあたっては着替えも必要だな、と思う。

 行動順番としては、古着屋、スーパー、ランジェリーショップといったところだろう。

 まずは着替えなくては、リクルートスーツを着た男と、制服を着た女の子の関係性にいい印象はないだろう。エンのコウと思われてもおかしくはない。

「着替えてくるから、少し待っててくれ」

 奇妙だな、この同居生活の始まりをぼくはそう思った。

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