第4話

「どうですか?このメイク?かわいくないですか?」


今から十か月前、七月の頃のお話し。


やっとバイトの仕事も覚えてきて常連さんと仲良くなってきていた。


まだ、先輩を普通の先輩だと思っている。


「知ってるよ、地雷メイクって言うやつだ。あざとかわいい感じがして好きなんだよね」


「練習中なんですけど、うまくできたのでそのままで来ました。これバイトやっていいと思いますか?」


「いいと思うよ。華があったほういいからね、この喫茶店には」


「そんなこと言っていいんですか?」


私はにこって笑って合図する。


「事実だか・・・ら」


店長が先輩の側を通り過ぎる。店長はいつもと同じ笑顔。私は合図しましたから。そのどうしたらいい?みたいな顔でみつめてこないでください。


「いや、だ、から、僕もね、華になれるように努力をしていこうかなって?」


なぜ最後が疑問符に?それに慌ててすぎてジェスチャーがごちゃごちゃですよ。外国人とコミュニケーションでも取ろうと思ってます?


「華は私一人で十分ですし、先輩はどうせ私に勝てませんからやんなくて大丈夫ですよ。ということで、コーヒーを入れる練習しにいきましょ」


分かりやすく表情が変化する先輩。コロコロと表情を変えて犬みたいだ。


休憩室は狭く座れる椅子もひとつしかない。コーヒー豆に光を当てるのも悪いのでほのかに暗い。鍵をかければ密室だって完成する。


休憩室はコーヒー豆の保存室でもあり、息を吸えばほろ苦い匂いが鼻を通る。落ち着く匂いだ。


「焦った~、もう店長気配なさすぎ。妖怪かと思ったよ」


イスに座ってホッと一息つく先輩。


「店長って怒るとどうなるんだろね?気になってきちゃった」


「静かにぶち切れそうじゃないですか、もしかしてもう先輩に切れてたりして?」


「・・・やめてよ」


ぶるりと体を震わしている。今日一日は冷静に仕事できないだろうなぁ。


「ドーン!、先輩ここには何て言ってきたでしょ?」


私は先輩の膝の上に着陸!


先輩に脇腹を持たれてこそばゆい。先輩の息は首筋にあたってぞわぞわと腰から首に何かが駆ける。


仕掛けておいてなんだが思ったより恥ずかしいし、カウンターに負けそうだ。うなじはどんどん赤みを増してく。自分の心臓の音が恥ずかしい。


まだ何ともおもっていなかったはずなんだけど、先輩とは実は赤い糸で結ばれていたかもしれない。今じゃできない、大胆行動だ。


「コーヒーを入れる練習?」


「そうです!けど面倒なので豆の品種でも教えてくださいよ」


「えぇ~いいけど」


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