第9話

先輩を正座させる。結構気持ちいい。


「先輩の服は大体、こういうダボっとした服です。動きやすいですし、圧迫感がないので着やすいですよね。それに、ちょっと太ったかも?体型が崩れちゃう!なんて時も体型を隠せて結構マストなものですね」


先輩の服はちょっと私より大きいぐらいだ。身長はさほど変わらないのに。


「先輩、スタイル良いのでわざわざ隠すのはもったいないです。身長も全然基準に達してますし」


お気に召しはしませんか、好きな系統ばっかりで他のを試して見なかったパターンですね。


「今日の予定を知ってますか、先輩?もう洋服屋にいるはずだったんです。なのに先輩が拗ねるからこうなってるんです。百聞は一見に如かず、です。まず行きましょう!」


ちょっと高い服屋さんに到着。ユ○クロとかし○むらとかもファストファッションでもいいんだけど、本気でコーディネートしようと思うとさすがに荷が重いかな。


ここから、先輩は物言わぬ人形となった。私の着せ替え人形と。


二時間後、二人の両手には大きい紙袋が携えられ歩くのにも多少の支障が出ている。


だが、片方は今にもスキップしそうなほど気分上々だ。このままクルクル回って他の客に迷惑かけてもおかしくない。


もう一方は、明確な意識はあるかと問いたい。足元も覚つかず目も正面見ていない。白目になりかけだ。


きずきは元々外出しないタチ。服選びなど、億劫も億劫も。男性諸君が服選びが面倒なのと同じだ。絆は試着なんてしないで適当に買って後悔したことだってある。


そんなのにいきなり澄玲を当てたら薬やってり人みたいになっちってしまった。澄玲にブレーキがなかった。


「メイク道具は少しでいいですかね~。練習も必要ですし、高校でも禁止されてますし」


時代錯誤もいいとこです。あ、これいいですね。・・・メイクも絆が入る隙間はなかった。いや、意識がなかった。きっとメイク選びに悩んでる澄玲の独り言も聞こえていない。


独り言も独り言であって、聞かれたとしてもまともに答えても意味ないだろう。本人の意思は固くかたまっていると思った方がいい。


あれだ、あれと同じ。女性が彼氏にやる"どっちが似合う"というやつだ。女性の中ではもう答えが決まっており、彼氏にとっては地雷ゲームみたいに化すやつと同じだ。


絆が意識を取り戻したのはお昼頃。


「秋。冬と確保できましたから次来るのは春用ですね。季節やトレンドがあるので服はいいですよね」


絆はまた放心状態になったとかなってないとか。








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