#7 波の音が聞こえた

 ヘトヘトだった。

 ついでに言えばお腹はペコペコで、喉はカラカラ、それで足元はフラフラの髪はボサボサ――要するに、わたしはそろそろ次のコロニーを見つけて休息と補給をしなければならない状況にあった。

 加えて温かいお風呂があるならそれは良い――大いに良い。

「イドさぁ」

 ふと思いついたことがあって、わたしは旅の同行者に呼びかけた。

 会話に無駄なく賢いわたし――これこそ体力を浪費しない為の旅人の智慧、というわけではなく、ただ空腹と疲労で長く話すのが億劫めんどうだった。

「ズイブンなですね、アイビィ。なんですか? ちなみにワタシは食用キカイではないのでそのようにギラギラした瞳を向けられても困ってしまいます」

 流石にそこまで正気を失ってはいない。イドは食べられないなんて当たり前だ。だって食用のキカイじゃないから。あれ、キカイって食用があるんだっけ?

「アイビィ。それで、なんでしょうか?」

 何処か遠くへ飛びそうになっていたわたしの思考をイドの声が引き戻す。

 そうだ、キカイだ。イドのようなキカイなら、

「こう、近くのコロニーの気配みたいなヤツとか、感じられない? イドってそういうセンサーの塊なんでしょ。だから、気合でさぁ」

「気合でさぁ――と、言われましても。ワタシの感覚はあくまでワタシが所有者とコミュニケーションする為のモノですから、そのような使い方は想定されてないかと」

「諦めるの? アナタの可能性せいのうを信じようよ! もうお腹も空いたし喉も乾いたし、ついでに疲れたし、お風呂にも入りたいの!」

「必死ですね。まあ、分かりました。ほんとうにワタシを齧りだされても困りますから、やってみますが――」

 それから十秒ほど経って、「アッ」とイドが声を上げた。

「エッ――ホントに何か見つけたの?」

 イドがそんなに出来デキるキカイだったなんて!

「はい、聞こえました!」

 あまり期待していなかっただけに喜びと驚き半々という感じだけれど、イドの方は強く振動して喜色満面といった様子で、むしろわたしはその反応に驚いた。

「おおー。で、何が聞こえたの?」

「これは――『音』――波の音が聞こえます」

「波って、海の?」

「はい、おそらく。此処から東に行けば海を見られるかと。さあガイドします、行きましょう」


    ★


 わたしの相棒は、失った記憶を探しているのだという。

 その失った記録とは『波』に関することらしい。

 イドの話しによれば、『波』といっても海の波のコトかどうかは分からない、ということだったが――果たして、あるのだろうか?

 これから行く場所に、イドの記憶の欠片は。

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