第3話 放課後③
薄暗い教室…。人影…。
それが誰だかわかるまでに少し時間がかかりました。
雲の間から夕日がさして、光が教室の中までさしこみ、その人物を照らします。
時間は午後4時過ぎくらい。
夕日に照らされたその人は…。
幽霊?
いやいやよく知っている人。
そうです。太郎くんでした。
「あっ、太郎くんだ。」
思わず声をかけそうになったところで、太郎くんの様子や持っているものが気になり、声をかけるのをやめました。
太郎くんはその手にハーモニカを持っていました。
「太郎くんもハーモニカを忘れたのかな。」
少し様子を観察していると、太郎くんは持っているハーモニカを口元に。
「ここで練習するのかな。吹き始めたら、声をかけて驚かそう。」
そんなことを考えて、その時を待っていましたがハーモニカから音がしません。
「何をしているのかな。」
よく見てみるとハーモニカを舐めていました。
どのくらいの間でしょうか。
「いつやめるのかな。」
と思うくらい、ハーモニカを舐めていました。
タイミングを失って声をかけられなくなり、その様子をずっと見ていると、太郎くんはハーモニカを机の中に片付けました。
「あれ?あの机は…!?」
そうです。あれは私の机!
ということは…あれは私のハーモニカ!?
何が起きたのかわからず、とりあえずは太郎くんに気がつかれてはいけない。と考えて、そっと隣のクラスに隠れました。
太郎くんは私に気がつかずに帰っていきました。
誰もいなくなった教室。
ゆっくりと自分の机に近づき、机の中から恐る恐るハーモニカを取り出すと、ずっと握られていたためか、生暖かく、それが余計にぞっとさせました。
「私のハーモニカ!めっちゃ舐められてた!」
見間違い?いやいや、あれは太郎くんだった。
ハーモニカは生暖かいし。
誰かと間違えてやったのかな?
いや、机には名前のシールが貼ってあり、ハーモニカにも名前が書いてあります。
ハーモニカを見つめていたから、私のだとわかっているはず。
幼いながらも、恐怖を感じて、それまでの淡い恋心は崩れ落ち、ただただ気持ち悪い男の子というイメージに一瞬で変わりました。
ハーモニカを持ち帰り、何度も何度も洗いましたが、それで練習をする気持ちにはなりません。
洗ったのでキレイにはなりましたが、そのハーモニカを見ると舐めていた姿を思い出して気持ち悪くなるため、吹くことができませんでした。
翌日、本当に吐き気や腹痛が起こり、学校を休みました。
ハーモニカは失くしたと話して、両親に叱られはしましたが、新しいものを買ってもらいました。
その後、太郎くんを避けるようになった私。
太郎くんの顔を見ると思い出してしまうあの光景。
4月になり、クラス替えで別れ別れに。
ホッとしたのを覚えています。
今思えば、太郎くんも私のことを気に入っていたのかもしれません。
ハーモニカさえ舐めなければ…。
今でもたまに思い出すあの場面。
好きだった人を一瞬で嫌いになる貴重な経験でした。
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